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- 2019/09/30 掲載
フィンテック人材が金融機関を飛び出すワケ、回遊型キャリアパスのススメ
フィンテック業界で高まる人材の流動性
筆者がモデレーターを務めた FIN/SUM 2019 9月5日のセッション「魅力のある金融機関になるためのエッセンス ~フィンテック人材に安住の地はあるのか~」では、メガバンクや地方銀行、事業会社などのフィンテック担当者たちが議論を交わした。このテーマは、「フィンテックコミュニティにおいて人材の流動性が高まっている」という登壇者たちの認識のもとに、設定されたものだ。元々ベンチャー企業は大手企業と比べて人材の流動性が高く、フィンテック業界においても、あるベンチャーの従業員が数年後には別のベンチャーに勤めているということは珍しくなかった。
最近の傾向として、特に金融機関からベンチャー企業や事業会社へ挑戦の場を移す人が増えていることが挙げられる。それも若手だけではなく、40代以上のシニアも少なくない人数が転職している印象である。
たとえば、今回登壇したパネリストの5人は、フィンテックコミュニティで知り合った当時は全員が大手金融機関に勤務していたが、その後2人の40代の方が転職し、1人はベンチャー企業を、もう1人は事業会社を新天地に選んでいる。
フィンテックに取り組む事業会社やベンチャー企業にとっては、フィンテック人材の流動性の向上は歓迎すべきことであろう。金融やフィンテックの知見を有する人材を育成するのは時間もコストもかかる。それに対して、業界で実績のある有識者を採用できるメリットは大きい。
一方、そうした人材が流出する側にとっては大きな痛手と思われる。パネルディスカッションでは、フィンテック人材にとって金融機関で勤務する上での課題は何か、そしてそれはどうすれば解決するのかが論点となった。
変化のスピードが遅い金融機関で働くことのリスクとは
しかし、フィンテックを取り巻く環境はこの数年間で大きく変化した。フィンテックに挑戦する多数のベンチャー企業が設立されたし、他業種からフィンテックに参入する大手企業も増えている。
また、フィンテックコミュニティが発展したことで会社の枠を越えたフィンテック人材同士の交流が進み、フィンテック人材が持つ知見やスキルはもちろん、勤務する企業の内情が知られるようになってきた。その結果、フィンテック人材の流動性が高まったのは当然のことなのかもしれない。
そうした中で、金融機関の職場環境はフィンテック人材にとって劣悪なものと認識されたため、金融機関からフィンテック人材の転職が増えているのだろうか。
筆者の認識では、必ずしもそうとは思わない。金融機関も変革に着手しており、特にフィンテック人材と呼ばれる人が所属する部門では、先進的な取り組みを行っているところも少なくない。また、規模が大きくコンプライアンス面でも“しっかり”しているからこそ取り組むことができるフィンテックなど、金融機関ならではの魅力もあると思われる。
ただし、金融機関における変化の速度は、ベンチャー企業はもとより事業会社と比べても、相対的に遅いと思われる。組織が大きかったり、コンプライアンス面で遵守すべきことが多く手間がかかったりと、金融機関のスピードが遅いのは、ある程度やむを得ない面がある。
ただ、そこで働くフィンテック人材個人のキャリアパスを考えると、ベンチャー企業などで働く場合と比較して、数年後には相対的に知見やスキルが劣化しているリスクをフィンテック人材が懸念する可能性は否定できない。
エンジニアであれば、金融機関で働くよりもベンチャー企業で働く方が、先端のテクノロジーに挑戦できる可能性が高いと思われる。そして、その経験により、次のキャリアパスが開けていくことだろう。ビジネス開発の担当者も、新規事業を立ち上げ、責任ある立場で差配する経験を積める可能性が高いのはベンチャー企業の方だろう。
外部環境の変化が遅い時代であれば、金融機関などの大手企業でじっくりとキャリアを積むのも悪くはないが、現在のように変化が速い時代においては、それに合わせたスピードで自分自身も成長しなければ、知見やスキルはすぐに陳腐化してしまう。成長の機会という点では、ベンチャー企業の方が勝っていると言えるかもしれない。
【次ページ】エコシステムによる課題解決が求められる時代のキャリアパス
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