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  • 2014/12/01 掲載

世界最大のインターネットテレビ企業、ネットフリックスに立ちはだかる試練

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ネットフリックス(Netflix)という企業をご存じでしょうか?世界最大のインターネットを介したテレビ・ビデオサービスを提供する企業ですが、日本ではまだサービスを展開していないので、Hulu(フールー)のような企業といったほうがわかりやすいかもしれません。この企業が大きな注目を集めたのは2011年、同社サービスが北米の全ネットワーク(下り)の約3割を占めて大きな波紋を呼びました。2位はHTTPのWebサイト(18%)、3位はYouTube(11%)なので、いかに膨大なトラフィックを集めたのかがおわかりいただけると思います。新しい映像配信時代の申し子とも言うべき同社ですが、2014年10月中旬に株価が一時25%近くも下落。11月中旬になっても、元の水準には遠い状況です。この背景には何があるのか、そして、同社はどう進むのかを見ていきましょう。

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

フューチャーブリッジパートナーズ 長橋賢吾 編集:編集部 松尾慎司

2005年東京大学大学院情報理工学研究科修了。博士(情報理工学)。英国ケンブリッジ大学コンピュータ研究所訪問研究員を経て、2006年日興シティグループ証券にてITサービス・ソフトウェア担当の証券アナリストとして従事したのち、2009年3月にフューチャーブリッジパートナーズ(株)を設立。経営コンサルタントとして、経営の視点から、企業分析、情報システム評価、IR支援等に携わる。アプリックスIPホールディングス(株) 取締役 チーフエコノミスト。共著に『使って学ぶIPv6』(アスキー02年4月初版)、著書に『これならわかるネットワーク』(講談社ブルーバックス、08年5月)、『ネット企業の新技術と戦略がよーくわかる本』(秀和システム、11年9月)。『ビックデータ戦略』(秀和システム、12年3月)、『図解:スマートフォンビジネスモデル』(秀和システム、12年11月)。
ホームページ: http://www.futurebridge.jp

ネットフリックスのビジネスモデルとビジョン

連載一覧
 ネットフリックス(ティッカー:NFLX)のビジネスはシンプルです。それを一言で表現すれば、“インターネットテレビ”です。

 同社の創業は1997年、現CEOのリード・ヘイスティング氏は、「アポロ13」のDVDをビデオショップでレンタルするものの、返却期限を大幅にオーバーして40ドルもの延滞金を支払うはめになりました。それに業を煮やしたヘイスティング氏は、DVDのレンタルをネットで注文し、郵送で届ける仕組みを実現しました。日本でいえば、TSUTAYAのネットレンタルサービス「TSUTAYA DISCAS」の先駆けとも言えるでしょう。

 もちろんその時点でインターネットを介してビデオを見れるような構想はあったのでしょうが、1997年の創業当時、ネットはようやく利用し始めたばかり。ネットでDVD並みの映像を視聴することは無理でした。

 しかし、ネットのブロードバンド化に伴い、ネットでユーザーが視聴したいコンテンツを視聴できるようになりました。DVDという物理的なメディアを郵送することなく、オンデマンドでビデオを視聴できるようになりました。これがネットフリックスの目指した“インターネットテレビ”でした。

 将来、この“インターネットテレビ”はどうなるのか、ネットフリックスではこう定義しています

Internet TV is replacing linear TV.
Apps are replacing channels,
and screens are proliferating.
As Internet TV grows from millions to billions,
Netflix is leading the way around the world.

インターネットテレビは、既存のテレビ局を置き換える
アプリは、チャンネルを置き換える
そして、スクリーンはどんどん増える
インターネットテレビは数百万から数十億へと成長する
ネットフリックスはそのなかで世界をリードする

 従来、既存のテレビ局がテレビ番組を配信するという流れでした。しかし今、動画を視聴するのは、いわゆるテレビだけではありません。PC、タブレット、スマホ、ゲームコンソール、STB(セットトップボックス、ケーブルテレビ等の受信装置)など、あらゆる機器がネットに接続したり、テレビケーブルを接続できます。

