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  • 2017/09/22 掲載

DMM.make AKIBAが鹿児島県 錦江町でミニ四駆を使ったIoT教室、その先に見据えるものは

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2017年9月2日、廃校をリノベーションして作られた錦江町 まち・ひと・『MIRAI』創生協議会に10組ほどの親子が集まった。ミニ四駆を改造して、スマートフォンで操作できるラジコンカーを作るワークショップに参加するためだ。指導をするのは、DMM.make AKIBAから駆けつけた、ものづくりのプロフェッショナルたち。子どもたちが大いに楽しんだこのワークショップは、錦江町が進めるサテライトオフィス誘致事業のさらに先を見据えたものだった。

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DMM.make AKIBAスタッフの指導のもと、真剣な表情でミニ四駆を改造する子供たち

大人も子供も夢中になって作った、IoTミニ四駆

 社員の働き方改革における『リモート勤務』や『テレワーク』として、田舎のサテライトオフィスを検討している企業が増えている。地方自治体においても、サテライトオフィスを新たな産業誘致と捉え、積極的に展開するところが少なくない。

 こうした中、サテライトオフィスを積極的に活用し、企業が有するリソース(先端技術や人材)と過疎地の課題をマッチングさせ、相互のWIN(企業には実証実験を通じた新たなビジネスの創出を、過疎地の自治体としては、自地域の課題の解消)を確立しようと、都市部のクリエイティブな企業と共同プロジェクト(実証・実装実験)を実施している自治体がある。それが鹿児島県錦江町だ。

 そのプロジェクトの1つとして、DMM.make AKIBAが錦江町を訪れて実現したミニ四駆づくり。集まった子どもたちは、車種選びの段階から大盛り上がり。参加した子供の多くが小学生で、はんだごてを握るのはもちろん初めて。それでも基板に抵抗を取り付け、説明書とにらめっこしながら配線し、ミニ四駆の改造を進めていく。基板ができあがった状態で、車体に組み付ける前に動作チェック。実際にスマートフォンから操作してモーターが回ると、それだけで歓声を上げた。

 お昼ご飯を挟んで、のべ4時間以上。子どもたちは飽きることなく作業を続け、夕方には全員がラジコンに改造されたミニ四駆を完成させた。子どもたちにとってはスマートフォンもラジコンカーも珍しい存在ではない。しかし自分たちの手でつくりあげたクルマが走り始めると、夢中でスマートフォンを操作していた。

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午後の早い時間には、完成させ走らせて楽しむ姿があちこちで見られた

 全員のミニ四駆が完成したところで、グラウンドに用意された特別コースでレースが開催された。早く完成させた子供の中には、レース本番までに遊びすぎて電池を消耗させてしまった子供もいた。それくらい、スマートフォンで動くミニ四駆は彼らの心をつかんでいた。理屈はわからなくとも、彼らはIoT技術の一端に、自らの手で触れていた。

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完成後は、広々とした校庭に作られた特設コースでレースを開催

サテライトオフィス事業の一環としてのワークショップ

 今回のワークショップは、錦江町とDMM.make AKIBAの協力体制で実現したもの。DMM.make AKIBAでも同様のワークショップを開催しているが、地方開催は初めてのことだという。その目的について、DMM.make AKIBAの橋場 光央氏は次のように語る。

「IoTを活用するエンジニアを育てるためには、興味を持ってもらうinterestが最初の段階にあると考えています。技術的な勉強は、実際に使いたいと思ってからでいい。まずは、こんなことができるんだと知ってもらうこと。これが今回の目的です」(橋場氏)

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DMM.make AKIBA
橋場 光央氏

 何年かして実際にIoTに触れたとき、「あのとき作ったミニ四駆はIoT技術を使っていたんだ」と思い出してくれればそれでいいという。あるいは中学生くらいであれば、今回の経験から「スマートフォンでモーターを動かせるなら、他のこともできるのではないか」と考えてくれるかもしれない。そんな興味を抱いてくれて、できあがったミニ四駆を走らせて笑顔になってくれれば今回のワークショップは成功だと橋場氏は言う。

 実は当初、錦江町からはもっと高度なIoT技術の研修について相談を受けたのだと、同じDMM.make AKIBAから来た鈴木 亮大氏は明かした 「課題を抱えていて、それを解決しなければという熱意は伝わって来ました。それに対してこういうことができますというやりとりをしていった結果、まずはミニ四駆のワークショップから始めましょうとなったのです」(鈴木氏)

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DMM.make AKIBA
鈴木 亮大氏

 ミニ四駆のワークショップを開催し、その反応いかんによっては、よりハイレベルのIoT講座や活用方法のワークショップも考えていると鈴木氏は言う。それに呼応するように、同じくDMM.make AKIBAからワークショップ開催のために錦江町に来た椎谷 達大氏は、次のように語った。

「世の中にはこういう手段があるんだよということを、手を動かして知ってもらう。そのことが重要です。手段を知ることで見えてくる課題もあるからです」(椎谷氏)

