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暗号資産交換業で世界2位の規模を誇ったFTXトレーディングが11月11日、日本法人「FTX Japan」を含む130社が対象に米連邦破産法11条(チャプターイレブン)の適用を申請した。負債総額は約7兆円程度とみられ、現在は辞任したFTXを創業したCEOのサム・バンクマンフリード氏(Sam Bankman-Fried、以下SBF)の杜撰な企業経営や運営が徐々に明るみに出始めている。かつて「業界の優良児」「白馬の騎士」ともてはやされたSBFに一体何が起こったのか? これまで明らかになっている情報を基に、FTX事件の経緯を解説する。
「業界の優良児」「白馬の騎士」だったSBF
負債総額およそ7兆円にのぼると見られているFTX問題。その負債規模のみならず、次々と明らかになるSBFによる杜撰な企業経営に、業界関係者は驚きを隠せない。破綻処理を行う後任として新CEOに就任したジョン・J・レイ氏は、過去にエンロン事件の清算も請け負った企業再生の専門家だが、米デラウェア州の連邦破産裁判所に提出した宣誓書の中で、FTXについて「私の過去のキャリアにおいて、このように企業統治が完全に機能不全で、信頼できる財務情報が完全に欠落している状態を見たことがない」と述べるほどだ。
エンロン事件よりも事態が深刻・かつ悪質である可能性を示唆した。一体何が起こったのか、これまで明らかになっている情報を元に解説する。
まず、FTXはどんな企業で、SBFはどんな人物だったのか。
SBFは1992年に米カリフォルニア州サンノゼで生まれた。両親は共に、米スタンフォード大学法学部および法科大学院の教授であり、自身も名門、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業し、2017年に自身の個人投資会社アラメダ・リサーチ(Alameda Research)を立ち上げた。
2年後の2019年に暗号資産取引所「FTX」を創業。安価な取引手数料、豊富な取引オプションなどを売り、近年では最大手取引所のBinance(バイナンス)に次ぐ取引高に成長していた。2022年1月にはシリーズCで約460億円を調達し、企業評価額は創業からわずか3年で3兆7,000億円と急成長。シリコンバレーの老舗VCであるセコイア・キャピタルが約2億100万ドル(約310億円)、孫正義氏率いるソフトバンクVision Fund 2も1億ドル(約140億円)を出資するなど、世界各国から有望視され、期待されていた業界の超優良児だったのだ。
SBF個人も成功者として知られ、21年時点で「ブルームバーグ・ビリオネアインデックス」500位に入り、資産は2兆円以上と推定されていた。米民主党政権とも近しく、中間選挙前には民主党に3,990万ドル(約56億円)を寄付しており、個人の政治献金額ではトップ10に入っていた。
SBF本人も、飾らない人柄やライフスタイルで知られていた。ビーガンで、GパンとTシャツのようなカジュアルな服装を好み、車はカローラ。オフィスに寝袋を持って泊まり込む。睡眠時間は4時間程度。VCから巨額の資金を調達して、夜な夜なパーティーを繰り広げるようなITベンチャー企業家とは対極的な好人物と見られていたようだ。
一方で、FTXとよく対比されていたのが、業界1位のバイナンスだ。バイナンスは2017年に中国系カナダ人の趙長鵬(チャンポン・ジャオ、通称CZ)氏によって創業されたが、各国の規制当局の許認可を得ないまま無許可でサービスを提供し、警告を受けると新規口座開設を取りやめるなどの営業スタイルを各国で繰り返していた。
日本でも、2021年6月に金融庁が「無登録で暗号資産交換業を行う者について」と文書で警告。登記地もしばしば変更され、マルタに移したあと再移転したのかも明らかではなく、金融庁の文書でも所在地は「不明」。ちなみに、無登録の金融事業者のサービスを使うこと自体は違法ではないが、破綻した場合に日本の法律に基づく保護を受けにくくなる可能性が高い。
一方で、FTXは2022年2月に金融庁登録の暗号資産取引所「Liquid」を買収。金融庁登録事業者として6月2日に「FTX Japan」をローンチし、日本人に対して合法にサービスを提供し始めた。7月18日からは米ロサンゼルス・エンゼルスで活躍する大谷 翔平選手を起用したCMも放映。大谷選手はFTXのグローバルアンバサダーにも就任し、すべての報酬を株式と暗号資産で受け取ることも発表され、これはFTXに対する高い信頼度の証左とされた。
FTXのアンバサダーには、ほかにもプロテニスプレーヤーの大坂なおみ選手、NFLのトム・ブレイディや、スーパーモデルのジゼル・ブンチェンや米NBAのゴールデンステイト・ウォリアーズなど、生半可な企業には首を縦に振るはずのない、そうそうたる面子が名を連ねていた。しかし今やこうしたアンバサダーたちも、FTXに対する米投資家の訴訟で被告に名を連ねる羽目に陥ってしまった。
バイナンスがいわゆる暗号資産業界らしい事業者ならば、FTXはその正反対を行く「業界の優良児」、なぜそのFTXが。という驚きの声がTwitter上にあふれた。しかも転落の端緒から破産法申請まではわずか10日に満たない。一体何が起こったのか。
破産申請までわずか9日間
暗号市産業界の優良児、FTXが、破産まで一気に転げ落ちたのはわずか10日あまりの出来事だった。スピードの速い暗号資産業界はTwitterと親和性が高く、まとまった暗号資産の保有者や業界関係者の多くはTwitterで情報収集を行っている。しかし今回ばかりは、「寝て起きるたびに事態が変わっている」「もう付いていけない」──。急転直下の出来事に多くの暗号資産関係アカウントが大混乱に陥った。
簡単に時系列で解説すると、以下のとおりだ。
まず11月2日、仮想通貨メディア「CoinDesk」がSBFの個人投資会社、アラメダ・リサーチの財務状況に大きな懸念があるとする記事を発表。
記事によれば、コインデスクが独自に入手した資料によると「アラメダの資産146億ドル(約2兆500億円)のうち、約36億6,000万ドル(約5,100億円)が自社が発行するFTXトークン(FTT)で、21億6,000万ドル(約3,000億円)はそのFTTの担保である」というのだ。
FTTはグループ会社のFTXが独自に発行するトークンであり、理論的には価値がゼロになるリスクがある。また、AlamedaとFTXの保有量が多すぎることから、市場流動性が圧倒的に低く、有事の際は即時の現金化が難しい。両社が現金を得ようとして一気にFTTを放出してしまえば、値が下がってしまうからだ。
CoinDeskの記事はこの2つの懸念を示唆するものだったが、この時点では「業界の優良児」FTXやそのトークンFTTの価値は高く、人々はそこまで問題視することはなかった。11月6日には、AlamedaのCEOであるキャロライン・エリソン(Caroline Ellison氏)はTwitterで「その貸借対照表は当社の企業グループの一部であり、我々にはそこに反映されていない100億ドル以上の資産がある」と声明を発表し、Twitter上の疑念の声を払拭しようとした。
ところが翌7日、事態は急速に悪化する。端緒はFTXのライバル、バイナンスのCEOであるCZのこんなツイートだった。
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