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  • 2023/11/30 掲載

アウトドア会社パタゴニアが「究極の会社」に化けたワケ、創業者の本質的すぎる経営理念

連載:企業立志伝

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近年、ESG(環境・社会・経済)の観点から持続可能な経営を目指す「サステナビリティ経営」への関心が高まっています。米アウトドア用品大手のパタゴニアは、その先駆け的存在として知られ、同社を現在の独自のポジションに導いた創業者イヴォン・シュイナード氏の経営哲学は世界中で注目されています。“究極の会社”とも表現されるパタゴニアの成功の理由を探ると、約4,000億円という自らの莫大な富も地球を守るために手放したシュイナード氏のゆるぎない「理念」がありました。

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。主な著書に『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)『難局に打ち勝った100人に学ぶ 乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)『大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ』(ビジネス+IT BOOKS)などがある。

大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ (ビジネス+IT BOOKS)
・著者:桑原 晃弥
・定価:800円 (税抜)
・出版社: SBクリエイティブ
・ASIN:B07F62BVH9
・発売日:2018年7月2日

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2023年、パタゴニアは50周年を迎えた。「200年企業」を願う創業者イヴォン・シュイナード氏の経営哲学に学ぶ
(出典:パタゴニア日本支社 プレスリリース)

学生時代の落ちこぼれ仲間の影響でクライマーに

 シュイナード氏は1938年、米メーン州で生まれています。同氏の父親は、電気、配管、左官、大工などすべてを1人でこなし、1人で家を一軒建てることのできる腕の良い職人でした。いつも最高の道具を持つことにこだわる父の職人気質を受け継いだことが、常に最高の品質にこだわるものづくりにつながったとシュイナード氏はのちに振り返っています。

 1946年、一家はカリフォルニア州に移住します。シュイナード氏はカトリックの教区学校に通いますが、成績は全科目D。1人で釣りや狩りをして過ごすことが多かったようです。

 高校に進んでからも勉強に興味を持てず、落ちこぼれ仲間と一緒に南カリフォルニア・タカ狩りクラブを立ち上げ、タカやハヤブサを捕まえては狩りができるように訓練をすることを楽しんでいました。

 この時、同じクラブにクライマー(登山者の中でも岩登りをする人)がおり、シュイナード氏もタカの巣まで降りるために懸垂下降を身に付けたり、クライミングを学んだりしたことがのちのパタゴニアの創業へとつながっています。

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クライミングを楽しんでいた青年の趣味から派生した会社が、なぜ「究極の会社」と言われるまでに成長できたのか
(提供:Courtesy Patagonia/ZUMA Press/アフロ)

クライミング用具を自作しながら山を登る日々

 1956年、高校を卒業したシュイナード氏はコミュニティカレッジに通いながら、大富豪ハワード・ヒューズ氏の依頼を受けて私立探偵のまね事をする一方、メキシコでサーフィンを楽しんだり、当時はほとんどが未踏だったヨセミテのビッグウォールと呼ばれる大岩壁に挑んだりするようになります。

 1957年、シュイナード氏は炉や金床、やっとこやハンマーなどを買い込んで両親宅の裏庭でクライミング用品の製造を始めます。

 ビッグウォールは登るのに何日もかかるため、何百本ものピトン(岩の割れ目に打ち込む釘のような金具)を使います。当時、クライミング用具はすべてヨーロッパからの輸入品でしたが、シュイナード氏はこれら用具を自分で作ろうと考えたのです。


 シュイナード氏が作るピトンの特徴は硬く丈夫で、岩に打ち込みやすいうえに抜いてくり返し使うことができました。

 当時、ヨーロッパのクライミングは「征服」であり、ピトンは打ち込んだ場所にそのまま残していくのに対し、シュイナード氏たち米国のクライマーは、山は登るけれどもピトンなどは抜いて「そこに人が訪れた痕跡を残してはならない」(『社員をサーフィンに行かせよう』p32)ことを理想としていました。シュイナード氏のピトンは、再利用の難しいヨーロッパ製より割高ながら理想に近いものだったのです。

 シュイナード氏はやがてカラビナ(岩山をロープで登る際などに使用する)なども作るようになり、冬の間は登山道具を作り、他の季節はヨセミテの岩場やカナダ、アルプスなどで過ごすようになります。

 収入はわずかなものでしたが、缶のへこんだキャットフードを買い、それに自分で仕留めたリスやヤマアラシの肉を混ぜて食べたこともあるなど、1日50セントから1ドルの暮らしが何週間も続きましたが、「消費文化に対する反逆者」(『社員をサーフィンに行かせよう』p36)を自負するシュイナード氏は、こうした生活をむしろ楽しんでいたようです。

 その後、徴兵通知を受け、韓国に送られますが、そこでも職場を抜け出してソウルの北にある山を登るなどしたシュイナード氏は1964年、除隊となり、米国に帰国します。 【次ページ】約5年で米国最大のクライミング用品メーカーに、パタゴニア誕生秘話

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