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  • 2017/04/05 掲載

アメリカのロボット事例まとめ、製造・物流・サービス・農業・医療でどう使われているのか

連載:シリコンバレーから見た米国ロボットトレンド

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前回はアメリカのロボット政策をマクロの視点から捉え、キーとなるロードマップ「From Internet to Robotics」について紹介した。今回はミクロの視点で、特に成長が著しい製造、サービス、農業、医療・ヘルスケアについて、足元ではどのようなイノベーションが起こっているのか、具体的な企業の動向を見ていく。また、勃興するスタートアップの背景には、失敗例も含めて過去の研究開発投資から生まれた技術・人材基盤が存在する。こうした近年のロボットスタートアップブームを下支えする基盤の歴史的経緯についても紹介していこう。
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双腕ロボット「Baxter」で有名なRethink Roboticsが開発した片腕の「Sawyer」
(出典:Rethink Robotics)


製造分野は「協働ロボット」と「知能化技術の活用」に注目

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 まずは製造の領域だ。今でこそ産業用ロボットは日本やドイツのメーカーのイメージが強いが、世界で初めて産業用ロボットを実用化したのはUnimationという米国コネチカット州の会社で、産業用ロボットの父とも呼ばれるJoseph Engelberger氏らによって1956年に設立された。

 1961年にGMの製造ラインに導入されるなど、自動車産業を中心に広がり、中西部や東海岸でのロボット集積へとつながっている。Unimationが買収した会社のメンバーが西海岸の研究所からスピンアウトして1983年に設立されたのがAdept Technologiesで、今度は画像処理を取り入れたロボット制御の技術を生み出した。

 この領域のイノベータとして触れておくべきは、協働ロボットを開発するRethink Roboticsだろう。Rethink RoboticsはiRobot創業者で元MIT教授のRodney Brooks氏によって2008年に設立され、協働ロボットのパイオニアとして製品を送り出してきた。双腕のBaxterに続き、2016年には片腕でより小型のSawyerをラインナップに追加している。

片腕ロボットのSawyer


 デンマークのUniversal Roboticsをはじめとして協働ロボット市場の競争が激化するなか、Sawyerの開発にあたっては、Baxterでは対応できなかったタスクをリストアップして最大公約数的に仕様を決定し、産業用ロボットの開発期間としては比較的短期の1年半で販売までこぎつけた。Baxterの主要な顧客産業ではなかったエレクトロニクスなどで好調な売れ行きとのことであり、今のところ、目論見通りの事業展開が進んでいるようだ。

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Sawyerが活躍する現場
(出典:Rethink Robotics)


 Sawyerはソフトウェアの良さを活かし、ロボットを継続的に使いやすくしていくことをコンセプトとして掲げている。先日もSawyer向けに「Intera 5」と呼ばれるソフトウェアプラットフォームが発表された。

 Intera 5を使えば、複雑なプロセスであっても、直感的なUIに従って構築・アップデートが可能になり、専門的な知識を持たないユーザーでもロボットを含むプロセスの設計ができる。

 ロボットが既存の用途以外にも広がり、新たなニーズが生まれるにつれて、ロボットの活用範囲を広げるためのモジュールを開発するスタートアップも出てきている。まだ人間に遠く及ばないのが物をつかむ「ラストワンハンド」作業なのだが、Robotic Materialsは触覚センサー付きのグリッパーを、SAKE Roboticsは頑強で把持力の高いグリッパーをそれぞれ開発し、この問題を解決しようとしている。また、HEBI Roboticsではロボットの研究開発向けに、角度、速度、トルク、温度、電圧、電流などさまざまな指標の計測が可能な組み立て式のモジュールを提供している。

 非営利研究機関になるがSouthwest Research Institute(SwRI)の活動も注目だ。ロボット向けのオープンソースソフトウェア であるROS(Robot Operating System)の産業ロボット用パッケージ、ROS-Industrialの管理をしており、ROS-Industrialを生み出したShaun Edwards氏も2016年まで在籍していた。

