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2017年08月08日

松本徹三氏に聞く、なぜ政治家や経営者は「AIに置き換えるべき」なのか

「AIが神になる日――シンギュラリティーが人類を救う」。非常に刺激的なタイトルの書籍を上梓したのは、クアルコムジャパンの元社長で、ソフトバンクモバイルの副社長もつとめた松本徹三氏だ。人類の敵なのか味方なのか、いまだ評価が定まらないAI。そして、AIの能力が人間を超えるシンギュラリティー。我々は、AIとどう向き合い、シンギュラリティーが訪れるその日をいかに迎えればよいのか。AIが政治や経済、人間の生き方にどのような影響を及ぼすのか。松本氏に聞いた。

(聞き手:ビジネス+IT編集部 松尾慎司)

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松本 徹三 氏

1939年生まれ。京都大学法学部を卒業後、伊藤忠商事 大阪本社に入社。アメリカ会社エレクトロニクス部長、東京本社の通信事業部長、マルチメディア事業部長、宇宙情報部門長代行などを歴任後、1996年に伊藤忠を退社して独立。コンサルタント業のジャパン・リンクを設立後、同社の顧客であった米クアルコム社の要請を受けてクアルコムジャパンを1998年に設立し、社長に就任。2005年には、同社会長 兼 米国本社Senior Vice Presidentに就任し、発展途上国向け新サービスの開拓等に取り組む。2006年9月に孫正義氏の要請を受け、クアルコムを退社してソフトバンクモバイルの副社長に就任、主として技術戦略、国際戦略等を担当。2012年6月にソフトバンクの取締役を退任、2013年11月には休眠していたジャパン・リンクを復活させて、現在はソフトバンクを含む国内外の通信関連企業等数社とのアドバイザリー契約がある。


AIは正しい進化の過程にある

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──現在、IoT、ビッグデータ、5G、VRなど、さまざまなテクノロジーキーワードが氾濫しています。この中で、松本さんは「AIは他とは一線を画するものだ」と指摘されています。

松本氏:たとえば、今から20年前に、ある人が「コンピューター、コピー機、蛍光灯」という技術を並べてスゴイと騒いだとします。その時代ですと、コンピューターは実際にはたいした仕事はできなかったので、実用的な面での魅力でいえば、コピー機や蛍光灯のほうがスゴイと思われたかもしれません。しかし、その後の影響を見れば、コンピューターが格段に重要だったのは明らかです。いま「AI、IoT、ビッグデータ、5G、VR」と騒いでいるのも同じです。世の中を最も本質的に変えていくのはAIです。

 たとえば、IoTです。IoTと同じことを昔はM2Mと呼んでいました。このあいだ、NTTドコモの社長をつとめた立川敬二さんと話をした時には、「最近、IoTっていっているけど、あれは僕らが10年前にいっていたことだよね?」と大いに盛り上がりました。IoT市場には大きな潜在力があり、それが与える影響ももちろん極めて大きいですが、それをAIと同じ次元に並べるのは、根本的に間違っていると思います。

 AIを一言でいえば、コンピューターの将来形のことです。そして、その先にはシンギュラリティー(Singularity)が待っています。コンピューターの能力が幾何学級数的に拡大し、いずれは人間の知能のすべてを洩れなく置き換え、さらにはその能力を格段に増大させると考えられているわけです。

 ただし、私はシンギュラリティーの2045年説には懐疑的です。AIが天才のひらめきを模倣できるかどうかが、シンギュラリティーのカギを握っていると思いますが、それにはもっと時間がかかるのではないでしょうか。それが実現すれば、アインシュタインのような天才を数万人作り出して、昼も夜も考え続けさせるということができると言っているのですから。

──現在はまだ特定の目的に限定された特化型人工知能の時代で、いわゆる一般の人がイメージするAI、すなわち汎用型人工知能を実現するには、まだ大きなギャップがあるといわれています。このギャップは本当に埋まるのでしょうか。

松本氏:いずれは埋まります。AIといっても、やはりお金にならなければ、人は一生懸命に開発しません。ですから、今は目的ごとにビジネスになる特化型の人工知能を開発していくのが当然です。その数が加速度的に増えていけば、いずれは「あれ? これは同じ原理で動いているじゃないか」となって、汎用型人工知能につながっていくと感じています。そして、その一方で、ディープラーニングやビッグデータの技術も着々と進んでいくでしょうから、いつかはすべてが融合します。そう考えていくと、今は正しい進化の過程にあると言えるのではないでしょうか。

AIからはあらゆる人も企業も逃げてはいけない

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AIが神になる日

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──汎用型人工知能へと進化していくということだと思いますが、一方で「それでもAIと人間は違う存在である」と指摘されています。

松本氏:人間はロボットやAIにすぐ感情を持たせたがりますが、私はまったく逆の立場で、ロボットやAIが感情を持つ必要はないと考えています。感情が論理や意思に影響するのが人間です。しかし、ロボットやAIにとって果たしてそれは必要、かつ望ましいことでしょうか?

 感情のメカニズムは、人間の体内で起きる何らかの化学反応です。もちろん、それを研究して再現することは可能かもしれません。しかし、それが役に立つとは思えないし、少なくともロボットやAIを人間に役立たせようと思うのなら、むしろマイナスになるのではないかと思っています。ロボットには感情を持たせないで、純粋に合理的・理性的な思考をさせるべきです。

──世の中には正解のない問題がたくさんあります。その中で純粋に合理的・理性的な思考が導く判断とは、どのようなものなのでしょうか。

松本氏:正解とは、目的に対して合理的であるかどうかです。したがって、目的を設定することが重要になります。たとえば、「マラソン大会で優勝したい」という目的を設定したら、それを実現するための正しい食事やトレーニングをしなければなりません。その方法をAIがアドバイスするのです。「マラソンなんて時間の無駄だよ。そんなことはやめて、就職活動に専念しようよ」なんていうアドバイスはAIはしません。

 人間の場合は、その人の置かれた環境や経験、感情などによって、目的が内発的に生まれますが、AIの目的は人間が設定しなければなりません。AIが良くなるのも悪くなるのもこの設定次第なのです。

 しかし、AIの目的を人間が設定する場合は、ざっくりとした基本的なものだけを決めて、あまり細部に入り込まないほうがよいと思います。細部まで入ると、それを決める人間の感情や利害などが入ってきますから、万人に対して公正とは言えなくなってしまいます。

 たとえば、こういうことです。現在は世界中が部分最適に陥っています。富や食料は限られていて、飢える人がたくさんいるのに、毎年何万トンもの食料が廃棄されています。利己的な「人間の判断」によって、世界中が分断されているわけです。複雑化するさまざまな事象を、本当の意味で全体最適化するのは、もはや人間にはできません。そういったことこそ、AIに委ねるべきなのです。

 残念ながら、現在の世界には我々とは相容れない価値観を持つ勢力もいます。たとえば、独裁国家の元首などがもし最強のAIを支配したら、悪夢のような未来が訪れるリスクがあります。これからは、AIを制した者が世界を制するのですから、我々は絶対にAIから逃げてはいけないのです。

 これは企業についてもいえます。競争相手がAIを導入し、あなたの会社が導入しなかったら、結果は目に見えています。しかし、今はさまざまなベンダーがAIを使ったサービスを開発・提供していますから、中小企業であっても、こういったサービスから目を背けず、積極的に活用していけば、大きな競争力を持つことができる時代に来ているとも言えます。

【次ページ】AIが民主主義と資本主義の限界を突破する

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