 だからこそ、テレビリモコンでチャンネルを合わせるのではなく、一つ一つのアプリがチャンネルになります。そして、テレビ、PC、タブレット、スマホ、ゲームコンソール、たくさんの機器がこれからも“スクリーン”になる。そうした時代に、1997年から実績のあるネットフリックスが世界をリードするというわけです。

ネットフリックスのポジショニングと米国の動画配信ビジネス

 今後、テレビがインターネットテレビ、あるいはスマートテレビになる中で、この同社のビジョンは素晴らしいと筆者は思います。とはいうものの、こうしたインターネットテレビが、誰も競争相手がいない“ブルーオーシャン”かと言えば、そうではありません。やはり、毎日視聴するテレビをめぐって熾烈な競争が繰り広げられています。

 下記に現状の米国内のテレビ・ビデオ配信・制作サービスのポジショニングマップを示します。

画像
米国内のテレビ・ビデオ配信・制作サービスのポジショニングマップ
(出所:筆者作成)


 日本のテレビ業界の場合、基本はテレビ局を中心に番組を制作し、配信されていますが、米国の場合はちょっと複雑です。とはいうものの、提供するサービスから以下の2つの軸で整理できます。

・有料か無料か
・コンテンツ配信かコンテンツ制作か

 ではそれぞれ見ていきましょう。

(1)広告モデル = 無料×コンテンツ制作

 いわゆる日本の民放局に近いビジネスモデルです。米国の3大ネットワークであるNBC、CBS、ABC(これにFOXを加えて4大ネットワークとも称します)が該当します。このモデルは、ナショナルクライアントからの広告料を徴収することで、ニュース・ドラマ等のコンテンツを制作し、加盟ネットワークに配信します。

(2)広告+ユーザー投稿モデル = 無料×コンテンツ配信

 上記の3大ネットワークの前提は、同社に所属する“プロ”がコンテンツを制作することです。しかし、“プロ”のコンテンツだけが価値があるとは限りません。アマチュアが自分の興味のあるコンテンツを投稿する、この価値を証明したのが、YouTubeのビジネスモデルです。もともとYouTubeは単なる動画投稿サイトでしたが、グーグルによる買収で同社の広告技術と連携し、無料で動画を配信できるサイトながらも、広告でその収入を賄うモデルとなりました。今や人気動画を投稿する人は“YouTuber”などと呼ばれ、プロ並みに稼ぐ人も登場しています。

(3)プログラマーモデル = 有料 × コンテンツ制作

 ケーブルテレビ(CATV)が一般的な米国では広く普及しているビジネスモデルで、コンテンツ制作を専門にしている企業です。たとえば、音楽コンテンツを制作するMTV(親会社はバイアコム)、スポーツ番組専門に中継するESPN(同 ディズニー)あるいは24時間ニュースを配信するCNN(同 タイムワーナー)などが挙げられます。彼らはプログラマー(番組製作会社)と呼ばれ、(1)3大ネットワークや(2)広告+ユーザー投稿モデルではカバーできない範囲の映像制作を有償で行っていますが、基本的に自分たちではコンテンツの配信は行いません。

(4)MVPDモデル = 有料×コンテンツ配信

 3のプログラマーモデルは、基本的には番組制作が専門であり、配信についてはカバーしていません。そうしたプログラマーが作成したコンテンツを、ユーザーに向けて番組を配信しているのが、CATV(ケーブルテレビ)、衛星放送局(dishNET、DIRECTV)、そしてネットフリックスのようなIT企業です。こうしたコンテンツ配信を担する企業をMVPD(Multi-channel Video Program Distributor:複数チャネルビデオ番組配信業者)と呼びます。

 日本でいえば、WOWOW、スカパー、あるいはCATV会社がこれに相当します。視聴者は、CATV、衛星放送、もしくは、ネット(ネットフリックス、Hulu, HBO)を契約し、その中から、プログラマーが提供している番組を個別に契約(MVPDのプログラムによっては、セットとして含まれているものもあり)する仕組みです。

  “インターネットテレビ”分野でのリーダーを目指すネットフリックスのポジションは、(4)MVPDモデル。CATV、衛星ではなく、ネットという手段を活用して、ドラマ、映画といったコンテンツをユーザーに配信するモデルです。

【次ページ】試練に打ち勝つネットフリックスの成長戦略

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