• 会員限定
  • 2017/03/14 掲載

急成長するベトナムで「APRICOT」開催、今後アジアは世界のITを牽引できるか?

APRICOT 2017リポート

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
2015年には実質GDPで6.68%と、近年高い経済成長を続けるベトナム。その好調を牽引しているのが、ブロードバンドや携帯電話といったインターネット基盤の急成長だ。そうした中、2017年2月20日から3月2日までの11日間、ベトナムのホーチミン市においてインターネットに関する国際フォーラム「APRICOT 2017」が開催された。日本からはアット東京やセイコーソリューションズがブース出展するなど、さまざまなネットワーク事業者が一堂に集い、積極的な情報交換が行われた。今後アジアは、世界のITを牽引する立場に躍り出ることができるのだろうか?

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト。明治学院大学国際学部卒業後、週刊誌記者などを経て、2001年よりIT専門出版社に入社。「Windows Server World」「Computerworld」編集部にてエンタープライズITに関する取材/執筆に携わる。2013年6月に独立し、ITジャーナリストとして始動。専門分野はセキュリティとビッグデータ。

画像
「APRICOT 2017」の会場となったベトナムのホーチミン市の「シェラトン サイゴン ホテル&タワーズ

約50か国から600人以上が終結したAPRICOT 2017

 アジア太平洋地域におけるインターネット基盤の発展を主眼に置いた「APRICOT(Asia Pacific Regional Internet Conference on Operational Technologies)」は、1996年にシンガポールで第1回目が開催されて以降、アジア太平洋地域の都市で年1回開催され、2017年が22回目の開催となる。主催するAPIA(Asia & Pacific Internet Association/アジア太平洋インターネット協会)は非営利の組織だ。

画像
APRICOTの運営は、非営利の組織APIA(Asia & Pacific Internet Association)が担当している

 APRICOTの最大の目的は、インターネットに携わる技術者の知識研鑽と、インターネット技術者どうしの情報交換――人的ネットワークを構築すること――だ。APRICOT 2017では、約50か国から600人以上のネットワーク・エンジニア、オペレーターをはじめ、政府機関関係者、サービスプロバイダー事業者、データセンター事業者、教育関係者が集結した。期間中は、ネットワーク運用や構築、仮想環境/クラウドに関するセッションのほか、IPv6、ピアリング、DNS/DNS Security Extensions(DNSSEC)、IPアドレスの管理に関するチュートリアル(少数集中講義)など、180を超えるプログラムが開催された。

 2月27日の基調講演には、ベトナム情報通信省で副大臣を務めるPhan Tam(ファン タム)氏やベトナムの最大手インターネットサービスプロバイダー(ISP)であるNetNamでCEOを務めるVu The Binh(ビン ビン)氏、ベトナムでIPアドレス管理を行っているVNNIC(Vietnam Network Information Center)の副所長を務めるNguyen Hong Thang(グエン・ホン・タン)氏らが登壇。ベトナムにおけるインターネットの発展を、国内外の関係者にアピールした。

画像
オープニングパフォーマンスは太鼓と昇り龍。典型的なベトナムのパフォーマンスだという

高いインターネット成長率のベトナム、今や人口の60%が利用

「過去20年間、インターネットはベトナム社会の発展に大きく貢献してきた。現在においても、デジタル・エコノミーの重要なインフラ基盤であり、電子商取引、貿易、投資の拡大、新たなビジネスを創出している。今や、ベトナム人口の約60%がインターネットを利用しており、インターネットが国家の競争力を高めていると言っても過言ではない」(タム氏)

 冒頭、タム副大臣は、インターネットがベトナムの経済成長を牽引していると強調し、その成果をアピールした。

photo
ベトナム情報通信省 副大臣
Phan Tam(ファン タム)氏

 実際、ベトナムのブロードバンドは急速に普及している。日本の総務省が公開した世界情報通信事情によると、2010年には367万人だった固定ブロードバンド加入者数は、2015年には180%増の約670万人になっている。また、2010年には56.7%だった携帯電話の普及率は、2014年には132.7%になった。“2台持ち”のユーザーも珍しくないという。

