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  • 2023/12/15 掲載

「ワーホリ希望者の増加」の裏事情、稼げない国「日本」はどれだけ深刻なのか?

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英国政府が日本人向けのワーキングホリデー(ワーホリ)の枠を大幅に拡大する。ワーホリは若者の相互交流を目的とした制度であり、枠の拡大自体は喜ばしいことだが、日本からの渡航希望者が増えている事情を考えると必ずしも素直に喜べる状況とは言えない。背景には、日本の貧困化によって労働輸出国になりつつある現状があるからだ。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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日本は貧困化により、労働輸出国になりつつある
(Photo/Getty Images)

外国で働くことは容易ではない

 英国におけるワーホリを使った日本人渡航者の受け入れ枠は、これまで年間1500人だったが、2024年からは4倍の6000人になる。ワーキングホリデーの制度を使った英国への渡航希望者が増えており、年間1万人ほどの日本人が渡航を希望していたが、枠が少ないため大半の若者が断念せざるを得ない状況だった。大幅拡大で希望者の半分以上が渡航できる計算となる。

 ワーホリというのは、双方の若者が長期間、互いの国に滞在し、文化や生活様式など相互理解を深めるための制度である。旅行などの短期滞在では実現できないような深い交流を目的としているため、1年から3年程度の長期滞在が可能となっていることが多い。

 日本は1980年にオーストラリアとの間で制度をスタートしたのを皮切りに、現在では約30カ国と取り決めを結んでいる。一般的に長期滞在ということになると、経済的に余裕のある人しか実現できない。こうした状況を防ぐため、ワーホリの制度では滞在費用が捻出できるよう、現地で就労できる条件がついている。

 ワーホリはあくまで相互交流を目的としたものだが、場合によっては就労ビザのように使える制度ということにもなる。日本は島国のせいか、ほとんどの日本人が外国での就労に関心を寄せていなかった。メディア関係者もこうした問題について無知な人が多く、簡単に外国で働いたり移住ができるかのような記事も多い。外国で働くことの障壁は英語だけだと思っている人も少なくないのが現実だ。

 だが現実はまったく異なる。

 各国は、自国の産業や労働者を守るため、外国人が自国内で働くことについて厳しく制限しているケースがほとんどであり、就労ビザを獲得するのは容易なことではない。日本からは毎年、多くの学生が米国などに留学していくが、卒業後、現地で就労ビザを獲得できる人はごく一握りである。日本にある米国企業の現地法人に採用される人は多いが、本国での就職の道は厳しく制限されていると思って良いだろう。

 留学はあくまでビジネスなので、先方も笑顔で迎え入れてくれるが、就労となるとまったく状況が違うというのが一般的な解釈だ。運良く外国で働くことができた人であっても、ビザの期限が終了するタイミングに失業すると滞在の延長ができなくなり、やむなく帰国するケースも少なくない。

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外国で働くことは容易ではない
(Photo/Getty Images)

就労目的でワーホリを目指す人が増えている

 あまり大っぴらには語られていないが、外国企業への就職が決まり、就労ビザを取得しようとしたところ、原因不明でビザが発給されないという事例も時折耳にする。背景を調べてみると、日本での学歴が足りないことが原因だったという話も珍しくない。

 各国は高度人材については積極的に受け入れたいと考えているものの、そうではない人材の就労は望まないというのが偽らざる本音である。このケースでは、当該国が日本人にビザを発給する場合、旧帝大や早慶クラスの大学でなければなかなかビザが下りないというのが真相だったようである。こうした事例からも、外国で就労ビザを取得することがいかに大変なのかお分かりいただけるだろう。

 日本では人手不足を解消するため、政府と産業界が積極的に外国人労働者の受け入れを進めているが、先進国の中でここまで簡単に外国人労働者を受け入れている国は珍しい(日本は賃金や生活環境などにおいて魅力がないため、ここまでしないと労働者が来てくれないという切実な事情がある)。

 こうした現実を踏まえると、特段、何の要件もなく現地で1年から3年にわたって就労が可能というワーホリの制度というのは例外中の例外と言っても過言ではない。繰り返しになるが、ワーホリはあくまで若者の相互交流を目的とした制度であるからこそ、こうした特例が認められている。

 ところが経済水準が著しく落ちている国の若者からすると、この制度は魅力的な就労ビザに見える。

 近年、ワーホリの制度を使ってオーストラリアなどで働く若者が増えており、テレビなどでもよく取り上げられるようになった。オーストラリアの最低賃金は日本の2倍以上もあり、同じ単純労働であっても稼げる絶対値が異なる。

 もちろん現地の物価は日本よりもはるかに高いのだが、年収の一定割合を貯金するということであれば、年間200万しか稼げない日本と、同じ仕事で2倍以上稼げるオーストラリアでは、圧倒的に多くの金額を貯金できる。アルバイト的な仕事であっても、年間400~500万円も稼げるのであれば、質素な生活を心がけ、2割の貯金を実現できれば、2年間で200万円もの貯金が可能だ。日本では到底実現できない金額と言って良いだろう。 【次ページ】日本はいよいよ労働者輸出大国に

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