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日本人初のフルタイムF1ドライバーとして、日本のモータースポーツを切り開いてきた中嶋悟氏。ドライバー引退後も自身のレーシングチーム「NAKAJIMA RACING」を立ち上げ、モータースポーツ人気を支えてきた。そんな中嶋氏も現在はチームの監督業を後任に委ね、日本レースプロモーション(JRP)の会長職も退いた。70歳の節目を迎えた中嶋悟氏に、モータースポーツの変遷と現在、人財不足が叫ばれる業界の後継者育成の「中嶋流哲学」などをSeizo Trend編集部が単独インタビューで聞いた。
聞き手・構成:松尾慎司、執筆:鈴木健一 (鈴木ケンイチ)、写真:大参久人
聞き手・構成:松尾慎司、執筆:鈴木健一 (鈴木ケンイチ)、写真:大参久人
世の中が欲するように自然と舵が取られている
2023年の春、SUPER FORMULAのレース興行を主催する、日本レースプロモーション(JRP)の会長職を退きました。後任は、レーシングチーム「KONDO RACING」の監督である近藤真彦さんにお願いしています。
交代の理由はいくつかあります。もともと長くやり過ぎていたなと感じていましたし、70歳を迎え、ちょうどよい節目かなと。
また、2年ほど前から取り組んでいた
「SUPER FORMULA NEXT50」(ネクストゴー)のプロジェクトの最初の枠組みの整備がひと段落したため、ここから先は会長を交代したほうがいいと思ったのです。
ネクストゴーとは、国内トップフォーミュラ50周年(1973年の全日本F2000選手権の開幕から50年)という節目を迎えるモータースポーツ業界が、現状の社会問題と向き合いながら次の50年の発展に向けて取り組んでいるプロジェクトです。
このプロジェクトでは、「カーボンニュートラルへの挑戦」「デジタルシフト・エンターテインメント性の強化」「競技人口の増加・競技人材の育成」という3つの柱が掲げられており、各領域における取り組みは、ホンダやトヨタを中心とした企業などとも連携しながら進めています。
よく、会長を退いたことで、「寂しいのでは」と言われることがあります。でも、これはそういう場合ではないと思っています。要は、世の中の欲する方向に変わっていくということ。
僕がF1ドライバーとして現役の選手だった頃は、「もっと力を出せ」「もっと速く走れ」ということばかりがマシンに求められていました。でも、今は、それだけではなくなっていて、変わってきています。世の中が欲するように、自然と舵が取られているんだろうなと捉えています。
モータースポーツ人気はどうなる? 観客を増やす工夫
時代の変化に合わせて、レースそのものも大きく変化してきています。
たとえば、40~50年前のレースでは、自動車メーカーは技術開発競争の延長としてレースに参加していました。レースの技術を一般車両にフィードバックするという考えだったと思います。
つまり、昔はあまりエンターテインメント(エンタメ)の要素が意識されていなかったんですね。ただ、それでも当時は「すごい、すごい」と見てくれました。
ところが、オリンピックでもそうですけれど、だんだん商業的なエンタメとしてレースを見せていかなければ、経済的に成り立たないようになりました。
でも、昔は、そういうことをあまり意識していなかったんです。それでも見に来る人がたくさんいたんですよ。当時のファンは、エンタメとしてではなく、クルマに対する興味やパワーに対する興味を持っていた時代だったと思います。
そうした変化の中で、レースにいろいろな要素をくっつけて楽しんでいただく必要が出てきました。
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