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  • 2017/02/15 掲載

ローランド・ベルガー氏が提言、日本の生産性向上に立ちはだかる「3つの難問」

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「デジタル化」に直面しているのは製造業だけではない。社会全体として取り組むべき課題と言える。しかし、そこには大きく3つの課題があるとローランド・ベルガー名誉会長は指摘する。一方、これまでサプライチェーンの系列などに縛られていた中小企業には大きなチャンスがあるとも語る。日本企業は、デジタル・ビジネスの世界でデータ戦略をどう描けばよいのか。ベルガー氏にベッコフオートメーションの川野俊充社長が聞く、対談連載の最終回。
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ローランド・ベルガー名誉会長

日本はドイツを見習うべきではないのか

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ベルガー氏:私は「社会のデジタル化には3つの難問がある」と考えています。

 1つ目は、前回ご指摘のあった「変化に対する心理的な抵抗」です。2つ目は「教育制度によるもの」です。我々のほとんどは、大学に行くために教育を受け、就職したら再度、その仕事のための教育を受けるといった二段階教育システムをとっています。また古くなった知識を補うためには、5年ごとくらいに学習し直すことが大切です。

 たとえば昔、功績をあげた人は現代社会で何をすれば良いでしょうか? 知識が古いままでは、社会に貢献することができないので、トレーニングを受けて新しい職に就くことができると良いですよね。これは政府と企業が協力して、トレーニングを支援する必要があるでしょう。

 こうしたトレーニングができる専門学校などの教育機関があれば、その受講年齢を60歳まで引き上げて、人手不足などにも対応できるでしょう。ドイツには、こうしたトレーニングを支援する組織やベースはあるのですが、また実現できていません。こうした取り組みは、ドイツ以外の国でもいずれ行われると思います。

川野氏:日本の教育現場はとても伝統的なので、我々も教育制度は刷新の余地が多々あると思います。ドイツの二段階教育システムやマイスター制度から学べることは多くあると思います。

ベルガー氏:システムを学ぶのはいいですが、内容をドイツから見習うことはおすすめできません。ドイツの教育も内容はいまだ古いままなのです。コンピューター科学や機械工学において重なる領域ありますが、昔シーメンスが「メカトロニクス」という、機械と電子機器の両方が使える人の専門職を作ったことを覚えています。1970年代頃です。これが認可されるまでには10年もかかっているのですが、恐らく10年後には我々はもっと違った時代に生きていると思います。もっと早く行動することが大切だと思います。

川野氏:認可されたというのは公的な教育システムとして認められていたのですか?認可というのはどういうことでしょうか?

ベルガー氏:教育機関としての認可ではなく、企業や業界に認可されたということですね。勿論、政府も半分出資しているので影響力はあります。

川野氏:教育を受けていないと就職できないので、教育システムは確実に就職につながっていますね。ですがこの就職のシステム自体古いもので、変化も早いです。

ベルガー氏:ええ、ですから先ほど言っていたように、まず1つ目の難問は変化そのものに対する抵抗感なのです。2つ目に適応した教育システムがないこと。そして3つ目が、新たな社会と従来の働き方の整合がとれないこと。つまり、ミスマッチが生じてしまうことです。

 これは、労働法や労働条件がデジタル化で変わってしまうことによるものです。これは製造業でも同じですが、社会がデジタル化することによって、多くの人は職を失うことになってしまうでしょう。新しい職に就くことはできますが、別の会社かもしれませんし、違う業界かもしれません。そして、この3つの難問をそれぞれ別の視点から取り組んで、すべてがうまくいくようにしなければなりません。

川野氏:簡単ではないかもしれませんが、転職すること自体は珍しいことではなくなってきました。ただし、日本では雇用の流動性が高いとは言えません。

ベルガー氏:ドイツでは、低賃金職に就いている700万人の人は容易に転職できます。これは、我々の採用システムが日本のような閉鎖的なものでないからです。しかし、日本とドイツの産業構造はとても似ているので、たとえば共同事業を通じてお互いに学ぶことができると思います。

中小企業の「ジレンマ」はどう解決すればよいのか

ベルガー氏:私はインダストリー4.0のような産業構造の変化が、中小企業に良い影響をもたらすと思っています。逆に言うと、中小企業を積極的に変化に参加させることは、大きな変化を起こす際の成功の鍵になると考えています。

