「サプライチェーンマネジメント」の即効力とは? 中堅製造業を強くするこれだけの理由
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日本はサプライチェーン“オペレーション”にとどまっている
サプライチェーンは、原材料や部品の調達から加工、生産、在庫管理、配送、販売、消費に至る一連の流れのことだ。自社製品を滞りなく消費者に届けるため、企業はこのプロセスを適切に管理する必要がある。そして、サプライチェーン全体の可視化・最適化を行ない、経営の意思決定を素早く行なう経営管理手法がSCM(サプライチェーン・マネジメント)だ。
「サプライチェーンは1つの組織に閉じていない」と藤原氏は話す。調達や生産、在庫管理、輸送と関係者が複数関わる上に、海外進出している企業であれば、国内だけでなく海外の工場や販社を俯瞰してマネジメントする必要がある。しかし、日本企業の場合、「SCMの効率化や人員削減など、“オペレーションの改善”と捉える傾向がある」というのだ。つまり、「サプライチェーン“オペレーション”にとどまっている」とザイオネックス 代表取締役の藤原 玲子氏は述べる。
サプライチェーンは、国内だけでなく海外も併せたマネジメントが求められるが、その点での経営者の意識もまだそれほど強くない。サプライチェーン“マネジメント”力で、日本企業は海外から大きく後れを取っているのが現状だというのだ。
グローバル標準のSCM知識体系の認知度も低い
本来、SCMにおいて、需要予測は非常に重要だ。「将来売れる見込みである製品/商品のボリューム」を明らかにして、適正な調達、在庫の計画、さらに製造に必要なリソースの計画を立てていく。しかし、日本企業では往々にしての需要予測の部分が弱い。その理由は、「消費者に近い将来の需要を集める仕組みがなく、故に本来であれば企業活動のトリガーである需要起点で調達や製造がなされていない」と藤原氏は指摘した。
さらに、企業個別に属人的な業務が存在しているという課題もある。藤原氏は、「サプライチェーン領域の業務は本来、国を超えて行われるため、日本国内だけの話ではない。マネジメントについても、SCMの実務家が集まって策定したグローバル標準の枠組みがある」と話す。その1つが、米国シカゴに本部を置く専門家団体「ASCM(Association for Supply Chain Management)」が認定する、CSCPやCPIMなどの資格である。これらの資格取得のための世界共通の教育プログラムを提供することで、SCMの知識体系の普及啓蒙に努めている。
海外では、SCMに携わるビジネスパーソンはASCMの認定資格を取得するのがスタンダードとなっており、全世界で10万人以上が取得している。資格取得を義務付ける企業もあるが、日本ではASCMの認知が低く、SCMのグローバル標準の認証資格保有者の数も少ない。
「お隣の韓国や中国、インドでは、経理担当が簿記の資格を持つのと同様に、SCM資格保有者が多くいるにも関わらず、日本での保有者は300人程度と聞いています」(藤原氏)
海外では、人種や文化が違うことが前提で経営管理がされており、グローバルで標準的な手法、共通言語が必要だと認識されている。しかし、日本では、SCMというと、調達担当や物流担当といった現場のオペレーション改善の文脈で語られることが多く、個社ごとに独自ルールでSCMが運用されていることが少なくない。
どんな企業でも、ビジネスの基本は、何らかのモノを調達、生産して販売し利益を得る活動にある。販売が減って調達や生産が増えれば、企業の利益を圧迫し、キャッシュフローも悪化する。また、生産や調達したものが想定より販売されないと、在庫の管理費や保管コストが増え、さらにコスト増となる。逆に、販売が想定を超えて増えれば、調達や生産が間に合わず機会損失を生み、企業の成長の打撃となる。
SCMは、こういった企業のビジネスの基本的な活動を管理・調整するもので、まさに経営そのものということがわかる。しかし、そこが現場のオペレーション改善の文脈になっており、現場の個別最適化の問題になっているのが日本の現状だということだ。
中小企業こそSCMの仕組みの即効力が大きい理由
「たとえば、サムスン電子は社長室にディスプレイが4台並び、経営者がリアルタイムに、自社製品が世界中でどの程度売れているか、どれくらい供給されているかをダッシュボードで見られるようになっている」という。リアルタイムに状況を把握することで、たとえばどこかの国の工場で部品調達が滞ったり、操業が止まったりしたときに、「迅速に意思決定が行える」と藤原氏は話す。
