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近年、インシュアテック(Insurtech)が保険業界DX推進の原動力となっており、保険サービスそのものが大きく変わりつつある。巨大なレガシーである基幹システムの存在や保険業界における顧客接点の少なさなど、またまだ保険業界には解消すべき課題も多い。2021年1月には、金融庁による「顧客本位の業務運営に関する原則」が発表されたが、金融庁は保険業界をどのように展望しているのだろうか。顧客本位の保険サービスを実現するためのポイントについて、金融庁監督局保険課長の池田 賢志氏の意見を紹介する。
※本記事は、森・濱田松本法律事務所が2021年6月に開催したオンラインセミナー「顧客本位の保険サービスを実現するInsurtech」での講演内容をもとに再構成したものです。一部の内容は現在と異なる場合があります。肩書は当時のものです。
顧客本位の保険サービスを実現するための道筋とは?
保険サービスにおいて、いかに多様なチャネルを持つかは大きな課題となっている。生命保険の契約時と支払い時以外には顧客接点がないというケースが少なくないからだ。しかし、保険業界全体のDXが少しずつ進む中で、保険会社以外の企業が参入する状況が出現し、保険サービスも多様化しつつある。この状況を金融庁監督局保険課長の池田 賢志氏はこう評価している。
「個人的には、日本の銀行中心の金融システムは方向転換する必要があると考えています。銀行の預貯金や貸し出しを中心とした業務だけでは顧客のニーズに対応していくのは十分ではありません。個々のリスクや不安に対してアプローチしていける可能性を持っているのは保険という機能なのではないかと考えています。そういう意味ではさまざまなサービスが登場して、健全な競争が行われるのは歓迎すべきことだと、とらえています」(池田氏)
金融庁の発表した「
顧客本位の業務運営に関する原則」(改訂版)」には7つの原則が記載されている。
「顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表」「顧客の最善の利益の追求」「利益相反の適切な管理」「手数料等の明確化」「重要な情報の分かりやすい提供」「顧客にふさわしいサービスの提供」「従業員に対する適切な動機づけの枠組み等」の7つだ。特にポイントとなるのは「顧客の最善の利益の追求」であると、池田氏は強調している。
「この原則は幅広い金融事業者のみなさんに、金融庁の考え方に賛同して採択していただいて、業務の指針としてもらうものです。あくまでも原則なので、こうでなければならないという強制力はありません。それぞれがKPIを設定して、自主的に取り組んでもらうものだと考えています。保険会社のみなさんにも、これらの原則を採択していただき、自主的にKPIを公表しているのが現状です。設定されているKPIの中心になっているのが『お客さま満足度』です」(池田氏)
「お客さま満足度」を追求することは、そのまま顧客本位の保険サービスを実現することにつながっていくのだろう。
多様化する保険商品に対応した顧客本位のサービス
「保険というものには、顧客の意向の確認と把握をしたのちに商品提供をし、保障対象になる事象が起きた時に保険金を支払っていく、という一連のプロセスがあります。募集、契約、管理、保険金の支払いというアプローチが一般的だと思うのですが、それぞれのフェーズごとにいかに満足度を高められるかが重要だと考えています」(池田氏)
顧客本位の保険サービスを実現する上では既存のチャネル以外に、新たなチャネルを開拓していくことが必要になるだろう。池田氏はこう説明する。
「保険はサービス業なので、どういうところに顧客の潜在的なセグメントがいるのか、そしてそのセグメントの特性とはどんなものなのか、どういうチャネルを使って、そのセグメントのニーズを満たしていくのかを考えなければなりません。そのニーズを満たすことが顧客本位の保険サービスの基本的な部分になってくるからです。戦略を立ててサービスを展開し、新たに顧客になってもらうことができたならば、その顧客から得られるデータを分析して、さらにきめ細やかなニーズに応えていくというサイクルを作っていくことが求められるのではないかと考えています」(池田氏)
池田氏が指摘するように、最近の保険サービスのトレンドとして、多様化と低コスト化が挙げられるだろう。生命保険商品は開発に莫大なコストと時間がかかっている現状がある。しかし保険が多様化することによって、健康にフォーカスする保険、わりかん保険のような後払いの保険から、女性の病気に対応する保険のような細やかなサービスを展開する保険など、さまざまな保険商品がでてきた。スマホで簡単に加入できる保険もあり、保険チャネルも大きく変化しつつある。
低コストと高レベルのカスタマイゼーションを両立させる方法
多様化と低コスト化の潮流における顧客本位の保険サービスとはどんなものなのか。下の図はサービスのプロセスを描いたデザインマトリクスである。
この図を使い、池田氏は低コスト化する保険サービスについて次のように解説している。
「サービスは上の表のように4つに分類できるのが一般的です。縦軸が労働集約度で、横軸が顧客とのインタラクションの度合いとなります。標準的な保障内容を低コストで幅広い顧客層に提供していく方向性であれば、左下のService Factoriesにシフトすることが想定されます。労働集約度は下がり、かつマス向けの標準的なプロダクトの提供なので、基本的にはカスタマイゼーションも低くなっていく方向性が考えられるからです」(池田氏)
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