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昨今、さまざまな業界で進むAI活用。たとえば、製造業では画像認識技術によって製造ラインの品質管理が自動化され、建設業では道路や構造物の異常検知に、小売業では需要予測にAIが活用されている。金融業界では、国内金融大手のSBIホールディングスが、組織を横断して活動・研究を進めるAI専門のCoE(Center of Excellence)組織を立ち上げ、全事業におけるAI活用を目指している。本稿では、同社の取り組みを紹介する。
本記事は2021年6月10日開催「AI EXPERIENCE(主催:DataRobot)」の講演を基に再構成したものです。
提供価値の向上を目指し、グループ全社でAI活用を促進
企業の活動には必ず目的と理由がある。SBIグループがAIを通して実現しようとしているのは「顧客中心主義の徹底」だ。同グループはインターネットを通して、証券、銀行、保険、住宅ローンなど多様な金融商品を提供している。AIの導入によって、それらサービスの価値の向上を狙っている。
SBIホールディングス社長室ビッグデータ担当次長の佐藤 市雄 氏は「SBIグループは金融商品を通して顧客の資産を預かっています。預かった資産は適切に運営して、最大限の価値を提供しなければいけません。SBIグループではこれを『顧客本意の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)』として、事業構築における基本事項としています」と話す。
この「顧客本意の業務運営」を実現するために、同グループでは「AI活動の高度化」と「AI活用を自走する組織化」を掲げている。
AI活動の高度化とは、ビジネスにおける意思決定を可能な限りAIに置き換え、提供価値とサービス競争性を高めることを指す。一方、AI活用を自走する組織化は従業員自らがAIを用いてビジネス課題を解決できるよう、組織構築と人材育成を実施することである。要約すれば、社内の技術リテラシーを高め、従業員が率先してAIを活用できる環境をつくり、サービスの価値を高めていくことを目指している。
その構想を実現するため、グループ内では従業員の市民データサイエンティストの育成に力を入れているという。具体的には、座学と実践の場を用意し、従業員に「Data Prep」「AutoML」「MLOps」など機械学習技術の教育プログラムを提供するほか、実業務で訓練することで従業員の応用力を高めている。
加えて、グループ各社の役員には教育研修を通して「AI活用のテーマ設定」や「トレンドの把握」「CoE構築論」など、経営におけるAIリテラシーの取得を促している。これらの施策を通して、「2023年度には全事業への人工知能導入を目指し、120件のプロジェクト実現」を目標に掲げている。
同グループの構想において旗振り役となるのが、佐藤氏が所属するCoE組織(≒横断組織、中央組織)である「社長室ビッグデータ担当」だ。2012年に社長直下のチームとして創設された同チームは、後述する「ローカルCoE」と共にAI活用を推進しているという。
CoE組織の役割分担で、効率的にAI導入を推進
社長室ビッグデータ担当の主な役割は、グループ内データの収集や整備、分析基盤の構築とデータ分析、データ活用に向けた法的整備、外部企業との連携推進などだ。チームにはデジタルマーケターやエンジニア、データサイエンティストが所属し、AIを用いたイノベーションの中心を担う組織として活動している。
グループ各社には「ローカルCoE」組織が設立されている。佐藤氏が所属する社長室ビッグデータ担当はホールディングス全体に共通する「難易度が高いテーマ」を扱い、ローカルCoEはドメイン知識が求められる「専門性の高いテーマ」を扱うという。社長室ビッグデータ担当がローカルCoEからノウハウを集め、集約して各社に再分配する体制を構築している。
もちろん、グループ各社の事業領域が異なれば、現場のニーズやドメイン知識も異なってくる。組織全体を横断できるCoE組織でも、必要な知識をすべて把握することは難しいだろう。そこでSBIグループでは、CoEとローカルCoEが役割を分担したのだ。
その結果、ノウハウの応用が進み、さまざまなプロジェクトへAIを活用しやすくなったという。ホールディングス規模の巨大なチームにおいて、CoEの役割分担は参考になる事例だと言える。
【次ページ】SBI損保ではどのようにAIを活用しているのか