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- 2016/04/25 掲載
夕張市 財政再建10年目の「希望が消えた」現実、国の破綻処理は正しかったのか
考えられる限りの緊縮財政で借金返済
炭鉱が1990年にすべてなくなると、市は折からのリゾートブームに乗り、観光振興に舵を切る。だが、進出企業は早々と撤退、市はやむなくスキー場やホテルを買い取り、借金を増やしていった。
この間、市は単年度決算を黒字に見せかけるため、前年度決算を整理する出納整理期間(4~5月)に会計上の回転資金である一時借入をし、決算上の収支不足を補った。いわゆる赤字隠しだ。一時借入金は地方債より金利が高く、余計に赤字を膨らませる結果となった。
その結果、財政再建団体の指定を受け、財政運営が事実上、国の管理下に置かれたわけだが、抱えた借金は353億円。年間の税収が10億円にも満たない市にとって、とてつもなく大きい額だ。従来、財政再建はおおむね10年をめどにしてきたが、市には24年という長い返済期間を課せられることになった。
市は住民税など住民負担を最高額に引き上げる一方、市の出先機関、図書館など公共施設、観光施設を次々に閉鎖する。子育て支援や福祉サービス、各種補助金も相次いで打ち切った。
市職員は破綻前の263人から100人足らずに減り、給与も全国で飛び抜けて低い額までカットした。小学校は7校を1校、中学校は4校を1校に。市議会の定数も9人に半減するなど、市を挙げて考えられる限りの緊縮財政が続いている。
夕張市10年間の変化 | ||
項目 | 破たん前 | 現在 |
住民基本台帳人口 | 1万3,268人(2006年3月) | 9,025人(2016年3月) |
高齢化率 | 40%(2005年度) | 49%(2015年度) |
借金残高 | 353億円(2006年度) | 259億円(2015年度) |
市職員数 | 263人(2006年3月) | 97人(2016年3月) |
市議会定数 | 18人(2006年度) | 9人(2015年度) |
市長給与月額 | 86万2,000円(2006年度) | 25万9,000円(2015年度) |
議員報酬月額 | 30万1,000円(2006年度) | 18万円(2015年度) |
小学校数 | 7校(2006年度) | 1校(2015年度) |
中学校数 | 4校(2006年度) | 1校(2015年度) |
小学校児童数 | 414人(2006年度) | 220人(2015年度) |
中学校生徒数 | 242人(2006年度) | 119人(2015年度) |
商店数 | 234店(2004年) | 114店(2012年) |
観光入込客数 | 146万9,000人(2005年) | 59万7,000人(2014年) |
(出典:夕張市の再生方策に関する検討委員会報告書、文部科学省「学校基本統計」、経済産業省「商業統計」、北海道「観光入込客数調査」) |
財政再建のしわ寄せ、市民生活に
後に残されたのは、地元で商売を営む商店主や新天地に移るのが難しい高齢者ばかり。高齢化率は国内の市部では最も高い49%まではね上がった。高齢化が深刻な北海道でも群を抜いた数字となっている。
東京23区の621平方キロより広い763平方キロの市内に小学校は1校しかない。児童数は破綻前のほぼ半数に減った。スクールバスが全域に導入されていないため、児童の6割が一般客も乗る路線バスで通学している。
路線バスの運行本数は多くなく、1本乗り遅れれば学校に遅刻する。このため、保護者の送迎は日常茶飯事。スポーツ少年団の活動や放課後に級友と遊ぶのにも制約がある。
地域医療を担っていた市民病院は、規模を縮小して診療所になった。171あった病床はわずか19床に。診療所は自宅療養する慢性患者に訪問診療して対応しているが、交通費がかかるため、患者の負担は割高になる。
市役所は3分の1に減った職員だけで事務がまかなえず、北海道などから20人ほどの派遣職員を得て対応している。しかし、夜遅くまで残業することも珍しくなく、今も退職を希望する職員が後を絶たないという。
第3者委員会が1月に開いた意見聴取会では、市民から「市役所が人的破綻寸前になっている」と改善を求める声が上がった。鈴木直道市長も3月、東京の日本記者クラブで会見し「計画的な職員採用で市役所内を立て直したい」と述べている。
廃屋だらけで人影のない商店街
市は映画の街を標榜しており、1977年公開の松竹映画「幸せの黄色いハンカチ」をはじめ、多くの映画のロケ地となった。市内の商店街やホテルなどには、「太陽がいっぱい」、「網走番外地」など古い洋画、邦画の看板が掲げられ、夕張キネマ街道と名づけられている。夕張を訪れる観光客が楽しみのする名物の1つなのだが、周辺の商店街や飲み屋街はシャッター通りを通り越し、人影のない廃屋が目立つありさま。中には傾いて倒れそうに見える建物も少なくない。
市中心部の本町商店街は昼食時でも閑散としている。閉店する店が相次いだため、商店街振興組合が5月で解散する。地域の振興に向けた取り組みは、新たに設立された「ゆうばり本町振興会」が事業を受け継ぐことになった。
振興会の田淵徹代表は「振興組合がなくなっても、夕張名物の映画の看板など大事なものは次の世代に残したいが、人が減ってしまったので頭が痛い」と苦しい胸の内を打ち明ける。
【次ページ】国の破綻処理に首をかしげる声も
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