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国際法人課税ルールをめぐる画期的な国際合意が2021年10月になされた。この合意による新たな租税条約は、経済協力開発機構(OECD)のBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの「行動計画1:電子経済の課税上の課題への対処」に関するもので、GAFAの戦略をも大転換させる可能性がある。本稿では、この合意の“2つの柱”について解説する。
デジタル課税、国際合意の要点とは
国際法人課税ルールをめぐる画期的な国際合意が、2021年10月になされた。この合意による新たな租税条約は、経済協力開発機構(OECD)のBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの「行動計画1:電子経済の課税上の課題への対処」に関するもので、従来の国際課税の原則を大きく変えるものとして注目される。
国際社会がデジタル時代の画期的な租税条約を締結 (OECD 2021年10月8日)
約130カ国・地域の参加したこの合意の内容は、以下の2つの柱に分かれる。
第1の柱は、伝統的な国際課税とはまったく異なる方法をデジタル課税について一部取り入れるもので、「世界全体で上げている売り上げが200億ユーロを超え、かつ、利益率が10%を超える多国籍企業を対象として、10%を超える残余利益の25%」部分に対する課税権について、利益が生じた国でなく、売り上げが生じた国に配分される。
第2の柱は、各国共通の最低税率の設定(15%)により、多国籍企業の租税回避を防止することを目的としている。
第1の柱:従来重視された恒久的施設と独立企業原則からの転換
「デジタル課税」第1の柱として挙げた「従来重視された恒久的施設と独立企業原則からの転換」とは具体的に何を指すのか。
従来の考え方では、外国企業の利益に対しては国際的に自国に課税権が認められてきたが、自国で利益が発生したかどうかは恒久的施設(Permanent Establishment:PE)の有無で判断された。PEとは支店や工場など経済活動に必要な物理的な拠点を指し、PEがあれば外国企業の利益に課税でき、PEがなければ課税できない、と考えられてきた。
また、自国で生じる外国企業の税務上の利益の大きさを決めるには、独立企業原則(Arm’s Length Principle:ALP)が適用される。世界中で多くのグループ間取引をしている多国籍企業は、取引価格(移転価格)の操作により、低税率国に利益を集めることができる。
こうした租税回避を防ぐための移転価格税制では、移転価格が第三者取引(独立企業間価格:Arm’s Length Price)との比較により、価格操作の有無が判断され、その結果に応じて追徴課税されることになる。
伝統的な国際課税ルールにおいては、PEとALPにより多国籍企業の各国で生じる利益が特定され、適正に課税されることを想定してきた。しかし、インターネット購買の世界規模での拡大によって、伝統的な国際課税ルールでとらえることができない問題が生じるようになった。
デジタル企業であれば、外国にPEを置かずにサービスが提供でき、ある国のデジタル企業が世界中で活動して得た利益に、PEが存在しない本国以外の国はまったく課税できないという極端な事態も生じる。
この代表的な例がアマゾン(Amazon.com)で、日本では千葉などに100%子会社のアマゾンジャパン傘下の巨大な配送センター(倉庫)を持ち、日本人を顧客とした大規模なネット販売ビジネスを展開しているが、アマゾン本社は日本政府に法人税をほとんど払っていない。
これは、「倉庫はPEには当たらない」(正確には「倉庫のさまざまな機能を活用した活動の全体が、準備的・補助的なものである場合には、PEには当たらない」)というのが従来の国際課税の考え方で、アマゾンのビジネスが日本の課税権には服さないことになるからである。
2009年に東京国税局が、アマゾンの物流会社を調査した結果、単なる倉庫以上の業務が行われていると認定し、PEとして課税処分を行った。しかし、アマゾン側は納得せず日米間の相互協議となり、結果として日本側の主張はほとんど認められず、係争内容は非公開ながら、アマゾンは法人税をわずかしか負担していない模様である。
そこで、日本は国際的な議論もふまえ、PE認定の人為的な回避に対応すべく、「これまで倉庫は準備的・補助的な活動としてPEではないとされていたが、倉庫が相互に補完的な活動を行う場合には、各場所を一体とみなして準備的・補助的な性格かどうかを判断する」と税制を改正し、アマゾンの倉庫は実質的にPEに判断され得ることになった。しかし、国内だけの法改正で、日米租税条約がそのままということもあり、アマゾンに対する課税に踏み切ることができなかった経緯がある。
今回のOECDにおける国際合意とは、従来のPEの有無とALPを基準としない新しい国際課税の概念として、「定式配賦(Formula Apportionment:FA)」と呼ばれる課税方法を導入することだ。
これにより、大規模な多国籍企業について各国間の利益と課税権のより公平な配分を確保することを狙い、アマゾンを含めてGAFAのような国際的な巨大デジタル企業に対する適正な課税に道を開くことを目指している。
課税対象が「世界全体の売り上げが200億ユーロ超、かつ利益率が10%超の多国籍企業」となっており、利益率を低く抑えている場合には課税できるとは限らない。とはいえ、デジタル取引を前提とした国際課税の考え方が導入された点は大きな意義がある。
【次ページ】「デジタル課税」第2の柱:各国共通の最低税率設定