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- 2010/08/06 掲載
【対談:東京農工大 中川正樹教授x三菱総研 飯尾淳氏】プロジェクト管理から見る「日本のもの作り」への警鐘
日本のもの作り神話は崩壊したのか
もはや「阿吽(あうん)の呼吸」ではプロジェクトが立ち行かない
中川氏 日本と比べて米国は他民族・多言語国家ですから、日本的な「阿吽の呼吸」は存在しません。しっかりとドキュメントを書き、フローを押さえ、キチっと引き継ぐというやり方をしなければ、プロジェクトは前に進みません。すでに日本でもアウトソーシングやオフショア開発が当たり前になっていますから、当然、こうしたプロジェクト管理が不可欠です。
飯尾氏 ITも含めて、現在のプロジェクトは高度化・複雑化が進み、とても「阿吽の呼吸」で対応できるレベルではありません。すでに、日本にマッチするとかしないとかいった議論をする段階ではなく、何らかのプロジェクト管理をすでに取り組んでおり、どのようなプロジェクト管理の手法を行うべきかというのが現実だと思います。
中川氏 これは長所でもあり短所でもあると思いますが、日本人はジョブディスクリブションを超えて仕事をしがちです。プロジェクト管理では、ディスクリプションに職務の責任や業務・権限の範囲をはっきりと記述することが重要ですが、日本人が持つ「気遣い」や「几帳面さ」といった特質により、明確な分業が行われず、チームとしての強さを発揮できないという側面があると思います。
とはいえ、アラブでエレベータの仕様書に「上ること」と書いて発注するとそのとおり開発され、下ることができないエレベータができあがった、という話があります(笑)。日本人なら、決してそういうことはしないでしょう。でも逆に言うと、書かないことまでやっているという面もあって、それがいい方向に作用することもあれば、悪い方向に作用することもあるのです。たとえば、過剰な保証をしなければならない、といったことですね。
日本人の良さを活かしつつ、かつ異文化・異言語の人間を束ねてプロジェクトを管理できれば理想なのですが、なかなかそこまでは実現できていないのが現実だと思います。
飯尾氏 プロジェクト管理では、人の管理も重要です。しかし、人には感情がありますから、駒を動かすようには扱えません。たとえば、Aさんが優れているからといってAさんにばかりタスクを与えると、過負荷になって倒れてしまい、結果的にプロジェクトが滞るかもしれません。技術だけではなく、いろんな要素を配慮してマネジメントする必要があるわけですが、日本の場合、気心の知れた社会の中でやってきたため、相互に依存してしまって、プロジェクトがうまく進まないというケースもあるように思います。
日本が弱くなったのではなく、海外が強いモデルを作り出しつつある
中川氏 そもそも私は、品質という点で日本が特に弱くなったとは思っていません。トヨタの検査態勢・責任体制がどうであったか、詳細を知る立場ではありませんが、相当の検査・テストはやっているはずで、あの問題をそのまま品質の問題に結びつけてしまうのは早計です。むしろ、海外がより強いモデルを作り、日本に追いついてきたと理解した方がよいでしょう。
飯尾氏 最低限の品質を担保するうえでプロジェクト管理は重要だと思います。アップルのiPhoneやiPadなどの魅力的な製品が出てきて、「日本のもの作りはどうしたんだ」といった論調もありますが、これは品質やプロジェクト管理の問題とはまた違った話だと思います。
中川氏 魅力的な製品を作り出すには、もちろんセンスが必要ですし、デザイナーと開発者が融合しつつも、しっかりとジョブディスクリブションが分かれていて、プロジェクト管理が有効に機能していて、異文化・異業種の人間を1つの目的に向かってまとめあげるような仕組みが必要だと思います。
──逆に日本の品質が高すぎるということはないでしょうか?
飯尾氏 グローバル社会の中で、日本人が無理難題を要求しているわけではないと思います。ただ、得意分野は、どの社会にもあると思います。日本が優れているところは伸ばせばよいし、遅れているところは改善すればよいのです。ただ、今後、中国の伸びは脅威に感じています。ITの話題ではありませんが、数ヶ月前に香港の地下鉄に乗った際に、乗り換え時のシステムが非常によく考えられている点に感心しました。どの駅でも乗り換えの仕組みが同じで標準化され、乗り換えの負担が最小限に抑えられているのです。
中川氏 アーバンデザイン、都市設計も、プロジェクト管理ですよね。都市全体のことを視野に設計したのか、そうした視点がなく個々のことをやってきたのかということだと思います。
私も、日本の品質が明らかに優位というわけではないと思います。たとえば、韓国のサムスンなどがよい例です。私の使っているディスプレイはサムスン製ですが、アメリカ人に「サムスンはどこの国の企業か?」と聞いたら、「日本」と答えたアメリカ人がいちばん多かったという話があります。この話からわかる点は、日本の品質が依然として強いブランドを持つということ、またそれだけサムスンの品質が上がってきているということです。韓国企業の競争力の源泉には、法人税が安かったり、徴兵免除といった点などもあり、一概に比較できませんが、国として取り組んでいる点は大きいと思います。
品質は今後も重要なテーマでしょう。今は発展途上国でも、生活水準があがってくると、高品質のものがほしいという人がどんどん増えていきます。いま北京にいくと、走っている自動車の車種は2、3年前とは全然違っていて、ほとんど高級化しているのです。こうした中で、日本が価格や競争力を理由に品質を落としてしまえば、新興国で新たに誕生している富裕層の需要に応えられなくなる危険もあります。
【次ページ】プロジェクト管理のあり方
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