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- 2017/03/23 掲載
「宇宙エレベーター」の仕組みと実現への課題は?山崎直子氏、富野由悠季氏らが議論
宇宙エレベーターはどのような仕組みなのか
気象観測用衛星の「ひまわり」をはじめとする人工衛星は、赤道上空の高度約3万6000キロメートルに打ち上げられ、静止軌道を回っている。地球が1日で1回転するのと同じスピードで地球の周りを回っているので、止まっているように見え、これが「静止衛星」と呼ばれる理由である。宇宙エレベーターの仕組みは、この静止衛星と同様である。静止衛星から地上に向けてワイヤーやリボン状の紐(ケーブル)をたらし、これを伸ばして地上に近づけていく。
しかし、ケーブルの重さで全体の重心が地球に近くなってきて落ちてきてしまうため、地球と反対側にもケーブルを伸ばしていく。全体の重心が上手く釣り合うように両方に伸ばし続けると、最後には地球に伸ばしたケーブルは地上に届くのだという。
宇宙エレベーターで実現される未来とは
大野氏は「現在の静止軌道への輸送コストは、H2Bロケットで1キログラムあたり130万円以上だ。スペースXのロケットでも50万円はかかる」と宇宙における輸送コストの高さを説明する。
これが、もし宇宙エレベーターが実現した場合、最小サイズ(13トン)の実証用でも、1キログラムの輸送コストは11万円ほどで済むといわれている。より大型化した宇宙エレベーターを数百台ぐらい建設できれば、さらにコストを約100分の1まで下げられるかもしれない」と、未来の輸送手段として期待が持てるというのだ。
また、宇宙エレベーターの実現によって、エネルギー問題も解決できるかもしれない。
いま地球の人口は毎日20万人ほど増えているため、彼らが利用するエネルギーを賄っていく必要がある。大野氏は「そこで米国や日本では、宇宙空間にメガソーラーを置く『宇宙太陽光発電』によって、地上よりも20倍以上の効率で発電し、エネルギーをマイクロ波で送電しようというアイデアも出ている」と語る。
またレアメタルなどの鉱物資源を、地球上でなくて小惑星に求める「アストロ・マイニング」の話もあり、米国では政府も法的に承認し、いくつかのプロジェクトが動いている。
「惑星には鉱山採掘に関する所有権の概念がなく、早い者勝ちの世界だ。宇宙条約で国が所有することはできないが、市民や企業ならば所有権を認められている。いずれ宇宙に資源を求める時代が訪れるだろう。そのときにロケットでなく、宇宙エレベーターが役に立つものと考えられる」(大野氏)
宇宙エレベーターは地球のみならず、月や火星にも建設できると言われている。そうなると、重力圏から出入りする道具としての機能だけでなく、「SPACE Slingshot」として真価を発揮できるだろう。
地球の自転とともに回転する宇宙エレベーターからモノを放てば、ハンマー投げと同じ原理で、いろいろなモノを飛ばせるようになるのだ。
大野氏は「地上5万2000キロメートルからタイミングを計って、宇宙船や貨物船を投げれば、火星まで飛ばせる『宇宙パチンコ(宇宙ハンマー投げ)』も実現する。そうなれば、太陽系の大物流網がつくれるかもしれない。惑星間で宇宙エレベーターが建設でき、惑星間でモノを投げあって、資源の開発も可能になる。これが宇宙エレベーターの真価だと思う」と強調した。
宇宙エレベーターは本当に実現できるのか
宇宙エレベーター協会の「GSPECキックオフミーティングイベント」では、顧問やフェローメンバーが集まり、宇宙エレベーターに関する思いや、将来の方向性などについて活発な議論が行われた。モデレータは元朝日新聞の久保田裕 氏が務めた。まず各パネリストが、宇宙エレベーターに関する個人的な見解について語った。
「機動戦士ガンダム」などのアニメ監督・演出家として著名な富野由悠季 氏は、次のように宇宙エレベーターに関して持論を述べた。
「(宇宙エレベーターは)まだ夢物語的な視点もあるが、すでに人類は月まで到達し『認知革命』が始まっている。宇宙から人類が地球を振り返れば、太陽系を生活圏とすることも不可能ではないだろう。ぜひ若い人にも宇宙エレベーターの課題を真剣に考えてもらいたい。
ロケットは乗り物としては危険なので、宇宙エレベーターの考え方も悪くはないと思う。これを起点に、今後100年をかけて、宇宙進出の意味や方法論などについて、具体的な研究や実証を行っていく必要がある」
実際に宇宙に行った経験がある宇宙飛行士の山崎直子 氏は、自身の体験に基づいて発言した。
「私は地上400キロメートルの宇宙で実験を行ったが、せっかくなら友達や家族と一緒に行きたい。それにはスペースコロニーが必要だ。地球は『水の惑星』だが、実は日常で使える淡水は少なく、木星や土星の衛星のほうが、地球より水が多い場所もある。
水資源を活用すれば酸素もつくれ、現地で食物を生産できる。宇宙エレベーターは輸送コストの低減が主な目的だが、まだ技術的な課題も多い。
しかし火星に都市をつくろうと考える国もあるぐらいなので、宇宙エレベーターも実現が不可能というわけではないと思う。大きな目標をもてば、技術も追いつく」
昨年、無重力を体験したという東海大学の佐藤実 氏は期待感を示している。
「無重力状態は楽しい。宇宙エレベーターは加速度(G)があまりかからず、普通のエレベーターに乗れる人ならば問題ない。もしも宇宙エレベーターができれば、そこに宇宙ステーションの都市が生まれ、人が暮らすようになる。いま宇宙は探検・冒険の時代だが、やがて技術者が出張して長期滞在できる開発の時代になる。宇宙エレベーターという選択肢を排除するには、まだ早計すぎると思う」(佐藤氏)
九州大学名誉教授の八坂哲雄 氏も、宇宙エレベーター実現に期待を寄せる。
「学生に『宇宙に聞きたいか?』とたずねると、3分の2が『大金をかけても行きたい』と答える。人には冒険心が内在している。宇宙エレベーターの技術障壁はケーブルの強さだ。しかし宇宙には巨大建造物がつくれる。宇宙エレベーターはその最たるもの。高度10万キロメートルから建設すると、100トンの重量になる。1基あたり、10兆円のコストは必要だ。こういった宇宙エレベーターの知識を、多くの人に知ってもらいたい」(八坂氏)
【次ページ】宇宙エレベーター実現で人類の認知革命が起きる?
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