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社会経済全体のデジタル化が進む中、ブロックチェーン技術の活用を含め、金融のデジタル化が加速している。そうした中、金融庁は2021年9月15日に「第2回デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」を開催し、「グローバルステーブルコイン(GSC)」について議論した。低コスト・迅速なボーダレス送金や新興国の金融包摂が期待される一方、金融システムの安定性に対するリスクも指摘されている。今回は、グローバルステーブルコインについて解説する。
「グローバルステーブルコイン」とは何か?
グローバルステーブルコイン(GSC)とは、ステーブルコイン(価格変動が少なくなるよう安定した価値の維持を目指す暗号資産)の中でも複数の法域で取引され、相当量に達する可能性があるものを指す。ボーダレスで低いコストの手数料でデジタル決済や送金ができるため、国境を超えた法定通貨としても期待されている。
GSCの概要として「ステーブルコイン」との違いについて触れていく。
ステーブルコインとは、特定の資産などに対して、価格変動が少なくなるよう安定した価値の維持を目指す暗号資産(crypto-asset)のことを指す。価値安定化メカニズムを有する点や複数の機能が組み合わさっている点などが特徴となる。
ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの価格変動の高い仮想通貨に対して、ステーブルコインは価格安定を前提として、デジタル世界における新しい基軸通貨としての普及が期待されている。
ステーブルコインは主に以下の4つの機能を有する。
- (1)仕組みのガバナンス
- (2)コインの発行、償還、及び価値安定化
- (3)コインの移転
- (4)コインの保管、交換のためのユーザーとのやりとり
「グローバルステーブルコイン論争」の経緯と背景
GSCの有効性に関しては、日本国内のみならず世界各国で議論されてきた。その経緯を紹介する。
引き金となったのは、Facebookが2019年6月にステーブルコインプロジェクト「Libra(リブラ)」を公表したことだ。デジタル技術の発展やコスト、送金時間、アクセスといったクロスボーダー送金の課題などが背景にある。数十億人を超えるアクティブユーザーを抱えているFacebookの発表は、FacebookのユーザーがLibraを利用する巨大なデジタル通貨圏として注目が高まっていた。
その発表後、各国の中央銀行や金融機関などから反対の声が相次ぎいだ。現在は、国際的なグローバルステーブルコインに係る規制監督上の対応などに関する議論が行われている。
2020年3月には、証券監督者国際機構(IOSCO)が「グローバルステーブルコインの試み」の中で金融市場インフラのための原則(FMI原則)を発表。2020年10月には、金融安定理事会(FSB、Financial Stability Board)が「『グローバルステーブルコイン』の規制・監督・監視-最終報告とハイレベルな勧告」を公表している。
また、2021年7月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、以下のような声明が出された。
“我々は、いかなるいわゆる「グローバルステーブルコイン」も、関連する全ての法律上、規制上及び監視上の要件が、適切な設計と適用可能な基準の遵守を通して十分に対処されるまではサービスを開始するべきでないことを再確認する。”
このように、現時点ではGSCは時期尚早であり、適切なタイミングで議論・検討の必要があるとの見解を示されている。
日本ではこの9月にも、民間のイノベーションを促進しつつ、利用者保護などを適切に確保する観点から、送金手段や証券商品などのデジタル化への対応のあり方などを検討する「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」で言及されている。
グローバルステーブルコインのリスク「11項目」
GSCは、ボーダレスで低いコストの手数料でデジタル決済や送金ができるため、国境を超えた法定通貨としても期待される一方、金融システムの安定性に対するリスクがあると指摘されている。
GSCにおいて指摘される「金融システムの安定性」のリスクとしては、主に以下の11項目が指摘されており、システミックなリスクや実体経済に対する重大なリスクを生む可能性があると言われている。
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(1)金融の安定性
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(2)投資家等の保護
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(3)データ保護
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(4)AML/CFT規制の遵守
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(5)脱税
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(6)公正な競争
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(7)市場の完全性
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(8)健全なガバナンス
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(9)サイバーセキュリティなどのオペレーション
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(10)FMI(例:決済システム)の安全性
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(11)破綻・再建処理
【次ページ】GSCの機能から生じるリスクや脆弱性を解説