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  • 2016/08/26 掲載

「VRで世界中をときめかせたい」──オタク型VRコンテンツは世界を席巻するか?

MyDearest 岸上健人インタビュー

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2016年はVR元年と言われる中で、日本でも大変ユニークなベンチャーが海外をターゲットに独自のコンテンツづくりに挑んでいる。そのコンテンツとは、日本市場よりも海外で人気のあるVR向けのオタク・コンテンツだ。自らオタクを自称するMyDearestの岸上 健人氏は「世界中の人々をときめかせるコンテンツをつくりたい」という。いま、まさに同社で開発中のコンテンツや、今後の戦略などについて同氏に話を聞いた。
(聞き手/構成:編集部 中島 正頼、執筆:井上 猛雄)


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日本のオタク・コンテンツでVRの世界を獲れるか

1人1VRの時代がやってくる

──まず、岸上さんの経歴とVirtual Reality(以下、VR)に興味を持ったきっかけについて教えてください。

岸上氏:慶應義塾大学を卒業し、ソフトバンクに入社しました。社内ではBtoBの法人営業担当で、VRとは関係がなかったのですが、大学生のころからずっと興味がありました。学生時代に寮に住んでいたのですが、同じ部屋の人がたまたまVRがものすごく好きで、毎晩VRの話を聞かされていました。それで、いつか自分で事業を始めたいと思っていました。

 僕はもともとアニメが大好きなオタクでした。「ソードアート・オンライン」(以下、SAO)(注1)という有名なライトノベルがあるんですが、そのアニメを見ていたことも、大きく影響を受けています。SAOのアニメが終ったころ、VRヘッドセットの先駆け的存在である「Oculus Rift(オキュラスリフト)」がちょうど登場し、これはいよいよブームが来るな、と感じました。

注1:川原礫による小説。シリーズの累計発行部数は国内で1070万部、全世界で1670万部以上(2014年12月現在)と大ヒットを記録した。VRオンラインゲームの世界からログアウトできなくなり、ゲームをクリアすることだけが現実へ帰還できる術になる、という物語。

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MyDearest 代表取締役
岸上 健人氏

──世間でもVRが注目され始めていますが、最近のトレンドはどうでしょうか?

岸上氏:昨年までは、まだ一般の人はVRについてほとんど興味がありませんでした。しかし今年になって、友人からも連絡が来るようになりました。「VR元年」という報道もありますが、特に「PlayStation VR」(以下、PSVR)の報道があってから、すごい反響がありますね。

 シリコンバレーではVRのハードウェア周りが一段落し、次の要素技術に注目が集まっています。VRで何かをつくったり、作業を便利にしたり、そういう医療や物流といった企業周りの活用が最もホット。一方、日本は異例で、いきなりコンテンツから入っているように感じます。SFなどでさんざん語られてきたVRが現実味を帯びてきて、皆さん「夢が叶う!」と飛びついているようです(笑)。個人でVRコンテンツをつくれる時代になり、インディーズでコンテンツを開発したい人々も多くいます。

 もうすぐ「1人1VR」の時代がやってきます。PSVRが先導して、VRが一般に普及する流れです。他のハードウェアも続々と登場するでしょう。スマートフォンで使えるVRもさらに発達してきます。その結果、多くの人たちがVRを普通に持つ時代になると思います。

欧米の現実的なVRではなく、日本の仮想的なVRが面白い

──岸上さんが思う、VRの面白いところは何ですか?

岸上氏:僕が魅力的だと思う点は「世界観」です。たとえグラフィックがキレイでなくても、ファンタジーだったり、SFであったり、統一感がある世界に入ると、すごく感動します。VRの「Virtual」が「仮想」と訳されるのは、ある意味で誤訳というのは有名ですが(注2)、「仮想現実」はつまり現実ではありません。しかし欧米のVRは、あくまで英語の通り「実質現実」です。

注2:英語本来の意味では「実質的に」「事実上の」といったニュアンスが強く、日本語の「仮想」と訳すと、そこに含まれる「存在しない」「虚構」というニュアンスが誤解を与える、といった指摘がある。

 日本の場合は、本当に「仮想」世界をつくろうということなのです。僕はこちらが面白いと思っています。というのも欧米に多い現実的なVRは所詮、代替品なので、現実には勝てないからです。それでは面白くない。現実に勝っているものを最初から出せばよいのです。

──「世界観」と言うキーワードをもう少し詳しく教えてください。

岸上氏:たとえばバンダイナムコがPSVR用に発売するコンテンツに、VR恋愛ゲーム『サマーレッスン』があります。女子の部屋で、自分が家庭教師になって勉強を教える「ひと夏の思い出」というコンセプトです。もちろんグラフィックもキレイですが、VRになることでゲームの世界観により没入しやすくなっています。

 一言で表現するなら、現実でなくてもリアリティを感じられればよい。それが世界観になります。リアリティとリアルは違うものですから。

三木一馬氏もアドバイザーに! オタク型VRコンテンツで世界中をときめかせたい

──岸上さんが開発している製品や事業について教えてください。

岸上氏:僕たちがつくる製品のコンセプトは、あらゆるものをVR上で体験できるようにする「One million story, One million life」。特にVRでもストーリー性の強いコンテンツを開発している点がポイントです。単なるゲームではなく、日本型のオタク・コンテンツに特化しています。まだ日本には市場がないのですが、海外から引き合いが強く、海外オタクに突き刺せると思ってます。

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「One million story, One million life」を目指すMyDearest。VRでもストーリー性の強いコンテンツを開発している点が特徴だ

──海外のオタクは、そんなに日本のオタク・コンテンツに興味があるのですか?

岸上氏:日本だとPCゲームを楽しまれる方が少ないのであまり知られていませんが、「STEAM」というPCゲーム・プラットフォームがあります。逆に欧米はPCゲームが中心で、STEAMには全世界で1億2000万人も登録ユーザーがいます。このSTEAMで最近オタクコンテンツが大人気で、簡単なつくりのゲームでも、50万本ぐらいの大ヒットになった例があります。いまもホットな状態が続いており、オタク系VRコンテンツを出すとヒットする可能性が高いと感じています。STEAMで言語対応ができればグローバル展開が行えます。僕らは「Born Global Otaku Contents」と呼んでいます。

──現在、ゲームを開発中とのことですが、何名ぐらいの体制でしょうか?

岸上氏:サウンドクリエイター、サーバーサイドエンジニア、プログラマー、3Dのクリエイター、イラストレーターといった5名で動いています。VR会社はプログラマーが中心ですが、グラフィックやキャラクターデザイナーがいることが我々の特徴です。前述のSAOの編集者で、業界において超有名なプロデューサー三木 一馬氏にも外部アドバイザーになってもらっています。

 もともとの発端は、起業前のインディーズ時代に日本最大級のVRイベント「Oculus Festival」(現JapanVRfes)で、初めての作品「学園青春VR」を出展したことが始まりです。日本独特の美少女ゲームをVR化することに挑戦しました。結果的にコンセプトがすごくウケて「ぜひ次も作って!」と熱望されました(笑)。



 僕らの理念は、世界中をときめかせたいということ。僕自身も学園モノのラブコメが大好きで、少女漫画を何千冊も読んできました。誰もが「ときめき」という言葉を恥かしがりますが、なぜかと考えると、実はみんながときめいていないからだと。だから世の中の人たちをドキドキさせたいと思ったわけです。

【次ページ】 良質なコンテンツを発掘し、「VR界のジャンプ」を目指す
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