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- 2021/06/21 掲載
中国の「デジタル人民元」は国際通貨になれない、と言える理由
連載:野口悠紀雄のデジタルイノベーションの本質
デジタル人民元の実現が間近
中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタル人民元の実証実験が進んでいる。6月上旬に北京で行われた実証実験では、総額6.8億円が配布された。さらに、上海での大規模実証実験が予定されている。総額3.4億円以上に相当するデジタル人民元を35万人に配布する。
実験が終了しても、配布されたデジタル人民元は回収されずに流通し続けているのだろうから、すでに中国はCBDCを使っているとも言える。
技術的な問題は、すでにクリアしたのではないだろうか。法制面でも、中国人民銀行法を改正して、法定通貨にデジタル通貨を加える方針を示し、2022年2月の北京冬季五輪までの発行を目指している。
世界に中国技術の先進性を誇示する予定だろう。だから、近い将来の実現は、ほぼ確実だ。
デジタル人民元のこのような進捗ぶりは、他国にも影響を与えている。たとえば、米国のCBDCであるデジタルドルの背中を押していることは間違いない
欧州中央銀行(ECB)も、デジタルユーロ計画を進めるかどうかの結論を、年央をめどに出すとした。
日本銀行は、「現時点でCBDCを発行する計画はない」とする一方で、この春から実証実験を始める。
アリペイなどの電子マネーも参加する
人民網日本語版 2021年5月11日によると、5月10日、電子マネーアリペイのアプリが、実証実験に参加する(ただし、この機能は、現在はまだ内部テストの段階にある)。こうして、すでにデジタル人民元のウォレットをリリースしている国有大手銀行6行のほかに、網商銀行(アリババ傘下のネット銀行)が新たに加わり、実証実験に参加する7行目の商業銀行になった。また微衆銀行(テンセント傘下のネット銀行)も「もうじきリリースする」としている。
これまで、アリペイやウィーチャットペイのような電子マネーがどのような扱いになるか、はっきりしなかった。
中国人民銀行デジタル通貨研究所の穆長春所長によると、アリペイやウィーチャットペイというのは、ウォレット(電子財布)だ。その中には商業銀行に預金されたお金が入っている。
デジタル人民元が発行されると、ウォレットの中身に、中央銀行発行のデジタル人民元が加わるだけだ。人々は引き続きアリペイやウィーチャットペイのウォレットを通じて支払いができる。
つまり、アリペイやウィーチャットペイは金融のインフラだ。それに対して、デジタル人民元は決済ツールであり、ウォレットの中身だ。このように次元が異なるものだというのである。
この説明は、その通りだ。
しかし、すでに電子マネーが広範に普及した中国において、デジタル人民元が利用者の立場から見て、どのようなメリットがあるのか、わからない。
「実証実験で、人々はまったく興奮していない」という報道もある。
スマートフォンを用いて送金や決済ができるというのは、アリペイやウィーチャットペイですでに支障なくできていることであり、デジタル人民元が使えるようになっても、利便性が大幅に向上するというわけではないからだ。
実際、デジタル人民元発行の本当の目的は、国民の利便性向上ではなく、マネーの情報入手者を、電子マネー運用者から国家の手に移すことなのかもしれない。
匿名取引も可能といわれているのだが、おそらく少額取引に限ったことだろう。この点についての詳細は、まだ分からない。
【次ページ】外国との連携実験も進む
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