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テクノロジーの進化とともにさまざまなフィンテックサービスが生まれ、“決済”など金融システムは大きく変わりつつある。日本銀行の副島 豊氏、LayerXの福島 良典氏、auフィナンシャルホールディングスの藤井 達人氏、FINOLABの柴田誠氏など、フィンテックの実務者は決済のデジタル化やブロックチェーンの活用による金融ビジネスの変革について、どのように見ているのだろうか。
※本記事は、FINOLABが3月に開催したイベント「『4F(Future Frontier Fes by FINOLAB)』2020~REBOOT」 の中のパネルディスカッション「金融システムの未来」の講演内容をもとに再構成したものです。
決済インフラの自由化が金融業界を活性化させる
日本銀行の副島 豊氏と、LayerXの福島 良典氏、auフィナンシャルホールディングスの藤井 達人氏によるディスカッション最初のテーマは「決済に関して最近もっとも関心のあること」、モデレーターの柴田誠氏は登壇者一人ひとりに回答を求めた。
副島氏は「最近の決済に関するダイナミックな動き」を挙げた。これまでにも金融および金融ビジネスの自由化が実施されたが、大きな枠組みは変わっていなかった。
しかし、最近の決済インフラの動向としては、技術革新とともに金融のビジネスモデルが一層自由になり、さまざまな人が新しいアイデアや技術を利用してサービスを提供しているという。「このダイナミックな動きを、伝統的な金融規制あるいは金融インフラという古い器の中にどう入れていくのかに関心がある」と答えた。
続いて福島氏は「非金融機関の金融機能へのアクセスに注目している」と述べた。たとえば、2020年3月にトヨタ自動車がグループ横断型組織「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」の成果発表についてだ。同氏によると「そこから見えてくるのは、商流と金流がつながる未来だ」という。
「現在は、商流と金流がつながっていないことによる摩擦(フリクション)や資金ショートなどが発生しています。それら2つをつなげるためにどう技術を使っていくかに持っています」(福島氏)
KDDIの決済サービス「au Pay」に携わる藤井氏は、au Payをミニアプリとして金融機能をより使いやすい形で提供し、また決済機能だけではなく日常的に高い頻度で利用できる環境作りに取り組んでいるという。
KDDIは2019年、仮想通貨交換業のディーカレット(DeCurret)に出資し、一緒にデジタル通貨を作る「プログラマブルマネー」の概念実証(PoC)を実施した。この実験は、資金移動型のお金をブロックチェーン上に発行し、「1トークン=1円」という価値に固定して実際に使ってみるというものだ。
「金融インフラにおけるブロックチェーンの重要性は高まっており、さまざまな金融機能やアプリケーションがその上に乗ったり、交わったりして効率化されていきます。こうした決済機能がメインストリームになるまではもう少し時間がかかりそうですが、先を見越した探求をしています」(藤井氏)
決済の未来の姿はどう映っている?
柴田氏は、未来の決済の姿をどうイメージしているかを尋ねた。
副島氏は「決済だけで考える時代はもう終わったのでは」と語る。これまで決済は裏方として機能していたが、インフラの進化によって脚光を浴びるようになるという。
「決済には、その裏に元々の取引の情報や企業の意図、状況などを表すデータがすべて入っています。新しい情報を載せていくことも可能なので、新しい金融サービスを生み出す可能性が出てくると考えています」(副島氏)
また、プログラマブルマネーについては、今後は金融サービス自体がプログラマブル化することを予測。「そのアイデア競争はすでに始まっており、そこに新しいマーケットができて付加価値が生まれ、マネタイズが可能になる未来が訪れると思います」と語った。
「究極的な信用社会が来る」と予測しているのは、福島氏だ。たとえば、自動車はサービスの併用によって、Uberのようにドライバーとして使う人、カーシェアのように又貸しする人、自分で所有したい人などの新しいかかわり方が生まれる。また、運転の仕方や地域の環境によって消耗する部品も変わってくるという。つまり「個別性の高い不動産のようなものになる」と予測する。
今後、人の信用データと決済の自動化が活性化すると、個人の信用度が自動車リースの価格に反映されるようになるという。たとえば、今まで国から借りていた奨学金の場合、自分の将来をプレゼンして個人で奨学金を集められるようになることもできる。
「現在ではあり得ない世界、存在し得なかったサービスが存在しうる世界という意味で、究極の信用社会が訪れるのではないでしょうか」(福島氏)
藤井氏は、決済というキーワードで身近な例として「店頭決済の進化」について言及した。決済は、消費者が最終的に意思決定をした後、最後に起こすアクションである。しかし、意思決定に至るまでと支払いの時では“感情的なギャップ”がある点に注目しているという。
たとえば、スマートフォンには非常にリッチなインタフェースが備えられており、お客さまの好感度を高めることができると説明。
ウーバー(Uber)のUber Moneyでは、ドライバーがお客を降ろす際にウォレット機能ですぐに運賃を受け取れる。ドライバーはお金がなくても1人でも乗客を乗せれば収入が得られ、給油することができる。
「Uber Moneyはドライバーを含むユーザーの体験をシームレスに作り込みテクノロジーとともに提供する好例です。エンベデッドファイナンス(ユビキタスとしての金融サービス)と呼ばれる方向性も出てきています」(藤井氏)
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