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修繕もままならず、廃墟と化すのを待つしかない「限界マンション」が全国で増えてきた。行き場のない高齢者が取り残され、都会に生まれた限界集落の様相を示している。そこに見えるのは、人口減少時代を迎えながら住宅の過剰供給に打つ手を持たない住宅政策の貧困ぶりと、世界に類のない速度で少子高齢化が進む未来の縮図だ。松本恭治 高崎健康福祉大 元教授(住居衛生学)は「日本には古いマンションを維持し、長く利用する仕組みがない」と批判する。老朽マンションが生き残る方法はないのだろうか。ヒントを京都市の古いマンションで見つけた。
住民が「長期修繕計画」を動かす京都・築41年のマンション
古いマンションに近所の母親が子供を連れて集まってきた。子供たちがはしゃぎまわる中、顔見知りを見つけて話し込む。京都市右京区の分譲マンション・西京極大門ハイツで2008年から続く日曜喫茶コーナーは、地域にすっかり根を下ろした。
運営するのはボランティアとして働くマンションの住民だ。もともと住民の交流の場として始めたが、近隣の団地やマンションからも大勢が集まるようになった。ホール3階にはミニ図書館のカンガルー文庫が設けられ、住民以外も無料で利用できる。ここもまた、住民の交流場所になっている。
西京極大門ハイツは鉄筋コンクリート7階建てで、190世帯が暮らす。1976年に入居が始まり、築41年。分譲開始から暮らし続ける住民は60代を超えた。老朽マンションに分類されてもおかしくないが、途中入居の住民は子育て世代が多く、マンション内は活気に満ちている。
法人化された管理組合が1994年から自主管理している。最初は管理会社に任せていたが、大規模修繕工事の際、積立金が必要額の1割に満たず、金融機関の融資でしのいだことがあった。それをきっかけに住民の手で運営している。
管理組合が考えたのは、建物の老朽化を克服し、長く住み続けられるマンションにすることだ。長期修繕計画の発展形ともいえるまちづくりマスタープランを策定、計画を立てて修繕を繰り返した。
自主管理で省エネや子育て世代の誘致に成功、価格も分譲開始時の3割増
窓ガラスは断熱性の高い真空ガラスに全戸交換し、屋上や外壁に断熱工事を施したほか、バリアフリー工事も済ませた。配管は見栄えを良くするため、内部に埋め込んでいる。電気は高圧一括受電方式に転換、共用部分の照明もLEDに変え、省エネを推進している。
その結果、マンション内の電気、ガス使用量は、市内の一般家庭の3分の2に低減された。共用部分の電気代も年280万円が110万円に。しかも、管理会社を使わないことで余計な費用が抑えられ、毎年2か月分の管理費余剰金を住民に返している。
マンションを活気づかせるためには、子育て世代の入居が必要と考え、敷地内のレイアウトを変更して子供たちが遊べるスペースを確保した。近隣のビルを買い取り、日曜喫茶やミニ図書館、ゲストルームを設けたのもこのためだ。駐車場、駐輪場を拡張したほか、ATMも誘致した。
管理組合にコミュニティ委員会を設置し、桜祭り、夏祭りなど年4回のイベントを開催している。サークル活動も活発に行い、マンション内だけでなく近隣住民とのコミュニケーションも大切にしてきた。
こうした活動はマンション管理、環境保護の両面で高く評価され、京都マンション管理評価機構から2010年に優良評価、京都市から2015年に京都環境賞を受けた。外部からの高評価は入居者確保や資産価値に好影響を与えている。過去5年間に約25世帯が入居したが、大半が子育て世帯。マンション価格も分譲開始時の3割増になったという。
特に変わった事業をしているわけではない。自主管理で浮いた資金を省エネや維持に回しただけだ。当たり前のことをするだけでマンションはこれだけ変わる。
管理組合の運営はマンション経営に関心を持つ住民が交代で理事長を務めている。佐藤芳雄理事長(66)は「マンション管理は会社経営と同じ。管理会社任せや素人役員が1年交代で務めていたのではうまくいかない。マンション管理を学び、将来を考えるうちに自ずと道が開けた」と振り返る。
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