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  • 2016/12/01 掲載

「一足飛びの」完全自動運転で、自動車業界と損保業界が危機的状況に陥る理由

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自動運転車の実用化が現実的な段階に入ってきた。自動運転車の普及は、自動車業界だけに関係する話ではなく、IT業界や保険業界、そして行政の分野にも大きな影響を与えることになる。日本では自動運転の普及に向けて段階的なロードマップを描いているが、欧米などでは一気に完全自動運転を普及させる方向性がより鮮明になりつつある。ロードマップの違いは、自動運転社会における制度のあり方と密接に関係している。しかも一部からは、段階的な導入を避けた方がむしろ技術的・制度的な難易度が低くなるという指摘も出ている。普及のスピードが予想以上に速まりつつある今、現行のロードマップでよいのか再検討する必要があるかもしれない。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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日本企業は「自動運転」競争を勝ち抜けるのか

日本は段階的なロードマップ。欧米は一気に実用化に傾く

 日本勢は自動運転車について段階的な実用化を計画している。政府は「官民ITS構想・ロードマップ」を作成しており、2020年までの高速道路における自動走行と、限定地域での無人自動走行サービスの実現を目指す方針を打ち出している。2016年の最新ロードマップによると完全な自動運転車の普及は2025年頃になる見込みだ。

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自動走行システムにかかるロードマップ


 自動運転は、技術レベルに応じて4つのカテゴリーに分かれている(注)。レベル1は、加速・制動、操舵のいずれかの操作をシステムが行うというもので、レベル2になると複数の操作がシステムで制御される。レベル3では、原則としてすべての操作をシステムが行い、必要に応じてドライバーが対応する形になり、レベル4ではドライバーの関与が一切消滅する。

注:日本のレベル設定。これは2013年時点のNHTSA(米運輸省道路交通安全局)のPolicy on Automated Vehicleを参考にしているが、現在のNHTSAはSociety of Automotive Engineers(SAE)の6段階のレベルの定義を採用している。ただし、本稿では基本的に4段階のレベル設定をベースに議論を進めていく

自動運転レベル内容責任
レベル1加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行うドライバー
レベル2加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行うドライバー
レベル3加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、システムが要請した時のみドライバーが対応システム/ドライバー
レベル4加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、ドライバーがまったく関与しない状態システム
出典:官民ITS構想・ロードマップ2016から筆者作成

 ロードマップで想定している高速道路の自動走行はレベル3なので、まずは人が関与する形で自動運転を普及させ、その後、完全自動運転に向けて実用化を進めていくという段取りになる。

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BMWはインテル・モービルアイと共同で自動運転を目指す
 ところが、欧米ではこうしたステップを経ずに、一気にレベル4のサービスを実現しようという動きが活発になっている。6月には独BMWが米インテルやイスラエルのモービルアイとのパートナーシップのもと、2021年までに完全自動運転技術の導入を目指すと発表。8月には米フォード・モーターが、ハンドルやアクセルのない完全自動運転車を2021年までに量産を開始すると発表した。さらに同8月にはスウェーデンのボルボも、米ウーバーと2021年までの自動運転車量産のために3億ドルを投じる計画を明らかにしている。3社とも当初、一般車ではなくライドシェア(相乗り)といった配車サービス向けを想定しているようだ。

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フォードの自動運転車
 このところ欧米自動車企業は、自動運転関連の技術を持つ企業に矢継ぎ早に出資するなど自動運転技術の開発に力を入れている。自動運転技術ではグーグルが一部先行しているが、同社も2020年前後の完全自動運転実用化を目指している。

 もし欧米勢がこのまま2020年頃に完全自動運転車を投入するという流れになると、日本の立場は非常に微妙なものとなる。特に問題なのは、地図情報システムなど、ITインフラとの兼ね合いである。レベル4の完全自動運転ということになると、自動運転の単体技術というよりも、ITインフラ構築や制度設計の比重が高くなってくる。この部分で米国勢が先行した場合、標準化という点で日本勢が不利な状況に陥る可能性は否定できない。

自動運転車はどの程度、安全なのか?

 先ほどの自動運転の分類はあくまで技術レベルによる区分であって、普及のロードマップというわけではない。つまり、レベル1からレベル4まで段階を追って普及させるというのは、あくまでひとつの考え方ということになる。

 ところが日本の場合には、レベル順に普及させるというコンセンサスが出来上がっており、これが既成事実化しているという面は否定できない。これは各社の技術開発動向からそうせざるを得ないのかもしれないが、これには自動運転の安全性に対する認識も影響している可能性がある。

 自動運転の安全性がどの程度なのかは、まだ完全な結論が得られているわけではない。ただ、自動運転車の走行時の事故率については、これまで多くの公道実験を重ねてきているグーグルの結果が参考になる。

 バージニア工科大学交通研究所は2016年1月、自動運転車の事故率に関する調査報告書を発表した。グーグルは自動運転車についてすでに200万マイル(約320万キロ)を超える公道でのテスト走行を行っている。このうち、本調査では130万マイル分の自動走行について、一般的な事故率との比較を行っている。

 自動車事故はどの範囲までを事故と認定するのかで結果が大きく変わってくる。警察に届けられる事故は、かなり大きなものなので、これだけを事故として認定すると、公道での事故率は大きく下がってしまう。同大学では、こうした調整を行った結果、一般的な公道では100万キロあたり2.6回の事故が発生していたが、グーグルのテスト走行では100万キロあたり2回と自動運転の方が少なく計算されたという。

 この調査はグーグルの依頼に基づくものであり、完全に中立的かどうかについては少し割り引いて考える必要がある。ただ米国における一般的な事故率は100万キロあたり2回程度といわれてきたことを考えれば、もし今回の事故率が正しいものであれば、自動運転はそれほど危険なものではないと考えてよさそうだ。

 レベル4の自動運転が十分に安全レベルなのであれば、わざわざ段階的に普及させていく必然性も薄れてくるかもしれない。

【次ページ】一気に完全自動運転を目指したほうが実現が容易になる可能性も

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