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『銀行を淘汰する破壊的企業』を執筆した米ベンチャー投資家 山本 康正氏と、銀行のデジタル部門で20年以上在籍した経験を持つHead of FINOLAB 柴田 誠氏が、テクノロジーがもたらす銀行ビジネスの変化と必要な対応について対談した。日本の銀行がテクノロジーの変化にうまく対応できていなかった歴史について語った前編に続き、後編では、現状で銀行がどのように変化に対応すべきかの道筋や、変化に対応する組織の条件について議論が展開された。
フィンテックブームで日本の状況は変わったか
Head of FINOLAB 柴田 誠氏(以下、柴田氏):前編では日本の銀行がテクノロジーの変化にうまく対応できていなかった歴史について言及がありました。一方、最近では日本の銀行もベンチャー投資を行うようになっており、状況が変わりつつあるようにも感じています。
米ベンチャー投資家 山本 康正氏(以下、山本氏):とはいえ、まだまだ足りないのではないでしょうか。年間のベンチャー投資は、日本で3,000~5,000億円といった水準ですが、米国は約6~8兆円となっており、10倍以上の差があります。
米国は、人口で日本の3倍、国内総生産(GDP)で5倍といった差があることを考慮しても、米国約8兆円に対して日本は1兆6,000億円といった水準、つまり現在の3倍以上にはなってほしいところです。
それに、ファンディングは公的支援などで増やすことはできますが、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)、CTO(最高技術責任者)などの経営人材で大企業からベンチャー企業に移る人がまだ少ない点が問題です。
ハーバード大学のロザベス・モス・カンター(Rosabeth Moss Kanter)教授は、「日本では最初は少数意見だったものが3割程に達すると組織全体が動く」と提唱しています。
以前はベンチャーで働くのは「怪しい」といったイメージがありましたが、(1)外資系テックベンチャーの急成長、(2)優良な大企業のエース級の人材がベンチャーで働くようになった、という2点から、最近ではだいぶイメージが変わりつつあるのは事実です。
それでも、経営人材に相当する40代付近の働き盛りの世代が住宅ローンなどで、所属先にロックアップされているケースが多い点はもったいないと思っています。
柴田氏:働き方の変化という点で、シニア層の活用も考える余地がありませんか? これまでの銀行は50歳を過ぎると関連会社や取引先に転籍して、60歳までもしくは最近では65歳までで引退するといったケースが多いのです。
そうしたシニア世代が経験や専門性を発揮できる仕組みになっていなかったので、ベンチャーエコシステムにシニア世代がもっと参加してもいいように思います。
山本氏:たしかに「還暦ベンチャー」が増えてもいいと思います。ベテランは経験とノウハウを提供し、若手は新しいアイデアを出すといったことでいいでしょう。
たとえば、ライフネット生命で、当時60代の出口治明さん(現:立命館アジア太平洋大学学長)と30代の岩瀬大輔さんが一緒に組んで、岩瀬さんが新しい知恵を出して行動し、出口さんが業界知識を元に規制対応などを担ったというのは、成功例として挙げられるのではないでしょうか。新型コロナで躍進もしています。
これからも、60代で経験とともに資産もあって老後の心配のないような人達が、30~40代の人と組んで新しい挑戦を行っていくのは日本の活性化という点ではいいモデルになるでしょう。特に、銀行のような規制業種についてあてはまるのではないでしょうか。
変化に対する邦銀の対応
柴田氏:それでは、こうした急激な変化の中で、日本の銀行が「破壊的企業」からの競争で淘汰されないためにはどうしたらいいのでしょうか?
山本氏:たとえば、ゴールドマンサックスがアップルと提携してカードを出したり、リテール業務に参入したり、日本での銀行業務参入を発表したり、多くのエンジニア人材を雇用するなど、矢継ぎ早に手を打っているのが象徴的です。これからの金融は発電所のようにインフラ化していくことが予想されます。
銀行が提供する機能やサービスを「クラウドサービス」としてAPIを介して提供するBaaS(Banking as a Service)という言葉で語られるように、他ビジネスとのシナジーが求められるようになり、銀行サービスが空気のような存在となってくる可能性が高いと思います。
決済のような基本機能は継続して求められていくのですが、既存の支店ネットワークやシステムインフラを前提とした従来の銀行モデルで、消費者の新たなニーズに応えることができるのかを見直す時期に来ていると思います。
したがって、10~ 20年の変化を見越した変革を行っていく必要が出てきています。たとえば、テクノロジーへの対応をすべて外注していては、変化のスピードの追いつくことができなくなります。また、テクノロジーが経営の根幹となってくることから、取締役会で長期的な動向をきちんと議論できるようにすることも肝要です。
そしてその議論を重機のコマツのように動画で社内、社外に伝えることも重要だと思います。「百聞は一見に如かず」で、単にイラストよりも、動画の方がよりリアリティを持って伝えることができます。
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