ROS-Industrial


 SwRIは主に大企業からの受託研究を通じて技術開発を行い、公開可能な部分は積極的に公開してオープンソースとして利用可能にしている。

 筆者の訪問時には建機・農機や航空機メーカー向けにKinectなどの3次元センサーを使ったプロジェクトが複数進行しており、キャリブレーションレス・ティーチングレスのバリ取り用の経路生成技術や、薄板向けの塗装のダイナミックな経路更新技術を見ることができた。

物流分野はAmazonによるKiva買収による影響も

 サービスロボットの領域では、これまで市場を作ってきた掃除ロボットや、日本企業での取り組みが多く見られるコミュニケーションロボット以外で注目の集まる、業務用(プロフェッショナル用)ロボットを取り上げた。

 まずは成長著しい物流の分野から。ここでは自律移動ロボットによる物流センターの自動化・省人化を目指すAmazon Robotics(旧Kiva Systems、2012年にAmazonが買収)、Locus Robotics、Fetch Robotics、RightHand Robotics、Universal Logic、6 River Systems、キャリブレーションレス・ティーチングレスのパレタイジングを目指すKinema Systemsなどを押さえておきたい。

 Amazonでは自律移動ロボットの導入による倉庫のスループット向上とコスト削減を進めており、毎年ホリデーシーズンに向けて厳しい数値目標を設け、倉庫の自動化率を高めている。

 一方、 Amazonによる買収前からKiva Systemsの顧客であった企業はその技術革新の恩恵に預かれなくなったため、自社内にKiva出身者をヘッドハンティングしてきたり、他のスタートアップと手を組んだりして対抗している。倉庫ロボットを開発するLocas Roboticsも、元々はKivaのユーザー企業であった。

 Amazon Roboticsが新設拠点向けの高いレベルでの自動化へと突き進むのに対し、Locas RoboticsやFetch Roboticsは既存の倉庫でも使えるようなソリューションを提供している。ロボットとソフトウェアの構成は作業員とロボットのコラボレーションを想定しており、作業員をロボットが追従する設定も可能だ。

 たとえば、Fetch Roboticsでは自走するモバイルロボットを移動プラットフォームと位置付け、その上に棚やカート、倉庫内のスキャン用のセンサー、ピッキング用のロボットアームなどさまざまなアクセサリーを取り付けられる仕組みになっている。

 自律移動のモバイルロボット群を管理するソフトウェアでは、顧客が自前の倉庫管理システムを使っている場合にそのインテグレーションも行うほか、独SAPとの協業によってSAPの拡張倉庫管理(EWM)ソリューションとの連携も可能にするなど、物流倉庫の顧客のニーズに合わせた柔軟なソリューション提供を行っている。

自律移動ロボットの成否を分けるのは作り込み

 自律移動ロボットを工場内や倉庫内ではなく、より日常生活に近いシーンで一般人と接する使われ方が提案されている例としてSaviokeとSimbe Roboticsがある。Saviokeはホテルで宿泊客からのルームサービスのリクエストに応える配達ロボットを導入している。

 自律移動ロボットの商品格納庫にフロントのスタッフが品物を入れ、本体上部のタッチパネルを使って配達先の部屋番号を入力する。ロボットはホテルのエレベーター管理システムとの連携によりエレベーターを使って移動することが可能だ。配達先の部屋の前に到着すると、システムからホテルの内線システムにつないで部屋の電話を鳴らし、宿泊客がドアを開けると商品格納庫が開くという仕組みになっている。

 エレベーターに乗る際は移動スピードを落とす、乗ったあとは人と同じようにドアの方を向く、配達後に宿泊客から受ける評価のレーティングによって喜びを表現するなど、ロボットが宿泊客と接するにあたって社会性を備えているように見えるような動作のデザインがされているのが特徴だ。

Saviokeの動作イメージ


 Simbe Roboticsは小売店向けの在庫確認ロボットを開発している。スーパーやドラッグストアの商品陳列棚を本体側面に搭載されたカメラを使って撮影し、画像・文字認識を使って店頭在庫不足による機会損失を防ぎ、また、在庫確認に割かれている人件費を削減する。このロボットもSaviokeと同様、買い物客がロボットを怖がらないよう、また、ロボットが何を行っているのがシンプルに伝わるようなデザインになっている。

Simbe Roboticsの製品


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