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  • 2017/04/12 掲載

リーダーシップを放棄したトランプ政権、米国TPP撤退で日本に残された2つの策

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誰もが予想だにしなかったトランプ政権の誕生し、その外交政策や経済政策を不安視する向きも多い。ますます混迷を深める世界情勢だが、これから世界はどう変化するのだろうか。日本再建イニシアチブ(RJIF) 理事長 船橋洋一 氏と、ゴールドマン・サックス証券(GS)副会長で、証券アナリストランキング首位にも輝いたキャシー・松井氏が、トランプ政権発足以降の世界情勢と、今後の予測などについて議論を交わした。
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ゴールドマン・サックス証券キャシー・松井氏、RJIF船橋洋一氏が今後の世界情勢を占う

トランプ政権誕生で生まれた期待と不安

 新経済サミット2017のセッション「トランプ政権の外交・経済に日本はどう対処すべきか?」のモデレーターを務めたピーター・ランダース氏は、「トランプ政権が誕生して数か月が過ぎたが、いま世界はどう変わろうとしているのか?」と船橋氏、松井氏に問いかけた。

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ウォール・ストリート・ジャーナル
東京支局長
ピーター・ランダース氏

 船橋氏は「ナショナリズムや大衆迎合主義が台頭し、経済的な低迷が根本的な原因となり、トランプ政権が成立した。グローバル化や技術革新で失墜した人々が現れ、政治面での不満が高まったが、主流政党が彼らに耳を傾けなかった点にも原因がある。

 しかし、いまトランプ政権の運営は苦難に直面している。有権者の支持を維持できていないからだ。この苦難はしばらく続くと見ている。そうなると気になるのが、外交政策の行方だ」と分析する。

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日本再建イニシアティブ
理事長
船橋洋一 氏

 松井氏は、金融業界に身を置く立場から、市場の異なる反応について触れた。同氏は「誰もがトランプ氏が当選すると思わなかったし、マーケットの反応も予想できなかった。いま現実には『トランプ相場』が起き、株価が劇的に上昇している。

 グローバルな金融市場の反応はポジティブだ。彼に期待するのは、減税やインフラへの財政支出など、米国経済に対する刺激策だ。これは成長率の起爆剤になるだろうが、まだ不確実性や懸念も残っている」と、期待と不安を交えながら語る。

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ゴールドマン・サックス証券
副会長
グローバル・マクロ調査部
アジア部門統括
チーフ日本株ストラテジスト
キャシー・松井氏

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 こうした中で日本への影響として懸念されるのは、トランプ氏が公言した貿易に対する強硬姿勢だ。

 同氏は「これまで米国は相手国に対して弱腰であった。もっと強く出なければならないと述べているが、保護主義的な方策を実施することになれば、日本にも貿易と為替でマイナスのインパクトが起きるかもしれない」と懸念する。

 これに対してランダース氏は「北朝鮮やイギリスのEU離脱など、多くの向かい風があるものの、グローバルでは景気は全体的に良い方向に向いているようだ。これをどう見るか?」と、松井氏に質問を投げた。

 松井氏は「念頭に置くべきことは、米国も日本もヨーロッパにおいても、資本コストと金利が低いことだ。いまはスタートアップでも資金調達がしやすい。これはFRBや日銀やECBが意図的にやっている。

 日本は失業率が低く、有効求人倍率も高く雇用も多い。優秀なスタッフを囲い込むには、さらに給料を支払う必要があり、賃金は上昇していく。原油価格も下がっている。そうなると日本のインフレは正常化し、金利も上昇し、資本コストも上がってくるだろう」と予測する。

危機的な北朝鮮情勢、日本が果たせる外交的努力は

 次にランダース氏は、このところキナ臭い動きを見せている北朝鮮情勢について触れ、「いま日本では、北朝鮮のミサイルが飛んでくるのではないか、という心配もある。グローバルな視野で、アジアについて潜在的なコンフリクトはないのか?」と話を向けた。

 船橋氏は「いま両国の関係は非常に厳しいと思う。北朝鮮に関しては、これまで何度も核問題が起きている。1回目は寧辺(ヨンピョン)での核開発計画だった。当時、カーター大統領と金日成元主席が核開発の凍結オプションを出した。

 (2回目は)2002年、ウラン濃縮が発覚したが、今回は3回目になる。すでに北朝鮮は米国にICBMを打ち込める能力を持つほどになりつつある。さらに核弾頭を小型化し、攻撃能力を強化できる状況だ。決してこれは正常な状況ではない」と危機感を示した。

 先般、米国のティラーソン国務長官が「20年にわたる北朝鮮への政策は失敗だった」と声明を出し、米・中・韓・日・ロシアの間で、緊急意識が共有され始めた。警戒を強めた中国は、北朝鮮からの石炭輸入を1年間中止することを発表した。

 だが米国は意図的にあいまいな立場をとり、現時点では軍事攻撃については玉虫色の発言をしている。

 船橋氏は「これは、米国が中国に対してレバレッジを効かせる意味合いもある。次の施策としては、北朝鮮と取引する企業が制裁リストに加わるだろう。中国がどう対応するかは、これから見ていかねばならない。しかし制裁は戦略ではない。何の目的で制裁を強化するか、これが大きな問題だ。北朝鮮の政権を変えるためなのか、あるいは交渉の席に着かせるためのものなのか」と疑問を呈した。

 とはいえ現時点で、北朝鮮が交渉に戻る可能性は低いだろう。北朝鮮が核の能力を放棄するとはありえないからだ。同氏は「2020年、北朝鮮は100基の核兵器を持つことになるだろう。英国の半分の能力だ。これは異常な状況だ。いま目前で展開していることは、我々が過去40年以上、遭遇したことがなかった深刻な危機だ」と繰り返し強調する。

 ランダース氏は「そういった危機的な状況で、日本が果たせる役割とは何か?」と問いかけた。

 船橋氏は「残念ながら日本が果たせる役割は限定的でしかない。日本が米韓と協力し、何らかの危機対応策をまとめられれば、中国に対して圧力をかけられるが、まだ3国間での合意はできていない。いま韓国も中国も北朝鮮に刺激を与えたくないから消極的だ。しかし、そろそろ日本も外交努力によって韓国を説得し、米国と共に協力を取り付けるべきだ。恐らく、いま日本ができることとして、最も強いメッセージになる」と説明する。

 逆にいえば、中国が対北朝鮮の圧力を真剣に引き上げない限り、事は何も進展しないという話だ。そこで危機対応策をまとめることが、日本にできる最大の貢献というのだ。

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