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- 2016/05/16 掲載
CIO対談:ホンダ 宮下学氏「自動運転ではGoogleやAppleも参入、異業種連携も視野に」
CIO・システム部長に聞く、情報システム部門の自己改革
ホンダが4月にIT本部の体制を刷新、その狙いとは
宮下氏:いまは、IT本部の全体戦略とリソースを束ねる役割を持ったIT戦略企画室の室長をやっています。実は、今年の4月からIT本部の体制が大きく変わりました。IT戦略企画室はそのまま残りましたが、新たにITイノベーション推進室とサイバーセキュリティ推進室が設置されました。
IT本部は本部になって、四輪事業本部や二輪事業本部と同様に、経営トップに直接中期の戦略や計画を提案できるようになりました。これらの組織再編は、IT本部として、今後のデジタルトランスフォーメーションやグローバル化の更なる推進を念頭に置いた、中期計画の提案に基づいて実施されたものです。
野間氏:まず、サイバーセキュリティ推進室は、どういう役割を持っているのでしょうか。
宮下氏:ウイルスや外部からの攻撃などの情報セキュリティに関しては、ここ2、3年でかなり対策はできたと思います。ただし、これからIoTの時代になり、クルマがつながると、そのセキュリティが非常に重要になってきますので、そこをしっかり見ていく必要があるということで、サイバーセキュリティ推進室を設置しました。
野間氏:確かに、自動運転になるとシステムが乗っとられたら怖いですね。もう1つのITイノベーション推進室は、どういう役割を持っているのでしょうか。
宮下氏:経理、人事、生産、販売など全体に横串をさし、グローバルも含めて、より俯瞰的に見て業務プロセスを情報でつないでいくことが、ITイノベーション推進室の1つ目の役割になります。また、従来のホンダのビジネスドメインとは異なる新しいサービスを考える役割もあります。現在、自動車を中心にさまざまなサービスが生まれつつあります。そこを業務部門あるいは経営トップと近いところといっしょになって考えることが、ITイノベーション推進室のもう1つの役割です。したがって、その役割は非常に重いといえます。
野間氏:ITイノベーション推進室は、グローバルな情報システムの全体最適だけでなく、次のホンダの新しいサービスを立ち上げる役割も担っているわけですね。
宮下氏:はい。ITなくして新しいサービスは生み出せません。たとえば、自動運転に関しては研究所がさまざまな研究・開発を進めていますが、自動運転の周辺、たとえばお客様サービスやサポートについては、ホンダ本体が作り上げていくことになります。
ディープラーニングや人工知能を活用してホンダが目指す世界
宮下氏:すでに北米では、IBMのワトソンを使って、お客様からのお問い合わせに自動応答する取り組みが行われています。24時間365日、ディープラーニングによって、お客様が求めていることを自動的に判断し、最適な答えを導き出す取り組みです。また、製造プロセスであれば、膨大なデータを分析して品質改善に役立てることも考えられます。
販売店のサービスでもいろいろな可能性があります。現在は、不具合が発生すると、サービスマンはテクニカルサポートセンターに電話で問い合わせたり、画像を送ったりしてアドバイスを受けていますが、判断するのはあくまで人間です。ここで人工知能を活用すれば、従来のサービスマニュアルとは違う次元で、あるレベルまでは機械が推測してアドバイスできるようになるかもしれません。
野間氏:すごい世界になりそうですね。ホンダは、どのような世界を作ろうしているのでしょうか。
宮下氏:これからは自動車会社だけでなく、IT企業や家電メーカーなども入ってきて、モノづくりだけでなく新たなサービスをお客様へ直接提供する時代になってきます。クルマが電動化され、電池を家庭で使える時代になると、クルマやクルマ周辺のエネルギーマネジメントが必要になります。また、自動運転が進んでクルマがつながると、クルマの情報をいかに活用するかが重要になります。さらに、将来、カーシェアリングが普及すれば、クルマの現在位置を把握し、お客様が乗りたいときにすぐに予約できるような仕組みも必要になるでしょう。
野間氏:このあたりは、世界中の企業が知恵を出して、必死に考えている領域ですね。
宮下氏:ええ。自動運転であれば、GoogleやAppleも力を入れています。ですから、今後は業界連携もあるかもしれませんし、周辺サービスについては異業種との連携も視野に入れながら進めていく必要があると思います。
グローバルオペレーション可能なシステム構築からイノベーションへ
野間氏:情報システムのグローバルな全体最適、横串、俯瞰と言う意味でのITイノベーション推進室の役割はどうなりますか。宮下氏:現在、弊社は地域ごとにビジネスをオペレーションしています。地域で完結するところは今の仕組みで対応できるのですが、グローバル全体でリソースを最適配分することに関しては十分とはいえません。たとえば、どの国で製造するのが最適なのか、部品はどこから調達するのがいいのかといった、グローバル視点でのオペレーションが、今後、より必要になってきています。
すると、情報をつないで見える化する必要がありますが、現状ではつながっていないものが、まだあるのです。したがって、今後は情報を見える化し、グローバルオペレーション可能なシステムを作ることが必要になります。ただし、それはあくまで現在出来ていないところであって、さらにイノベーションをかけていくのが、我々の役割になります。
野間氏:となると、これまでとは違った意味で「とがった人」も必要になりそうですね。
宮下氏:そうですね。新しいサービスについてはもちろんですが、内部のプロセス改革についても、バリューチェーンに横串をさして俯瞰的に見ることが、従来のIT本部にはなかなかできていなかったので、新しいスキルや知見、経験が必要になります。そうなると、人材確保が重要になりますので、内部の人材育成と合わせて、パートナーや他部門の人材を活用していくことになると思います。
人材育成には時間がかかりますので、守るべきところは社内の人材をじっくり育て、変化が激しいところは、その時々に必要なスキルをいかに調達するかという考え方も必要になると思います。
【次ページ】 情報システム部門はビジネスを下支えする存在からビジネスのパートナーへ
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