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DMM.make AKIBA
椎谷 達大氏

 それまではしかたないことと思っていたことも、解決する手段があるとわかれば見る目が変わる。椎谷氏が期待するのは、そうした視点の変化による課題発掘だ。

拠点を持つことよりも、錦江町にIoTの種を蒔き育てることが目標

 今後の取り組みについて伺ったところ、サテライトオフィス事業の一環としてワークショップを開催したものの、DMM.makeとして錦江町にサテライトオフィスを開設することは、現在の段階では考えていないという。

「錦江町にオフィスを開くことよりも、錦江町にIoTを活用できる人材を育てること。それが私たちと錦江町とが共有するゴールです。そのために、もしかしたら第2回、第3回とミニ四駆ワークショップを開催するかもしれませんし、ハッカソンやアイディアソンを開催するかもしれません」(橋場氏)

 IoTは課題と解決策を模索する段階で、プロトタイピングが欠かせない。その拠点は今まで通り秋葉原にあればいいと橋場氏は言う。それより重要なことは、IoTで課題を解決するという視点を持ってもらうこと、それを指導できる人を錦江町に育てることだ。

「可能性は、人の数だけありまます。今回は約10組の親子が参加してくれて、その数だけ、種を蒔くことができました。これがやがて芽吹いて、次の取り組みにつなげられる素地になると信じています」(橋場氏)

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今回参加してくれた子供たちこそ、錦江町に新たに蒔かれ、芽吹くのを期待される種

 その素地について、椎谷氏が興味深い話をしてくれた。秋葉原で同様のミニ四駆ワークショップを開催するときよりも、錦江町でのワークショップの方が完成まで短時間で終わったというのだ。予想より1時間ほども早く完成させた子供たちに、椎谷氏は驚いたそうだ。

「東京のように便利な生活が望める場所ではありません。しかしその分、自分たちで手を動かして工夫するということが生活に溶け込んでいるのではないでしょうか。大人はもちろん、その姿を見て育っている子供も。手を動かして物を作ることに慣れているし、道具の使い方を覚えるのも早い。IoTでは必ず解決策をカタチにしなければならない段階がありますから、もしかしたら都会育ちの子供より有利かもしれません」(椎谷氏)

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これまでの指導経験から見ても、はんだ付けのコツを覚えるのも早かったという

明確な目的意識のある錦江町、スピーディに対話を進められた

 また、ワークショップの会場としての錦江町 まち・ひと・『MIRAI』創成協議会についても、橋場氏らは好印象を抱いたようだ。秋葉原のワークショップではミニ四駆を組み立てたのち、会場内のテーブルなどを片付けてからレース用のコースを準備する。しかし廃校をリノベーションしたこの施設には、広いグラウンドがあり、自然の芝の上にあらかじめコースを準備しておける。ワークショップ全体の時間短縮につながるだけではなく、「これまでのワークショップで最も長く楽しいレースコースを作れた」と言う。

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廃校をリノベーションしてつくった施設ならではの余裕のスペースが、新たな可能性を生む

「都会を離れると、IoTに興味を持つ人とつながること自体が難しくなります。でもDMM.make AKIBAが技術を噛み砕いて伝えて、錦江町が興味を持つ人を集めてくることで、今回のようなワークショップも可能になるのです」(椎谷氏)

 こうしたことができるのは、もちろん錦江町側が本気で取り組んでいるからに他ならない。実際、他の自治体からの同様のワークショップ依頼があり対話を続けているというが、錦江町ほど明確な目的意識を持ち、スピーディに対話を進められる自治体は他にはないという。

「IoT研修のノウハウなども錦江町と共有して、大隅半島にIoTの技術者を育てていきたいですね。私たちの技術や知識をもっと錦江町に持ち込みたいし、そうやって私たちを活用してもらいたいと思っています」(鈴木氏)

 企業のビジネスと過疎地の課題をマッチングさせる方法の1つが、実証実験受入れだ。現在、サテライトオフィスには過疎地ならではの課題を実証実験の素材として活用する企業が多く来訪しており、その背景には錦江町の熱心な誘致がある。

 DMM.makeの他、教育IoTによる遠隔授業、農業ドローン、AIによる作物の病気予測などを目的とした実証実験、IT企業による様々な分野の町民向け講習会が今年に入ってから頻繁に行われており、確実に町民の科学的リテラシーが向上しているという。プロジェクト責任者である錦江町 政策企画課 課長 池之上 和隆氏はその効果について次のように語る。

「私たちの今は、都市部の10~20年後の姿。だからこそ、我々が企業に対して、過疎由来による課題を積極的に提供し、企業と共同で実証・実装実験を当町をフィールドとして行うことで、双方に『WIN』が得られます。何より、九州南端の小さな町でも社会に貢献できるんだ、小さな町に優秀な人々が来てくれるんだ、という驚きと誇りが町民に拡がり、やがてそれが子供達の将来のキャリア選択にも大きな拡がりを作ると信じています」(池之上氏)


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