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- 2022/02/28 掲載
数字で証明、企業規模や産業別での「賃金格差」の原因は分配率ではない
連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
賃金決定のメカニズムを探る
日本の賃金の実態はどうなっているのだろうか? 「賃金構造基本調査」によって、賃金の実態はかなり詳しく分かる。産業別や企業規模別の状況も分かる。ただし、賃金がどのようなメカニズムで決まっているかを分析するには、賃金のデータだけでなく、付加価値や資本装備率などのデータが必要だ。
このようなデータは、賃金構造基本調査にはないが、法人企業統計調査によって知ることができる。
そこで、以下では、法人企業統計調査を用いて、企業規模別、産業別の賃金格差がどのような要因に影響されているのかを分析することとしよう。
なお、以下の数値は、特に断らない限り、2020年のものである。また、ここでは、「金融業を除く全産業」のデータを用いている。
1人あたりの給与賞与年額は370万円だが、企業規模別で大きな差がある
法人企業統計調査によれば、従業員1人あたりの給与賞与年額は、全産業の平均で370万だ。そのうち、給与が315万円、賞与が55万円だ。一方、賃金構造基本調査の「一般労働者」の平均賃金は、男女計で年収360万円になる。このように法人企業統計調査の方が低くなるが、その理由については、後述する。
なお、以下では、簡単化のために、「給与・賞与額」を「給与」と呼ぶことにする。
1人あたりの給与は、企業規模によって大きな差がある(図表1参照)。資本金10億円以上で575万円であるのに対して、5,000万未満では300万円程度だ。このように2倍近い格差がある。
従業員の分布を見ると、資本金10億円以上の企業には、全体の18.6%しかいない。それに対して、資本金5,000万未満の企業には、全体の32.6%の従業員がいる。
このように、小企業、零細企業の従業員のほうが多い。このために、全体の平均が低くなるのである。
「日本の平均賃金が低いのは中小零細企業が多いからだ」といわれるが、表面的に見る限り、たしかにそのとおりだ。
なお、賃金構造基本調査では、常用労働者1000人以上を「大企業」、100~999人を「中企業」、10~99人を「小企業」としている。
ここでの分類では、図表1から分かるように、10億円以上が大企業、1億円以上・10億円未満が中企業、1億円未満が小企業ということになる。
分配率は企業規模で差がない。問題は生産性の格差
では、企業規模によって、上で見たような賃金格差が生じるのは、なぜだろうか?まず、労働分配率をみると、どの規模でも60%程度で、ほとんど違いがない。むしろ、大企業のほうが低い。
分配率に大きな差がないにもかかわらず賃金の差が生じるのは、生産性(従業員1人あたりの付加価値)に差があるからだ。
では、生産性は何によって決まるのか?
図表1をみると、資本装備率は大企業が著しく高い。そして、資本装備率が高いほどと1人あたり付加価値が増大することが分かる。これは、経済理論の結論と一致する。
しばしば、「零細企業の賃金が低くなるのは、非正規労働者が多いからだ」といわれる。たしかに、表面的にみれば、そうかもしれない。
しかし、これは、因果関係を逆に捉えたものだ。零細企業では、生産性が低いために、非正規労働者に頼らざるをえないのである。そして、零細企業で生産性が低くなるのは、上で見たように、資本装備率が低いからである。
【次ページ】正規・非正規の問題
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