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  • 2019/08/07 掲載

野口悠紀雄氏:金融の未来はどう変わるのか? 中国で台頭する「デジタルレーニン主義」

FinTech Journal創刊記念インタビュー

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ブロックチェーンは金融業を根本からくつがえしうる革命的技術で、たとえば中央銀行がこれを利用すれば、銀行は不要になり、社会も一変する可能性がある──早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問で、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏はそう語る。中国ではすでに “デジタルレーニン主義”と呼ばれる国民完全管理が台頭する可能性があるという。いったい、この先どのような世界が私たちを待ち受けているのか。野口氏に詳細を聞いた。
聞き手:編集部 松尾慎司、構成:吉田育代

聞き手:編集部 松尾慎司、構成:吉田育代

画像
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
一橋大学名誉教授
野口悠紀雄氏

銀行業の「外で起こった」技術進歩で、その業務の一部が奪われつつある

 今、世界の金融業に新しい波が押し寄せています。それがフィンテックと言われるもので、ITを金融の世界に導入することです。

 金融業は本来、情報を扱っている産業で、もっと早くからITの影響を受けてもよかったわけですが、そうではありませんでした。

 それは金融業が規制産業で、参入が規制されているために新しい技術を取り入れるというインセンティブが働きにくかったからです。それが今大きく変わりつつあり、この波は世界的に金融の世界を大きく変えていくと思われます。日本も遅ればせながら、その波に追いつこうとしています。

 日本政府が日本再興戦略などでフィンテックに言及していますが、私は政府がさまざまな政策を行うことがその産業の成長にとって望ましいことかどうか疑問に思っています。一般的にいえば、政府介入は技術進歩の導入や産業の成長の妨げになる場合が多いからです。

 フィンテックは一般的に、金融業界の中からではなく、その外で、スタートアップ企業がこれまで金融業がやってきた業務を新しい形態で行うことで生まれてきました。日本の場合、そういうことがこれまで起こりませんでした。話題となっているQRコード決済というのは、銀行業以外のところで起こった技術進歩が、これまで銀行が行ってきた送金業務の一部を奪おうとしているという動きの一つです。

 ただ、QRコード決済はブームではあるけれども、これは送金革命の本命ではないと思っています。送金業務のフィンテックは非常に重要な問題で、私はその本命は、フェイスブックのリブラのような仮想通貨だと考えています。

 前者は電子マネーですが、電子マネーと仮想通貨はまったく異なる技術です。その違いは、ブロックチェーンを利用するかどうかにあります。

 電子マネーにはQRコード決済のほか、SuicaやWAONなどさまざまなものがありますが、銀行預金やカードに入金した金額を引き落とすという仕組みです。

 その意味で、これは従来の銀行における預金システムの上に乗った仕組みであり、それほど革新的な技術ではありません。もちろん、それによってキャッシュレスが可能になるので意味がないとは言いませんが、新しい技術ではありません。


ブロックチェーンを用いた送金手段はなぜ革新的なのか

 革新的な技術というのは、ブロックチェーンを用いた送金手段です。これには大きく3つあり、1つ目にビットコインのようなパブリックなブロックチェーンを用いた仮想通貨があります。

 2つ目として、日本のメガバンクがブロックチェーンを用いた仮想通貨を投入しようとしています。三菱UFJ銀行が2019年中に導入するのではないかと報道されています。

 3つ目が、中央銀行がブロックチェーンを用いた仮想通貨を開発しようという動きです。これが起きれば、送金の仕組みが一変します。というより、社会が一変する大きな変化となります。

 こうなると、まず銀行の預金が不要になります。預金がなくなれば、銀行は不要になるため、銀行が消滅します。これが第1にもたらされる非常に大きな問題です。つまり送金決済が、中央銀行の仮想通貨だけで行われるような世界になるということです。

 第2に生ずる問題は、中央銀行が仮想通貨を発行する場合に、個人や企業に秘密鍵を渡すわけですが、その際にたぶん、本人確認をするだろうと思われます。つまり、中央銀行は秘密鍵の保持者を知ることができるわけです。

 仮想通貨の取引は暗号を用いて行われるので、誰がどういう取引をしているかは分かりませんが、この場合は中央銀行は把握できることになります。ということは、中央銀行だけが、世の中のあらゆる取引を細大漏らさず把握できるということです。これは使いようによっては驚くべき管理手段です。

 今、各国の中央銀行は、仮想通貨に関する調査を行っています。特に熱心なのがイングランド銀行とスウェーデンの中央銀行、それから中国の中央銀行です。先ほど指摘した2つの問題、「銀行がなくなる」「中央銀行にプライバシーが知られる」ということがあるために、西側諸国でこれを実際に導入できるかどうかは分かりません。

【次ページ】“デジタルレーニン主義”の台頭も可能にする中央銀行の仮想通貨発行
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