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  • 2024/08/05 掲載

レパトリ減税とは何かをわかりやすく解説、インフレ・円安で進む導入の可能性

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海外で得た利益を国内に還流させる際に課される税金を減税する「レパトリ減税」。このレパトリ減税を日本でも導入する可能性を指摘する声が出てきた。米国では2005年に実施されたこの減税措置により、法人税収入が年間約1,300億ドルも増加し、米ドル高を促進した。日本の企業も約48.3兆円の内部留保を海外に抱えており、もしこの資金が国内に還流されれば、円安対策や内需拡大、雇用創出などの効果が期待できる。この記事では、レパトリ減税の仕組みともたらす効果についてわかりやすく解説する。
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レパトリ減税によって何が起きるのか?

レパトリ減税とは? そもそもレパトリとは?

1ページ目を1分でまとめた動画
 レパトリ減税とは、国外で得た利益や余剰資金を国内に還流させる際に課される税金を減税する措置のこと。グローバル企業や金融機関などの機関投資家が国外資産を売却し資金を国内に戻すときにかかる税率を引き下げることなどが例として挙げられる。

 レパトリはレパトリエーション(Repatriation)の略語で、「本国へ帰還する」という意味があり、金融経済の分野では海外にある資金を自国内に戻すことを指す言葉である。

 たとえば、日本でも毎年3月ごろになると、日本の投資家が海外で運用している外貨建て資産を日本円に戻すことが頻繁に行われるようになる。その際、米ドルなどの外貨を売却して円を買うことになるため、為替相場が円高に進む傾向が見られる。

 レパトリエーションは、本国の通貨高の要因となり、為替が変動すれば海外の株式や債券市場にも影響を及ぼすことになるのだ。

米国企業では二重課税を避けるために導入
 米国では、法人の所得の源泉が国内にあるか国外にあるかに関係なく、すべて課税対象とする全世界所得課税が採用されている。そのため、米国企業の国外にある子会社が国外で利益を上げると、所得が発生した国で課税されるばかりか、その利益を米国に戻すときにも税金が課されることになり、同じ利益に対して二重に課税されることになってしまう。

 一度上げた利益に対して二重に課税されてしまっては、「海外にある子会社が得た利益を親会社に戻さない」と考えても無理はないだろう。この二重課税を回避するために、2兆米ドルを超える利益が米国外に留保されたままになっているといわれている。米国では、これらの海外資産を積極的に国内に戻すことを促すためにレパトリ減税を導入した実績がある。

 レパトリ減税には、自国の通貨の価値を高めるとともに、国外で得た利益や余剰資金を国内に還流させることにより、企業の設備投資や雇用の拡大を図る効果がある。

米国におけるレパトリ減税の効果3つ
 2005年に米国のブッシュ政権が実施したレパトリ減税では、3年間平均で約1,500億米ドルだった法人税収入がその年には約2,800億米ドルに急増。為替市場でも米ドル高の効果があったといわれている。レパトリ減税により得られる効果には、以下の3つが挙げられる。

  1. 税収を調整する
     米国では、国外で得た利益を国内に戻す際に法人税が課税される。しかし、レパトリ減税により法人税率の引き下げが行われることで、企業が国外に所有していた資産を国内に戻す流れが生まれる効果が期待できる。さらに、国内でその資金が事業資金に回れば、経済の活性化にもつながり、税収を増やすことも可能だ。そのため、レパトリ減税には税収を調整する効果があるといえる。

  2. 内需の拡大効果がある
     レパトリ減税が実施されると、国外資産を米国国内に戻しやすくなるため、設備投資や雇用拡大につながることが期待できる。また、税収が増えれば、国もインフラ投資などを積極的に行いやすくなり、内需拡大にもつながるだろう。

  3. 通貨高
     レパトリ減税は、米国の企業が保有する国外資産を国内へ戻すことになるため、為替レートへ与える影響も大きい。米ドルの需要が増加し、自国の通貨価値を上昇させる要因となる。

日本でも海外に現地法人を持つ企業が多い

 日本でも工場を国外に持つ企業は多く、フランチャイズ店舗を国外で出店し、海外進出を図る企業も多く現れている。日本でもレパトリ減税が実施されれば、日本経済にさまざまな効果をもたらすだろう。

現地法人の内部留保残高は48.3兆円
 経済産業省が発表した海外事業活動基本調査(2022年7月調査)によると、2021年度の現地法人の内部留保残高は約48.3兆円となっている。内部留保は、企業が得た利益を永年積み上げてきた資本の残高だ。その利益の一部を日本国内に還流できれば、日本経済によい影響を与えるのは間違いないだろう。

 「日本の企業は内部留保を貯め込んで株主に還元していない」などといわれることがあり、資金に余剰があると誤解する人も少なくない。しかし、内部留保は財務諸表で見ると貸方の資本に該当する「資金調達」の手段であり、現預金の残高とは異なるものだ。

 つまり、「これまで積み上げてきた利益の中から事業に必要な資金に充てていた」というだけである。そのため、内部留保は工場や店舗取得による土地や建物、機械設備などといった固定資産の購入、研究開発費にすでに運用されており、現金が余っているわけではない。

 また、日本でも海外に現地法人を持つ企業は多く、海外進出を図る企業が多いのは事実だが、現地の人件費の増加やその国の情勢不安から撤退している企業があるのも事実である。

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西ジャカルタにあるローソンの支店。世界中に数多くの工場や支店を持つ企業は多い
(Photo/Shutterstock.com,Bebas Visuals)

日本国内の情勢
 現在の日本は、少子高齢化による社会保障費の増加、倒産する企業の増加、円安の拡大など、さまざまな問題を抱えている。特に、賃金は他の先進国に比べて伸びていないといわれており、政府も賃上げの施策を積極的に行っている最中だ。しかし、中小企業ではDXの推進はまだまだ進んでいない。

 また、大企業は別にして物価が上昇してもその上昇分を商品やサービスの提供に対する代金、つまり、売上に価格転嫁できず、賃上げによる人件費の増加に対応できていない中小企業も多く存在する。これまでの日本の超低金利の政策は、企業の設備投資促進も目的の1つにあると思われる。

 しかし、実際には金利が上昇して仕事が増えたほうが、事業をする上では回転率が上がり、利益が増加するとも考えられる。賃上げにより物価を上げて景気を好転させるのか、景気が好転してから賃上げを実施すべきかについては、「ニワトリが先か、タマゴが先か」の議論と同じく、誰も答えを出すことはできないだろう。

 近年は、他国の経済に影響を及ぼす為替介入が問題になることがある。しかし、政府の為替介入には限度があるだろう。また、為替介入は根本的な解決にはつながらず、一時しのぎといってもよい。米国の金利が下がるだけではなく、日本の金利が上がることも円安抑制につながることになる。レパトリ減税の実施も日本で注目を集めているが、中には「時間稼ぎにすぎない」といった意見もある。 【次ページ】日本でもレパトリ減税が導入される?

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