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政府がIT製品やサービスを調達する場合、セキュリティをはじめとするさまざまなリスクが考えられるため、一定の基準を策定し、信頼性を認証する必要がある。こうした基準は国をまたいで有効だが、実際に供給する企業も参画しなければ意味を持たない。では米国政府はIT調達の基準をどのように策定しているのか。日本の経済産業省に相当する米国商務省のもとで、米国の経済成長、技術競争力、持続的発展を促進するインフラを整備する任務を担う米商務省国立標準技術研究所(NIST: National Institute for Standard and Technologies)の上級IT政策顧問を務めるアダム・セジェウィック(Adam Sedgwick)氏が解説する。
米国商務省下のNISTが取り組むセキュリティ対策
NISTの所管省庁である米国商務省は、日本の経済産業省に相当する機関だ。米国の経済成長、技術競争力、持続的発展を促進するインフラを整備する任務を担う。NIST内には情報技術に関する研究を行う「情報技術ラボラトリ(ITL:Information Technology Laboratory)」があり、「セキュリティ」「情報アクセス」「数学・計算科学」「ソフトウエア・テスト」「ネットワーク・リサーチ」「統計工学」の6分野を研究している。
また、NISTは政府の技術基準(標準)や調達基準(標準)を策定し、民間団体による規格の利用を促進する活動も実施している。民間企業の提供するサービスが、国の求める基準とニーズに合致しているかを確認し、業界団体と話し合いながら調整する役割も担っているという。
米国に限らず、政府の調達品は、民間企業が開発した技術に依存している。そのため、政府が一定の基準を策定することで、製品サービスを「信頼できる」と認証し、“水準”を保っているわけだ。例えば、NIST推奨の認証暗号化方式である「GCM:Galois/Counter Mode」は、SA(米国国防総省国家安全保障局)やインターネット上のデータ保護などで活用されている。
セジェウィック氏は、「NISTは産業界全体だけでなく、消費者レベルでのサイバーセキュリティ上の安全保障もカバーしている」と説明する。ある調査では、米国人の41%が「セキュリティ上のリスクが恐いので、過去1年間はオンライン決済をしなかった」と回答したことが明らかになった。「オンライン決済の活性化を支援する」という観点から、経済にマイナスインパクトを与えるサイバー犯罪に対応するのもNISTの役割だという。
標準化はグローバル企業が参画してこそ意味がある
では、NISTはどのようにして標準化を推進しているのか。セジェウィック氏は、「グローバルな競争によって標準化を進めている。多くの国の機関や業界が標準に準拠した製品を使うことで、標準の裾野が広がるからだ。そのためにNISTでは、標準化に関する研究開発の情報を公開し、誰でも参照できるよう、オープンかつ透明性の維持に努めている」と説明する。
サイバーセキュリティ分野の国際標準化でNISTが注力しているのは、「ヘルスケア」の領域だ。実際、複数のセキュリティ研究者は、心臓ペースメーカーや不整脈を治療する「体内植え込み型の電気刺激装置」がハッキング可能であることを指摘し、具体的なハッキングのデモも披露している。もし、体内に埋め込まれている機器がサイバー攻撃によって誤作動を起こしたら、人命に関わる。
米国は2009年2月、米国経済再生法の一部として、「経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律」を制定した。同法律では「医療ITの促進」「医療ITの実証」「インフラ等に対する補助金と融資の提供」「プライバシー保護をめぐる取り組み」に関する条文が盛り込まれている。
しかし、法律を制定しただけでは、それが有効に機能しない場合が多い。セジェウィック氏は、「(法律を制定し)ベストプラクティスや標準を策定しても、業界が使いこなせていなかった」と語る。
【次ページ】米国政府がイニシアチブを取るFedRAMPの有用性
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