川野氏:中小企業が重大な役目を担っているのには異論の余地がありません。ただ、課題があるとすれば彼らが大企業に比べ小さく、新しい技術を試したり、新しいプログラムを導入してみたり、教育方針を変えてみたりするのにかけられる資金が限られているということです。そのため、中小企業は革新のための投資余地が少なく、このジレンマを解く必要があります。その方法について、なにか良い解決策があるでしょうか。

ベルガー氏:大企業には、数多くのサプライヤーやパートナーが居ます。自らの利益を考えて、不足を補ってくれる仲間をたくさん集めることができます。必要としている最新の技術や、考え方、人材などを補完してくれるところを選ぶのです。教育やトレーニング、新しいツールや機械、プラットフォームやシステムづくりに関心を持つことが重要です。このように、お互いに協力し合う仲間を集めるやり方が一番自然だと思います。日本にとっては、系列システムを見直すいい機会になるのではないでしょうか。従来の系列システムには、問題が多くあると思います。

 ドイツは連邦共和国で、州政府ごとに物事を進めることがよくあります。このやり方は、実用的で直接的な効果があります。シュトックアハ付近のバーデン=ヴュルテンベルでは、州政府と自動車部品大手メーカーのボッシュが70ヶ所のデジタルトレーニングセンターを設置し、中小企業のデジタル化を援助しています。

 その他にも、企業と学術機関が協力するというやり方もあります。日本政府は、こうしたドイツのやり方を参考にして、機械やソフトウェア、システムなどのトレーニングを大企業と連携して提供することができると思います。産業構造の変革を進めるためのセンターを、日本中に設置することができるのです。

 ドイツには、フラウンホーファー研究機構という組織があります。ここは、ドイツ政府や州政府からの公的財源と企業からの委託で応用研究を行っていますが、このような研究機関を利用するのも良いでしょう(訳注:日本にはこのフラウンホーファーと似ている機関として、国立研究開発法人産業技術総合研究所:AISTがあるが、公的機関であるため企業からの委託研究などは受けていない)。

 私にとって理想的なモデルは、産業構造の変革を進めたり、企業のデジタル化を支援したりする役割を企業と大学などの学術機関で協力して作ることです。ミュンヘンやアーヘンでは、大学と企業が協力して独自の組織を作っています。日本でも似たようなものを作って、系列システムを見直してみてはどうでしょうか。

新しい系列システムはオープンイノベーションに通じる

長島氏:従来の系列システムと、新しい系列システムの違いについて説明してください。

ベルガー氏:従来の系列システムは、支配関係が強い仕組みだと思います。新しい系列システムにも支配的な面はありますが、従来の系列は硬直していて、ほとんど柔軟性がありません。契約関係に支配されていて、OEM(最終製品メーカー、自動車メーカー)とサプライヤー(部品メーカー)の関係が主従関係にあるわけです。自動車業界や電機業界、機械業界は、こうした従来の系列システムです。

 このとき、OEM(最終製品メーカー)がサプライヤー(部品メーカー)に与えるメリットの1つは、システムやノウハウ、トレーニング、ソフトウェア、機械設備やこれを揃えるための資金を提供することです。たとえば、トヨタなどは、サプライヤーが金融機関などから資金の借り入れを行う場合に信用保証するようなことができます。すべての自動車メーカーは、金融機関との強いつながりを持っています。

 一方で、新しい系列システムには、こうしたサプライヤーをそのまま組み込む必要はありません。トヨタや日立などには多くのサプライヤーがいますが、優れた人材が存在しているのであれば、この新しい系列システムを使いたいと考えるでしょう。良い人材には、最初にトレーニングや、資金なども提供したいと思うはずです。また、優秀なコンサルタントなどをこの新しい系列の中で使っても良いと思います。

川野氏:多くの大企業でイノベーションを重視するようになってきましたが、必ずしも企業内にイノベーションを生み出せる人材はいないので、外部からアイデア、人材、技術などを取り入れる必要があります。新しい系列システムを導入するというのは、オープンイノベーションの実現そのものかもしれませんね。

【次ページ】データ活用では日独は有利、今後どう拡大していくべきか

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