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  • 2015/12/28 掲載

大手金属メーカーのPMに学ぶ:「ユーザーに要望を聞くのではない、考えさせるのだ」

事例に学ぶプロジェクト立ち上げ7つの勘所(第4回)

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プロジェクト方針を明確化し、これを実現する仕組みに仕込むことで、プロジェクトの成功確率を高められる。これを金属メーカー大手のPMの実践事例と併せて解説する。さらにこの勘所の実行に必要なスキル・知識として、事例調査のスキル、内外環境把握と意思の洞察から妥当なプロジェクト方針を設定するスキル、プロジェクトの仕組みに関する事例の知識が必要であることを解説する。この勘所の修得では達成水準が難しい。達成水準を身に付けるためにも調査が必要となる。
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今回の勘所 プロジェクト方針を明確化し、これを実現する仕組みに仕込む

「聞くのではない、考えさせるのだ」と言った有能PM

 どの企業にも、プロジェクトのやり方の「当り前」があり、一般のPMはそのやり方を踏襲する。変化させるのはプロジェクトの規模やメンバーの関わり方くらいのものである。すべてのプロジェクトは唯一無二であり、目指すゴールも異なれば成功要件も異なるのに、実はそれが強く考慮されることはない。

 代表格の「当り前」は、“ユーザーに現状や問題、要望を聞く”ことだ。聞いたことを基に要件を定義し、それを確認する。ERPの導入では、現状や要望からFIT&GAPを行う。なぜそうするのか、それは当り前だからだ。

 金属メーカー大手の基幹システム再構築において、ERPを適用して徹底したBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を断行し、業務とITの大幅コスト削減を成し遂げたPMがいる。“ERPでBPR”と、言葉だけ見れば陳腐な印象もあるが、日本の大企業でERPの機能をほとんどアドオンもカスタマイズもせず本物のBPRをやり切ったところがどれだけあるだろう。この事例は極めて稀有なのだ。このプロジェクトでは、成功要件を明らかにし、それをプロジェクト方針として仕組みにして仕込むことでBPRを成功させた。

 この金属メーカーの製品には、高付加価値の品目もあるが売上に占める割合は小さく、主力商品は価格競争にさらされている。経営層は常に「コスト削減に聖域はない」と言っているので、情報システム部門もITコスト削減に取り組んでいたが、大幅なコスト削減ができずにいた。その大きな要因の一つが情報活用基盤にあった。この会社は、EUCと呼ばれたころから利用者のデータ活用が盛んで、データ活用の基盤を維持していた。しかしこの基盤の維持が複雑なデータ連携や元の業務システムを変更できない制約となっていたのだ。

 一方、EUCを用いて作られる情報の多くは、薄利多売の主力商品の販売において、各組織がいかに頑張っているかを主張するためのものが多く、経営層から「数字のお遊びはもう十分だ」とも言われているものだった。そこでEUCに切り込むことは業務改革にもつながるという認識が共有され、BPRに付随して基幹システム再構築を行うプロジェクトが編成された。そこでこのPMは発足に当り、「(ユーザーに要望を)聞くのではない、考えさせるのだ」と考え、“ERPを前提にユーザー自身に業務設計させる”方針を打ち出した。


【次ページ】 方針を仕組みに仕込まないと、方針通りには進まない
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