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- 2016/08/01 掲載
CPSとは何か?IoTと何が違うのか 日本IBM 山本宏CTOに聞く「IoT」と「匠」の融合
インダストリー4.0とはいったい何なのか
山本氏:「インダストリー4.0」はドイツ技術科学アカデミー(Acatech)による「第4の産業革命宣言」という文書で定義されており、ドイツでは国や教育・研究機関、産業界全体を挙げた取り組みになっています。
その背景には大きく「社会要因」と「技術要因」があります。社会要因は、今後の10年を見たときに、ドイツの人口は減少傾向にあり、労働人口も減少が見込まれます。さらにドイツ製造業における一人あたりの賃金は1時間あたり約5000円強と、世界の中でも高コスト体質で、このままではドイツの製造業の強みを維持できなくなっています。
加えて、ドイツの製造業は、グーグルやアマゾンといった米国のIT企業に対して危機を感じている点が挙げられます。米国のIT企業が新しい技術やサービスを使って、自分たちのコアな領域を脅かすのではないかという危機感です。
一方、技術要因は、IoTがそうした危機感や課題を解決する技術として期待されていることです。IoTの基盤技術であるネットワーク高速化やクラウド技術の発達により、フィールドに出荷した製品から発生するデータを収集、分析できる環境が整ってきました。
──グーグルが自動運転車の開発を本格化していますが、なぜIT企業がインダストリー領域に進出しようとしているのですか。
山本氏:IT業界は2つの要因から非常に厳しい状況にあるからです。1つ目はOSSに代表されるソフトウェアビジネスのオープン化です。これにより、従来のソフトウェアのライセンスビジネスが崩壊しつつあります。
2つ目はクラウドです。これにより、従来のハードウェアビジネスが従量課金のビジネスに変わりました。
こうした要因は、裏を返せば、ITが進化してコモディティ化したともいえます。コモディティ化した状況下では、従来のホリゾンタルな「基盤のIT」というビジネスは価値を出すことが難しくなっていきます。
そこで、IT企業はインダストリーに特化した「インダストリアルバーティカル」の領域に移行せざるを得なくなっているのです。IBMなどのIT企業だけでなく、GEやシーメンス、ボッシュ、日立といったユーザー企業もそちらに移行しており、さらに競争は激化していくでしょう。
グーグルがなぜ強いかというと、データを持っているからです。インダストリー4.0に代表されるこれからのインダストリー領域は、データを持っているということが、生き残るための一つのキーワードになるでしょう。
IoTとはCPSを実現するためのイネーブラー
──インダストリー4.0では、生産工程を自動化し、サイバー空間と物理世界を融合させる「サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical Systems:CPS)」でモノづくりを進化させようとしています。よくCPSとIoTが混同されることがありますが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。山本氏:CPSはもともと、閉じられたエリアのフィードバック制御を行う組み込み系の仕組みを指していました。それが今はクラウドとネットワークの発達によって、オープンなシステムを指すようになりました。
CPSのデータソースは3つのドメインがあります。1つはIoT(Internet of Things)で、機械や設備に組み込まれたセンサーから収集されるデータです。2つ目は、IoP(Internet of People)というドメインです。たとえば、IoTのデバイスを使った人から発信されるデータや、人が持つスキルや経験といったナレッジも含まれます。
そして3つ目は、IoS(Internet of Service)です。サービスは、お客さまからの注文やサポートなど、従来のサービスを通じてデータベースに蓄積されるデータです。CPSは、3つのデータソースから上がってくるデータを循環し、最適解を見つけて、モノづくりを最適化するとともに、サイバー側にフィードバックされ改善を繰り返します。
つまり、インダストリー4.0は、CPSを使って産業革命をしようという取り組みで、IoTはCPSを実現するための1つのイネーブラーという関係です。
【次ページ】日本版インダストリー4.0は、人の伝統や匠の技といった要素を加味して進んでいく
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