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フィンテック企業が提供する金融サービス機能をAPI経由で利用できる「埋込型金融(エンベデッドファイナンス)」が注目されている中、既存の金融機関がフィンテック企業とのサービスの共創を阻む課題の存在も指摘されている。開発におけるその解決策とは何か。三菱UFJ銀行とマネーツリーが共同展開する家計管理スマホアプリ「「Mable(メイブル)」の事業展開を基に、大手金融機関とスタートアップが共創によりサービスを開発するための勝ちパターンを探る。
※本記事は、FINOLABが主催した「Embedded Financeが目指す近未来 ~FinTechリーダーが語る日本の金融~」での講演内容を元に再構成したものです。一部の内容は現在と異なる場合があります。肩書は当時のものです。
三菱UFJ銀行とマネーツリーが実践する「埋込型金融」
「金融業界に限らず、あらゆる業界で顧客接点のデジタル移行が加速しています。当行でも最初の顧客接点からデジタル化が進展されつつあります」──。まず、三菱UFJ銀行 デジタル企画部 調査役の植木 悠二氏は、ビジネスのデジタル化が進展する現状を説明した。
実際、同行では、インターネットバンキングにおける利用者数の増加幅が、2020年3月時点で前年同月比の3倍となるなど、インターネット経由での口座開設が加速しているという。その上で「手続きのオンライン化は重要ですが、デジタルを駆使して、その先にある顧客が求めている高度なサービスのデジタル化を実現することが重要だと認識しています」と語る。
その一環として、三菱UFJ銀行は2020年9月に個人顧客を対象とするPFM(個人資産管理ツール)「Mable」をリリースした。「お金の管理に慣れていない人向け」というMableはユーザーインターフェース(UI)や顧客体験(UX)を重視している。Mableの口座管理機能では、その支出の履歴や収支が一目で把握でき、「銀行だからこそできる機能」として、口座の使い分け機能を提供。貯金用のサブ口座を開設できるようにしたり、親口座からの資金移動(振り分け)をスワイプで可能にしたりしている。
「ただ、簡単なだけではなく、気持ちいいと思ってもらえる良質なUIを提供することにこだわっています。また、顧客データの分析からアドバイスを実施するなどのインテリジェンス機能を今後提供する予定です」(植木氏)
Mableは、資産管理アプリ「Moneytree」を提供するマネーツリーと共同開発した点も大きな特徴だ。
「当行は、使い分け口座開設や安心・安全な資金移動など銀行固有の強みを持っています。しかし、家計管理のドメイン知識を持っているわけではありません。そこに強みを持つテック企業であるマネーツリーと連携することで実現しました」(植木氏)
三菱UFJ銀行がコンテナを選んだ理由
UI、UXに注力しているというMableはどのように開発されてきたのか。
植木氏は、銀行と一般的なフィンテック企業との共創における一般的な課題として「概念実証(PoC)までは順調にいくが、プロダクションリリースの段階で銀行の本番環境に新たなシステムを構築することが困難になってしまうことが多い」と指摘した。
「銀行の本番環境では、開発ルールや活用ツール、作業の進め方などでハードルが高くなります。その結果、テック企業の強みであるパフォーマンスが発揮できない状況に陥ることもあります」(植木氏)
また、製品をリリースできたとしても、環境の変更作業が申請ベースとなるなど、テック企業の競争優位性を維持することが困難だと指摘する。
課題解決策として、三菱UFJ銀行ではアプリの動作環境を仮想的に構築する「コンテナでの納品」を受け入れている。環境に依存しないコンテナを活用することで、すべての開発プロセスをマネーツリーの環境で完結させるようにした。その結果、制約から解放され、CI/CDプロセス(継続的インテグレーション/継続的デリバリーを実現する体制)を構築できたという。
マネーツリー 取締役、最高プラットフォーム責任者・創業者であるマーク・マクダッド氏は「プロダクトのリリース後、顧客がどう反応するかを迅速に把握することが、PDCAサイクルの重要な部分となります。通常のリリースのサイクルやタイミングは月1回の頻度と聞いて戸惑いました」と開発当初を振り返る。
その上で「コンテナ納品では、行内での迅速なリリースのサイクルの運用が可能です。楽しく共創できていると実感しています」と説明する。
【次ページ】銀行へのコンテナ納品「2つの工夫点」とは