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  • 2021/02/08 掲載

続くキャッシュレスの大波、Visaはなぜフィンテック企業支援プログラムを提供するのか

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経済産業省が2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」では、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%、将来的には80%を目指すとされる。増加が続いていた訪日外国人は、新型コロナウイルスにより大幅な減少となったものの、「巣ごもり消費」「非接触」さらには、新生活様式としてキャッシュレスが推進されるなど、追い風も続いている。そうした中、Visaはフィンテック企業向けに「Visa Fintechファストトラックプログラム」を提供している。フィンテック企業の担う役割とこのプログラムの描く未来図について、プロジェクトのキーパーソンであるビザ・ワールドワイド・ジャパン デジタル・パートナーシップ部長の福谷大輔氏に話を聞いた。

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ビザ・ワールドワイド・ジャパン
デジタル・パートナーシップ部長
福谷 大輔 氏

急拡大するキャッシュレスの波、その波に乗るフィンテック企業が抱える課題とは

 コロナ禍が生み出した「巣ごもり消費」「非接触」などの新しいライフスタイルが当たり前になる中、フィンテック関連のスタートアップの動きも活発化している。

 ビザ・ワールドワイド・ジャパン デジタル・パートナーシップ部長 福谷 大輔 氏も「日本のフィンテックは、まさに開花期を迎えようとしている。もしくは、大きな成長への次のステージへと移行している」と述べる。

 現実に、モバイルを活用した新しい決済サービスの登場、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の文脈におけるキャッシュレスの推進、海外フィンテック企業の日本進出など、フィンテックを取り巻く環境は日々、騒がしい。

 ただし、フィンテックに関わる企業にも課題はある。特に「決済」に関わるサービスには特有の難しさがあると、福谷氏は次のように述べる。

「これまで、さまざまなスタートアップ企業、フィンテック企業と会話をしてきました。そこで感じるのは、『決済』はフィンテック領域の中でも少々複雑な分野だということです。現実に、セキュリティ、システム、法令遵守、商習慣……等々への知見・ノウハウが欠かせません。アプリを作って終わりではないのです」(福谷氏)

 顧客数や企業の規模感に関わらず、非金融系のサービス事業者が新たにサービスを開発・運用するなら、それほど問題はないかもしれない。しかし、『決済』という金融分野の中でも最も信頼性や正確性を要求される分野の1つにおいて新たにサービスを導入しようとすると、一般的な金融機関レベルの厳しい顧客管理を求められることになる。ノウハウがなければ、それは非常に大きいチャレンジになるだろう。

 このため福谷氏は、多くの企業から「需要は高く興味はあるけれど、どのようにアプローチすればよいか分からない」「最低限必要なリソースや知見の確保が難しい」といった相談を受ける機会が増えているという。

Visaが提供するフィンテック企業を支援するプログラムとは

 こうしたフィンテック企業が抱える課題、悩みに応えるため、2018年11月にVisaがスタートしたのが「VisaFintechファストトラックプログラム」である。これは、決済サービスの提供を検討している企業に対し、Visa自身がさまざまな支援を提供するプログラムである。

「現在、多くの方が一般消費者としてVisaをご利用いただいています。しかし、Visaで決済したとき、その裏側で何が起きているかは、ほとんど知られていません。そこで、その仕組みや必要になるシステム等をフィンテック企業の皆さまにお伝えし、必要な支援を提供することが、本プログラムの役割になります」(福谷氏)

 たとえば、ある企業がVisaカードを発行しようとすると、カード発行ベンダー、決済システムベンダーを含めたさまざまなシステムの構成や運用フロー、法規制や各種ルールの理解が必要になる。たとえば、カードのデザイン1つを取り上げても、ロゴの位置が厳格に決められているし、ICチップ搭載のカードには接触IC決済と非接触IC決済(タッチ決済)の二つの決済方式が搭載されており、それぞれ仕様が異なる。

 こうしたルール、仕様を厳格に守ることで、世界中で信頼されるカードブランドが維持・確立されているのである。

 そこで本プログラムでは、決済の全体像や各要件を説明する情報提供のセッションやブレーン・ストーミングが用意される。さらに、必要に応じてその先のコンサルテーション、ビジネスパートナーの紹介、インプリメントのサポート等まで提供される。

