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京都の歴史と文化をはぐくみ、情緒たっぷりの街並みを形成してきた伝統的木造建築の「京町家」。その保存を目指した「京町家保全・継承条例」案が9月、京都市議会に提出される。2016年度までの7年間に市内で5,600軒以上が消失したことが明らかになったのを受け、所有者に取り壊しの際、事前の届け出を義務づける内容だ。しかし、京都府立大の宗田好史副学長(都市計画)は「住人だけの力で京町家を保存するのは難しい。京町家を活用する新たな担い手が必要」とみている。
1棟貸しの宿泊施設が外国人観光客に人気
漆喰の土間、内玄関から客間越しに見える庭、高い吹き抜けに黒光りする大黒柱。壁のしみ1つひとつに歴史と伝統が感じられる。京都市の中心部・河原町に近い下京区で営業する1棟貸しの宿泊施設「筋屋町町家」だ。
建物は木造2階建て延べ約200平方メートルの京町家で、明治時代に建てられた築140年。もともと豆問屋の母屋として利用されてきたが、2004年から宿泊施設に生まれ変わった。
1階に和室と台所、岩風呂、2階に和室とベッドルームが2室ずつある。思いのほか広々とした空間が広がり、大家族や団体旅行にぴったり。利用客の7割が中国など海外からの観光客で、残り3割を日本人が占める。
運営する庵町家ステイは下京区を中心に京町家13軒を1棟貸ししているが、どこも京都ならではの風情を味わえるとして外国人観光客に好評という。三浦充博社長は「家は人が住み続けて残すのが1番。住人がいなくなっても、宿泊施設に活用すれば京町家を次の世代へ伝えられる」と力を込めた。
1日2.2軒のペースで京町家が消失
京町家は1950年以前に伝統軸組構法で建てられた木造建築を指す。多くが狭い路地に面した2階建て。間口が狭くて奥行きが長いため、「ウナギの寝床」と呼ばれている。
内部は土間の通り庭に沿って部屋が続き、奥に庭を設けている。規模の大きな商家だと、表の店舗と裏の住宅を坪庭で結ぶ構造が多い。外観は格子戸や出格子、土壁などを備えるのが特徴。江戸時代末の戦火で京都の大半が焼失したため、現存する京町家の多くは明治時代以降に建築された。
しかし、庵町家ステイの宿泊施設のように再利用される京町家は少なく、老朽化で解体される京町家が相次いでいるのが実情だ。市が2016年度、京町家の残存状況を市全域で調べたところ、7年前に比べて5,602軒が失われていることが分かった。
調査対象は2008、2009年度の前回調査で残存が確認された4万7,735軒。うち、現存していたのは4万146軒で、滅失5,602軒、調査不能など1,987軒。滅失率は11.7%に及び、1日当たり2.2軒のペースで京町家が消えている勘定になる。
現存する京町家のうち、空き家は14.5%。前回調査の空き家率が10.5%だったことから、空き家化が急速に進みつつある実態も浮かび上がった。
京町家は建物が古く、維持管理が大変。リノベーションするにしても、その特殊な形状から間取りの変更が難しく、費用も高くつく。所有者の多くが高齢化しているだけに、持て余しているとみられる。
市の有識者会議が保存条例の制定を答申
こうした現状に危機感を抱いた市の有識者会議は5月、保存に向けた条例の制定を門川大作市長に答申した。市内の京町家すべてを対象に、取り壊し前の届け出を努力義務とする内容だ。
このうち、京町家が集積し、街並みを形成する地域や景観保護、文化継承で重要な京町家は、市が指定して事前届け出を厳格に義務づける。取り壊し工事は届け出から1年間着手できない。無届けや届け出後1年以内に取り壊した場合、所有者に罰則を課す。
規制だけでなく、所有者への支援策も盛り込んだ。市が活用方法の情報提供、活用希望者とのマッチング、資金や技術面の支援を進めることなどだ。
経済界からも京町家の保存を求める声が出ている。京都経済同友会の都市問題研究委員会は4月、流通促進や所有者の負担軽減を求める提言をまとめた。マッチング仲介システムの整備、固定資産税や相続税の軽減などを柱としている。
市は9月市議会に条例案を提出するため、最終的な詰めの作業を続けている。市まち再生・創造推進室は「京町家は京都の宝。パブリックコメントで寄せられた住民の意見も盛り込み、市を挙げて保存に取り組むことができる条例を制定したい」と意気込んでいる。
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