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IoTに関する注目が高まる一方、実際にマーケティングに活用する企業の割合は半数強に過ぎないとのデータもある。単にネットワーク接続しさえすればよいのではなく、顧客がIoTによってどんな利益を享受できるか、日々の課題をどう解決してくれるかをコミュニケーションデザインまで踏み込んで設計することが欠かせないからだ。コカ・コーラの自販機を使ったIoTマーケティングの事例や、得られたデータの生かし方まで、電通、コカ・コーラ、ウフル、NEC、unerryら気鋭のマーケターが、IoTマーケティングの勘どころについて議論した。
自販機をIoTマーケティングに活用した世界初の事例“Coke-on”
IoTはあくまで手段。機器をネット化したりセンサーを付ければよいというものではなく、マーケターはIoTが今後のマーケティングに果たしていく役割を考える必要がある。
7月18日に開催された「アドテック京都」で開催された「モノのインターネット(IoT)のマーケティング活用事例」では、電通の志村氏をモデレータに、各分野からマーケターや開発者など4名が集結、事例や未来の展望まで様々な思いが語られた。
まず、コカ・コーラの山本氏から、自販機をIoTポータルに見立て、スマホアプリとの接続により顧客とのコミュニケーションを図るデジタルマーケティングプラットフォーム「Coke On(コーク・オン)」の事例が紹介された。
「日本には自販機が全国に500万台も設置されていますが、これは兵庫県の人口とほぼ同数。スマホと自販機をつなぐCoke Onは、サービス開始より順調にアプリ利用数を伸ばしています。全国での導入総数は現在約17万台で、自販機を使ったIoTマーケティング事例としては、おそらく世界で初の成功事例だと思います」(山本氏)
スマホアプリを通じ、対応自販機と接続して1本購入について1スタンプがたまり、15スタンプごとに1本無料で交換できる。スマホ向けのアプリはのべ450万ダウンロードを突破。App Storeでは3日間ほどダウンロード1位を記録。比較的西日本での展開が成功しているという。
コカ・コーラは以前も「Coca-Cola Park(コカ・コーラ パーク)」などのデジタルマーケティングを成功させているが、今回の取り組みも「これがIoTだ」とは感じさせない、ユーザーの日ごろの習慣に沿ったデザイン、人を介したコミュニケーション設計が秀逸だ。
この事例に対し、ほかの登壇者からコメントが寄せられた。ウフルの栗原 洋介氏は「自販機という、すでに電源につながっているデバイスがあるのは大きなアドバンテージ」と述べた。
IoTがインフラ化していくときには、機器と人がつながる「ラストワンマイル」をどうつなげるかが課題で、「人力に頼らざるを得ない場合がある」(栗原氏)からだ。
Coke Onでは、ポイントを貯めて獲得したドリンクチケットを誰かにプレゼントすることも可能だ。デジタルとリアルを連携させたマーケティング設計ができていないと、この成功は難しかっただろう。
自販機を外に置いたままでも盗まれたり破壊されたりしない安全な日本だからこそ成功できた側面もある。来日する外国人の中には、自販機を見にきたという人がけっこういるという。
東京オリンピックで必要とされる“おもてなし”ソリューションとは?
公共財や不動産などをポータルに見立てたIoTマーケティングにはどのような動きがあるのだろうか。NECの田中氏は、2020年東京オリンピックに向けたIoTの取り組みとして「オリンピックまであと3年、今やらないともう間に合わないところまできている」と述べる。
田中氏によると、現状の技術でできることは「IoTというよりはIoC(Internet of Customer)」、つまり人のインターネットともいうべきものだ。
「位置情報を含めた“人の動き”をしっかり追えるようにするというテーマが、どのソリューションにも共通項としてあるのです」(田中氏)
たとえば、どこの国からどういう人が来ているかを把握する、該当者が会場についたらコンタクトを取れるようにする、競技が行われるスタジアムでは、売り子さんがどこにいるのかが分かるようにするといったことだ。
「当然、スタジアムの周りに人が集まるのですが、混雑状況はどうなっているのか、安全状況を確保したり誘導を考えたり、IoC(Internet of Customer)はスポーツイベントにおいて注目されている技術です」(田中氏)
「人」の位置情報をトラッキングし、効率的に動いてもらえるようにする。最後におもてなしを行うのは「人」との考え方によるものだ。
集めるデータをいかに“ビッグにしない”かが重要
人の位置情報や行動履歴をトラッキングするには、店舗側に設置されることの多い「ビーコン」も重要な役割を果たす。企業が保有するビーコン情報を一括管理し、シェア・相互利用できるプラットフォーム「BeaconBank(ビーコンバンク)」を手がけるunerryの内山氏は、「ビーコンとスマホが接続されていれば、その人の行動履歴がすべてデータで残り、いつ、どこに、どのくらいの頻度で訪れたかといった、細かい情報が収集できる」と述べる。
しかし、データは多ければ多いほどいいというわけではない。せっかくデータを個別に取得・管理していても、情報価値は限定されてしまうからだ。たとえば、この時間帯にスーパーに行く可能性が高いという人に向けてピンポイントでエリアマーケティングの情報を届けるというように、膨大な行動履歴情報から、その人の習慣や法則性をみつけることでコンバージョンの精度を高めることができる。内山氏によると、実際、こうした手法により、クーポン利用率は25%ほどの成果を出しているという。
本当に必要な情報は何かを考え、データをいかに「ビッグにしない」かが重要という点は他の登壇者も賛意を示した。データが膨大だからこそ、有意な知見を見出すテクノロジーが現場側では求められている。素早く大量に分散処理し、データの価値を高め、得られた知見を活かすことに注力できるかが課題だ。
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