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- 2020/02/03 掲載
デジタルを活用した「アジャイル型BPR」で金融機関の生産性を向上する方法
多くの金融機関で「労働生産性の向上」が求められている背景
近年、金融機関を取り巻く環境は大きく変化している。少子高齢化による労働人口の減少や、ワークライフバランス意識の高まりといった「社会環境の変化」、マイナス金利による収益の悪化、異業種からの参入による競争激化、業務委託コストの上昇といった「事業環境の変化」により、多くの金融機関が苦境に立たされている。その一方で、情報通信技術の飛躍的な発展や、クラウドサービス普及などによるシステムの利用形態の多様化といった「テクノロジーによる変化」も見られている。多くの金融機関が、この波に対してどう乗っていくかについて模索している。特に「RPA(Robotic Process Automation)」や「AI(人工知能)」関連技術を活用した労働生産性の向上が大きな注目を集めている。
労働人口が減少する中、「働き方改革」によって労働時間も縮小傾向にある状況においては、「デジタル技術を活用し、1人当たりの労働生産性を上げていくこと」が、今後成長し続けるために求められているのだ。
たとえば、ある金融機関では収益の伸び悩んだことを受け、「事務センター」における業務の効率化を推し進めている。同社の事務センターは出向先の役割を持ち、かつての「大先輩」が多く在籍していたため、そこに手を入れることは禁じ手であった。しかし、事務センターには「センターにおける常識が世間の非常識」であるかような不要な業務や手作業が大量に存在していたため、改革に着手せざるを得なくなったという変化も起きている。
デジタル技術を活用した労働生産性の向上が実現した世界とは、どのようなものなのだろうか。その世界で求められる人材について、筆者は次の3つに該当する従業員以外が淘汰される時代になると考えている。
RPA、AIなどのデジタル技術を活用する「アジャイル型BPR」とは?
労働生産性の向上を図るためには、具体的にはどうすればよいのだろうか。働き方改革を推進して、各個人のモチベーションを向上することも一案ではあるが、やはり「業務」そのものをどれだけスリム化して、デジタル化できるかについて考えることが本質的だといえる。その際、多くの人の頭に浮かぶのが、旧来から存在している「BPR(Business Process Reengineering)」と呼ばれる手法であろう。しかし、ビジネス環境が変化してデジタル技術も発展しつつある中、従来のBPRが最適な解決策とは言えない。現状に即した解として注目したいのが、「アジャイル型BPR」である。
アジャイル型BPRとは、短期、または中期的なROI(費用対効果)の観点を持ち、業務を細分化した上でRPAなどのデジタル技術を活用してアジャイル(機敏かつ柔軟)にBPRを継続的に実施し、短期的な成果である“Quick Win”を刈り取り続ける手法である。
この手法が有効だと考える理由は、RPAなどのデジタル技術の進展に加えて、競争が激化する現在のビジネス環境においては、迅速かつ安価に対応できる業務態勢の構築が求められていることにある。
従来は、ビジネス環境がある程度安定していたため、現業を確実にオペレーションする堅牢な業務態勢が求められていた。一方、アジャイル型BPRは「全体最適ではなく、個別最適を集積する」「大規模システムではなく、(RPAやChatbotなど)短期で成果が出やすいシステムを活用する」「一度に大きな効果を刈り取るのではなく、継続的に刈り取る」ことが特徴である。
アジャイル型BPRを成功させるポイントとは?
金融機関ではチェック・点検業務が過剰に実施されるなど、無駄な手作業が発生するのはよく見受けられる。また、レガシーなシステム同士を繋ぐための高額なシステム投資が必要になることもある。アジャイル型BPRを実施する際には、どのような点に注意すればよいのだろうか。網羅的に各業務のあるべき姿を検討するのではなく、効率化の余地がある業務を効率的にピックアップすることこそが、この手法のポイントである。具体的には「現場の声に耳を傾ける」「業務量の多い業務に着目する」「効率化されていない傾向のある業務に着目する」「デジタル技術が活用できる業務に注目する」の4点に注目するとよいだろう。
ピックアップした業務については、まず業務の目的を再定義して、廃止や簡素化するなどで本来必要な業務のみへのスリム化を検討し、あるべき業務を考えていくことが大事である。また、「デジタル技術をどう使うか」という切り口で業務の効率化を検討することも効果的だ。その際に外せないのが、RPAやChatbot、タブレット、スマートフォンなどのツールだ。
RPA導入の際に直面する3つの障壁
アジャイル型BPRの一環として、RPAを導入する企業は枚挙にいとまがない。RPAは非常に便利なデジタルツールであり、入力や検証、報告などに関する業務プロセス全体に対して特に活用できる。使い方を間違えなければ、業務効率化に非常に有用である。ただ、現状ではRPAを導入したものの、成果が出ている企業とそうでない企業に大きく分かれている。たとえば、三井住友銀行ではRPAを活用し、3年間で300万時間分(約1,500人分)の業務余力をまもなく捻出しようとしている。
一方で、RPA導入自体が目的化されてしまい、数少ない人員で業務を実施できる状況への改善に直接寄与していない企業も多くみられる。両者の差はどこにあるのであろうか。そこには以下のような3つの障壁が存在すると考えられる。
【次ページ】業務効率化の効果を最大化できない原因
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