「フィンテックに限らず、企業が新商品を開発したり、新事業に参入する際は、その分野に詳しいコンサルタント、シンクタンク等から知見を得ると思います。本プログラムでは、そのコンサルタントやシンクタンクの役割を、我々自身がお引き受けします。我々自身が、Visaの決済サービス導入に向けた“道案内”をさせていただくイメージです」(福谷氏)


プログラムを活用して続々と登場する新たな決済サービス

 プログラム開始から約2年が経過し、すでにいくつかの企業が本プログラムを活用して新しいサービスの開発・提供を実現している。Kyash Cardを提供する「Kyash(キャッシュ)」やバンドルカードを提供する「Kanmu(カンム)」との取り組みもその一例である。

 通常、クレジットカードを持つには審査が必要になるため、実際にカードが使えるようになるまでには時間がかかる。しかし、KyashとKanmuは、スマホのアプリを使って約1分でVisaのプリペイドカードを発行するサービスを開発した。

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Kyashのサービスイメージ

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Kanmuのサービスイメージ

「たとえば、新しく大学生になったばかりだと、カードがないためネットで買い物をしたくてもできないことがあります。しかし、KyashやKanmuのサービスを使えば、1分でVisaのプリペイドカードが持てて、そこにチャージすればすぐに決済できます。このため、両社のサービスは、若年層を中心に急速に広がっています」(福谷氏)

 また、GMOペイメントゲートウェイでは、連結会社のGMOイプシロンにて「売上連動型ビジネスカード」を開発した。これは、前日までの売上金額に応じて利用可能枠が変動するVisaビジネスカードだ。これにより、企業は必要な資金を迅速に調達することが可能となり、キャッシュマネジメントサイクルの最適化が図れる。

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GMOイプシロンのサービスイメージ

 いずれも、「Visa Fintechファストトラックプログラム」を活用して、これまでになかった新しい決済サービスを開発した事例だ。福谷氏は、同プログラムが果たした役割を次のように述べる。

「サービスの開発にあたっては、意見交換や海外事例のご紹介、技術的なご支援など、かなり密なコミュニケーションをとらせていただきました。海外で似たサービスがあっても、国によって法規制が異なるため、裏側の仕組みはけっこう異なることは少なくありません。こうした日本特有のノウハウを提供できるのも、本プログラムの特長です」(福谷氏)

キャッシュレスは20%から80%へ、企業は新たなチャレンジを

 2020年9月には、「Visa Fintechファストトラックプログラム」の新たな試みとして、既存のカード会社(オリエントコーポレーション、クレディセゾン、すみしんライフカード、三井住友カード)とフィンテック企業支援に向けたパートナシップが発表された。

 キャッシュレスが急速に拡大し、日々イノベーションが起こるこの業界において、4社が持つカード決済資産をフィンテック企業向けに活用し、市場投入までの時間を短縮できるような環境が整備されたことは業界全体においても大きな追い風となるだろう。

「カード決済の仕組みは非常に複雑で、それをすべて自前で用意するのは時間的にもコスト的にも現実的ではありません。4社が本プログラムに参加したことで、フィンテック企業は、カード発行については4社の資産やノウハウを最大限に活用し、それ以外のところで新たな価値を追求していただける環境が準備できました」(福谷氏)

 さらに2020年11月18日には「Visa Fintechファストトラックプログラム」の拡張も発表されている。具体的には、フィンテック企業の取り組みをサポートする「パートナーツールキット」の提供、フィンテック企業と認定パートナーとの迅速な連携を簡素化する「Visa Ready」認証プログラムの2つだ。

「我々としては、デジタルウォレット、デジタルバンキング、後払い購入、B2B決済、海外送金、請求書決済、決済インフラ、個人間決済といった分野を重点的に強化・支援していきたいと考えています。今回の機能拡張も、こうした取り組みの一環です」(福谷氏)

 日本のキャッシュレス化は、まだ始まったばかりだ。経済産業省が2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」では、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%、将来的には世界最高水準の80%を目指すとされている。現在は、まだ20%から40%への途上なのである。

 したがって、今後も新たなフィンテック企業、フィンテック領域に進出する既存企業が増えるのは間違いない。何しろ、まだ60%も成長余地があるのだ。「Visa Fintechファストトラックプログラム」は、こうした多くのチャレンジャーを支援し続けていくだろう。

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