 タム副大臣は今回のAPRICOT 2017を「第4次産業革命の序章」と位置づけ、「ネットワークの技術開発、セキュリティの確保、安定性の向上といった観点でブレークスルーになることを期待している」とコメント。政府としても、全面的にインターネット技術の進化をバックアップする姿勢を鮮明にした。

 2000年以降にインターネットが普及したベトナムは、アジア地域でIPv6(Internet Protocol version 6)への移行が進んでいる国でもある。ベトナム情報通信省は2020年までに、IPv6への移行を国家プロジェクトと位置づけて取り組んでいる。VNNIC副所長のタン氏は、「すでにインターネットユーザーの6%以上がIPv6を使用いる」と説明する。

画像
ベトナムにおけるインターネットの成長率

 ただし、タン氏は「インターネットを産業に活用するためには、克服すべき課題も多い」と指摘する。たとえば、標準/プロトコルの多さや相互運用の難しさ、さらにDos/DDos攻撃といったインシデントにも対応していかなければならない。

 最後にタン氏は聴衆に対し、「こうした課題は技術者が連携して解決することが重要だ。すべての人々がインターネットを利用できる環境を、皆さんの手で目指してほしい」と訴えた。

photo
ベトナムインターネット協会事務総長、
NNIC(Vietnam Network Information Center) 副所長
Nguyen Hong Thang(グエン・ホン・タン)氏

喫緊の課題はセキュリティ

 APRICOTの特徴は、参加者どうしが国や組織の枠を超えて情報を共有することだ。日本インターネットインフォメーションセンター(JPNIC) インターネット推進部部長の前村 昌紀氏は、「インターネットの世界は、そこにかかわる人がみんなで(最適なネットワーク環境を)構築する『互助精神』が根付いている。ピアリングが必要で(インターネット事業者は)、自分達だけでは顧客にサービスを提供できない。だから課題を共有し、共に解決策を見出せるよう情報を提供し合う。その場の1つとなるのがAPRICOTだ」と説明する。

photo
日本インターネットインフォメーションセンター(JPNIC)
インターネット推進部部長
前村 昌紀氏

 たとえば、国別インターネットレジストリを管理するNIR(National Internet Registry)に関するセッションでは、日本、韓国、中国、台湾、ベトナム、インド、インドネシアの各代表が、それぞれの活動内容を報告した。セッション後半の質疑応答では、IPv6の普及に苦労しているインドネシア代表から、普及率の高い日本とインドの代表に対し、「どのような方法で(普及)活動をしているのか」という質問が投げかけられた。同セッションに登壇したJPNIC IP事業部の川端 宏生氏は、「(IPv6の普及という)同じ目的を掲げていても、他国が違う方法でアプローチしていれば、それがヒントになる。それぞれのよいところを学び、お互いに高め合っている」と語る。

photo
日本インターネットインフォメーションセンター(JPNIC)
IP事業部
川端 宏生氏

 また、今年のAPRICOTの特徴として、1999年からAPRICOTに参加(時には運営)している前村氏は、「ネットワークセキュリティに関する情報共有が活発に行われていた」と指摘する。

 インターネットのセキュリティ向上は全世界の喫急の課題である。今回のAPRICOTでは国際的なCSIRT(Computer Security Incident Response Team)であるFIRST(Forum of Incident Response and Security Teams)が、技術セッションを開催した。前村氏は、「サイバー攻撃が“ビジネス”になる現在は、攻撃者は最新技術を悪用して攻撃を仕掛けてくる。インターネットで利用されているDNS(Domain Name System)は脆弱性の多いプロトコルだ。この“穴”をどうやって塞ぐのかが、ネットワーク・エンジニアの共通の課題だ。われわれは、攻撃情報を共有することで、(攻撃者に)対抗していく。セキュリティ対策に決定打はない」との見解を示した。

photo
NIRセッションに登壇した各国の代表者

【次ページ】ビジネスの場としてのAPRICOT、出展する日本企業の戦略とは

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます