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Amazon.com(以下、アマゾン)という会社は、掴みどころがない会社です。もともとは本のオンライン販売からスタートしましたが、今や世界一のオンラインストアになり、本に限らず、生活用品や工具、食品なども販売しています。さらには、そのWebサイト構築に用いられたノウハウやリソースをもとに、企業・個人向けにクラウドサービス(AWS: Amazon Web Services)を展開し、この分野でも大きな存在感を持つに至っています。8月には同社のジェフ・ベゾスCEOが個人で米新聞大手ワシントン・ポスト紙の新聞事業を買収したことも大きな話題を集めました。急速に存在感を増しているアマゾンですが、実は同社がM&Aを本格化させたのは5年前からなのです。
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アマゾンが掴みどころがないと感じさせる点は、企業業績と株価の関係にも現れています。2013年7月25日に発表した同社の第2四半期決算では、売上高は前年比+22%と伸長したものの、投資が重しとなり、純利益は700万ドルの赤字になりました。
一方で、株価は、6月に上場来高値313.62ドルを更新、決算後、若干売られたものの、8月12日の終値は296.69ドルと高値圏を維持しています(
図1 )。通常、赤字の会社であれば、売り込まれるのが自然ですが、アマゾンに限っては、このケースは当てはまらなさそうです。すなわち、投資家はたとえ今は赤字であっても、将来には高い期待を寄せていると考えられます。
アマゾンとはどのような会社なのか?期待に応えるだけのリターンは見込めるのか?今回は、謎多きアマゾンについてみていきます。
アマゾンのはじまり
ご存じのように、アマゾンはもともとオンラインでの書籍販売から始まりました。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は、1994年ニューヨークのヘッジファンドのデスクの前で、インターネットで売れるものが何かを探していました。ベゾス氏は、衣服、食品、本など、さまざまな分野を検討しますが、彼は以下の理由から、オンラインで書籍を販売するビジネスを選びます。
「本というカテゴリーでは、品揃えこそ顧客満足度の重要な鍵だと言うことがわかりました。そして本には紙の分厚い商品カタログがないということも、です。まったく現実的じゃありませんから。毎年10万タイトルを越える新刊がでていますが、大型書店でもそのすべては置けません。最大の大型書店には17万5000タイトルの本がありますが、そこまで大きい書店はたった3つぐらいしかないんです。それで考えはきまりました。Amazon.comを、膨大な数の中から欲しい本を簡単に見つけて買える最初の場にするぞ、と。」(クリス・アンダーソン「ロングテール」(早川書房) p84 )
オンラインショップを立ち上げたアマゾンは、書籍がネットで売れるわけがない、という見方を覆して快進撃を続けます。ユーザーの購買履歴などから最適な本をレコメンデーション(推薦)するエンジン、他人に書籍を薦めると薦めた側も見返りとして報酬が受け取れるアマゾンアフィリエイト、さらに自社の物流センターから送料無料で配達する物流網やフルフィルメントサービスなど、従来の常識を打ち破る画期的なサービスを展開し、オンライン書籍販売といえば、アマゾンという不動の地位を手にいれました。
M&Aで成長を加速
アマゾンの発展は、書籍販売にとどまりません。書籍から、PC、家電、ゲーム機、CD・DVDなど、あらゆる日常品まで取扱いを増やしました。そして、取扱カテゴリーを増やすと同時にM&Aによって、さらなる成長を加速させます。
アマゾンは、1997年頃から、ウェブサイトアクセス情報を表示するAlexa Internet、映画データベースを提供するIMDbを買収してきましたが、本格的にM&Aを実施しはじめのは、今からおよそ5年前の2008年です。
そして、2008年から2013年まで実施してきたM&Aは
図2 に示すように25件。この25件は、いくつかの集合に分類することができます。
(1)アマゾンとは“毛色”が違うオンライン小売企業
本やDVDを手軽に安く購入したいのであれば、今やアマゾン以上の選択肢はほとんどないでしょう。ただし、すべてのユーザーが手軽さや安さから、ネットで物を購入するわけではありません。その最たる例外が、ザッポスです。
