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クレジットカードの国際ブランド3社(VISA・Mastercard・銀聯<Union Pay>)は2022年11月30日、日本において小売店などの加盟店が決済に利用されたカードの発行会社に払う手数料の標準料率を公表した。これまで非開示だった料率が開示されたのは、キャッシュレスの推進にあたって国際的に高いとされてきた日本の加盟店手数料の実態を明らかにして、引き下げを目指そうとする政府の動きがあった。ここでは、そうした背景と、今後の影響について説明したい。
キャッシュレスの推進とカード決済手数料
経済産業省は2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、キャッシュレスの推進を国策として進めていく方針を明らかにしている。その中で都内の飲食店のキャッシュレス決済手段の主役であるクレジットカード受入状況が2017年10月時点で約3分の1にとどまっていることが指摘されている。
さらに、クレジットカード決済を加盟店が導入しない理由を調査した結果、「手数料が高い」という理由が4割強と、最も高い阻害要因として認識されている。経済産業省によると、クレカの決済手数料は米国の2%台に対し、日本は3%台と先進国では高い。日本ではカード発行会社に払う手数料が2.3%あり、手数料の7割ほどを占めている。
<クレジットカード決済の仕組み>
さらに経緯を理解するには、クレジットカード決済の仕組みを理解する必要があり、下図で説明したい。
カード決済の流れ(イシュア<クレジットカード発行会社>とアクワイアラ(加盟店管理会社)が異なるいわゆる「オフアス」取引の場合)
(1) | カード会員が加盟店にて、クレジットカードを用いて商品を購入 |
(2) | 加盟店は、アクワイアラに商品代金を請求 |
(3) | アクワイアラは、国際ブランドを経由して、イシュアに商品代金を請求 |
(4) | イシュアは、国際ブランドを経由して、アクワイアラに商品代金の立替払をする イシュアは、当該立替払をする際に、インターチェンジフィーを差し引く |
(5) | アクワイアラは、加盟店に商品代金の立替払をする アクワイアラは、当該立替払をする際に、加盟店手数料を差し引く |
(6) | イシュアは、カード会員に商品代金を請求する |
(7) | カード会員は、イシュアに商品代金を支払う |
(8) | イシュアおよびアクワイアラは、国際ブランドに手数料を支払う |
(この他に、CAFISなどのネットワーク利用料やアクワイアラのシステム利用料などのコストが必要となるが、利用条件によって異なるため、説明が複雑となるので、本稿の説明では省略)
ここで重要なのが、イシュアはアクワイアラに商品代金の立替払をする際(図のプロセス 4)に手数料として「インターチェンジフィー」を受け取ることになる点で、この料率はイシュアとアクワイアラの間で個別に決めることはできるが、実際は個別設定しているケースはなく、国際ブランドが設定した標準料率が適用されることになる。
そして、この標準料率がこれまで公開されていなかったことが、次項の公正取引委員会の指摘につながり、今回の公開につながったというわけである。
公正取引委員会の指摘
クレジットカードの決済手数料が、国際水準よりも高いという問題意識にもとづいて公正取引委員会も実態の解明に動き、2019年にクレジットカードに関する取引実態調査を公表している。
国内で使用されているさまざまなクレジットカードの大半は国際ブランドカードであり、クレジットカード市場が少数の国際ブランドによって占められているにもかかわらず、多くの国や地域で公開されている「インターチェンジフィー(前項で説明したクレジットカード決済を導入している加盟店が決済を行う際にカード発行会社に支払う手数料)」の標準料率が公開されていない。
このため、「市場の透明性を高めるためには、「インターチェンジフィー」の標準料率を公開することが望ましい」と
指摘した。
公取委は、2022年4月にも「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書」を発表、すでに60超の国で国際フランドの標準料率が公開されており、標準料率が公開されれば手数料の引き下げにつながる競争が促進されることから、「標準料率を定めている国際ブランドにあっては,我が国においても,標準料率を公開することが適当」と料率公表を求める考えを改めて
示した。
【次ページ】開示された標準料率と、手数料開示の影響とは?