「サプライチェーンの現場のオペレーションは極力システムに任せ、将来の販売や生産に関わる重要な意思決定や戦略を人がきちんと考える仕組みが整備されれば、トップダウンでかつ短時間での意思決定が可能になると考えます」(藤原氏)
そして、特にSCM経営の導入による即効力が大きいのが中小製造業だ。藤原氏は「日本は製造業、中でも中小企業が多く、次代を担う優秀な製造業も増えている」とし、「経営メンバーがある程度全体を見渡せる中小製造業の場合、グローバル標準の枠組みに則ったベストプラクティスの業務プロセスに合わせ、トップダウンで素早くオペレーションの仕組みを構築することも可能ではないか。それによって不要な在庫を抑えキャッシュフローも改善される」と話す。
現場の優秀さ・強さが日本の競争力の源泉であることに鑑みれば、マネジメントが自らグローバル標準の枠組みを学び、かつ今よりさらに計画や企画にコミットするマインドを持つことで、日本の製造業はさらに強くなる可能性があるとの提言だ。
しかし、従来のSCMソリューションは、費用が高く中小企業が容易に導入できない課題がある。人材も予算も多い大手企業であれば、専門のコンサルタントを雇い時間をかけてソリューションを導入することも可能だ。しかし、人的リソースにも予算にも限りのある中小企業では、大手企業と同じ仕組みを導入することが難しい。
そこで、こうした課題を解決するのが、SaaS型SCMソリューション「PlanNEL」(プランネル)だ。これは、同社のサプライチェーンマネジメントのソフトウェア「T3」(ティーキューブ)における20年超の実績をもとに、日本の製造業向けにカスタマイズをせずに世界標準のSCMを実現するSaaS版として開発されたものだ。
中小企業でも利用しやすいよう、低コストで導入可能なソリューションとなっている。マーケティング室 マーケティングマネージャー 渡辺想一朗氏は、「SaaSなので、企業が別途インフラを準備する必要もなく、導入もスピーディに、コンパクトに行うことができる」と話す。
グローバル標準のベストプラクティスのSCMに則りつつ、必要十分な機能を中小企業でも導入しやすい金額設定で提供している。
サプライチェーンマネジメント力の向上に貢献していく
SCM事業部 アカウントマネージャー下方将汰氏は「大手企業向けのソリューションはトータルで1億円近く要するものが多く、PlanNELは相対的にコストパフォーマンスが高い」と話す。
また、カスタマーサクセス(CS)のチームが伴走する点もPlanNELの大きな特徴だ。藤原氏は「中小企業の中には、そもそもSCMの業務をどう運用していくかがわからない企業もある」とした上で、「弊社のCSがとことん伴走し、お客さまの経営層・現場と企業の経営戦略を共有した上で、経営に役立つ情報を可視化し意思決定の支援をする」と説明する。
CSのメンバーは、サプライチェーンの実務に関わった経験のある人材をアサインし、「毎月の需給調整の会議に参加することや、データをもとに具体的なアドバイスをすることができるのが強みだ」という。藤原氏は「SaaSソリューションといっても、標準化された業務プロセスの提供だけでなく、さまざまなパラメーターを準備し、顧客の声を反映したプロダクト開発を意識している」と話し、企業のビジネス特性に応じて、データモデルを変えることで、個社特有の業務プロセスに対応できる機能も備えていると説明した。
実際に、10月には販売実績のない新商品の需要予測をサポートする機能、11月にはユーザー企業が独自に持つ為替レートの予測データをシステムに反映して、複数通貨での売上・利益予測を支援する分析機能をリリースし、顧客の課題解決に向けたプロダクト開発が日々行われている。
「PlanNEL」の今後の機能拡張については、現状の「需要予測」「販売計画」「在庫計画」「補充計画」の4つの機能に加え、基準生産計画(MP:Master Planning)をカバーする機能もリリースする予定だという。これにより、工場の生産能力に基づき、その製品をいつ、どれだけ生産するのかの計画が立てられるようになり、「個別の工場の生産計画だけでなく、工場をまたがった計画、輸送のリードタイムを考慮した計画までカバーすることができる」と藤原氏は説明した。
今後も、SaaSソリューションの提供を通じ、導入企業の経営指標をクリアする実績を出すことを目標に、あらゆる企業のSCMプラットフォームになることを目指して機能改善、拡張を継続することで、「日本企業のサプライチェーンマネジメント力の向上に貢献していきたい」と藤原氏は締めくくった。