ザッポスは、オンラインで靴を販売する企業です。顧客の気が済むまで何度まで試着可能、あるいは、親身になっていつまでも対応してくれるカスタマーサポートなどから、口コミで顧客が拡大。“アマゾンではなくて、ザッポスでないと靴は買わない”という顧客が出てくるまでに至りました。
アマゾンは、そのザッポスを2009年6月に8.5億ドルで買収しました。ザッポスに限らず、アマゾンは“毛色”の違う企業を相次いで買収し、オンライン小売をさらに強化しています。
このカテゴリーには、上述のザッポスの他に、2.Fabric.com(洋服を作るための生地の販売)、5.AbeBook(英国で古本・稀少本をオンライン販売)、11.Woot(Grouponのように決められた時間内に製品を購入できるECサイト)、12.Quidsi(赤ちゃん製品ECサイトdiapers.comを運営)、13.BuyVIP(ヨーロッパ地域で高級ブランド製品を販売)、16.The Book Repositry(英国で送料無料の書籍販売サイトを運営)が該当します。
(2)アマゾンの製品・サービスを強化・補強する企業
このカテゴリーは、他社の技術・サービスを買収することで、アマゾンの自社製品・サービスを強化する考えに基づくM&Aです。
具体的には、2013年5月、アマゾンはサムスンからLiquavista(リクアビスタ)という企業を買収しました。この買収の狙いは、リクアビスタがもつ電子ペーパー的な省電力のカラーディスプレイの技術を、自社製品のKindleへ応用することです。この技術がKindleに採用されるかは現時点で不明ではあるものの、買収を通じて、自社製品を強化するという方向に違いありません。
リクアビスタ以外にも、このカテゴリーには、1.Reflexive Entertainment(アマゾンストアでゲームを販売)、3. Shelfari(Kindleと書棚サービスで連携)、6.Without a Box(先述のアマゾン子会社IMDbと映画祭出展サービスで連携)、7.Box Office Mojo(IMDbと映画興行成績集計で連携)、8.SnapTell(子会社A9と画像検索で連携)、14.Touchco(タッチスクリーン技術をKindleに応用)、17.Yap,24.Evi(アップルのSiriに似たオンラインアシスタントサービス)などがこれに相当します。
(3)買収によってライバルとの競争を優位に立つ
このカテゴリーは、アマゾンの競合企業が利用しているサービス、もしくは、今後参入する可能性のあるサービスをアマゾンが買収することで、競争をする上で優位に立つための買収です。
たとえば、2013年3月に7.75億ドルで買収したKiva Systemsは、倉庫において、アイテムを自動でピックアップするロボットを製造しています。こうした技術はアマゾンの物流センターに応用されると考えられますが、それ以上の価値をもたらすとみられるのが、ウォルマートとの競争です。
現在、ウォルマートはアマゾンを追いかけて、オンライン販売を強化しています。そして、ウォルマートのような膨大な商品を扱う会社がオンライン販売を展開する場合、やはり、Kiva Systemsのようなロボットが欠かせません。実際に、Kiva Systemsの買収の入札にウォルマートも入札を実施したと言われており、アマゾンが先んじて買収することで、ライバルとの競争を優位に進めています。
もう一つの例が、2013年3月に買収したソーシャルリーディングを提供するGoodreadsの買収です。アマゾンは、言うまでもなく、自社開発の電子書籍リーダーKindleさらにはAndroidをベースにしたKindle Fireを投入して、電子書籍での圧倒的なシェア獲得を目指しています。
読みたい本、読んだ本を友達同士でディスカッションするGoodreadsは、こうしたKindleとの親和性は高いことは間違いありません。電子書籍リーダーの分野は、アマゾンだけではなく、ソニーや楽天(Kobo)、バーンズ&ノーブル(Nook)も提供しており、Goodreadsの買収はこうした他の電子書籍リーダーメーカーとの競争を優位に進める手段とも考えることができます。
こうしたライバル会社に差をつけるための買収としては、Kiva Systems、Goodreadsの他にも、19.Love Film(英国でオンラインDVDレンタルを展開、米オンラインDVDレンタル大手Netflixへの対抗)が挙げられます。
【次ページ】アマゾンの次の戦略は?2軸で分離すると見えてくるもの
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