- 2013/06/11 掲載
高橋洋一氏x山口俊昌社長 対談:アベノミクスでどうなる!?激動を勝ち抜く企業経営、IT戦略とは
アベノミクスは世界のスタンダードな政策を実行しただけ
高橋氏:多くの人は「劇的」と表現しますが、私にはなぜそう表現するのかわかりません。政権が変わり、日銀がようやく世界のスタンダードな政策を実施した結果、当たり前のことが起きているだけです。以前があまりにひどかったのです。中央銀行の主な仕事は1つだけです。つまり、物価の変動率(インフレ率)を管理することです。高すぎても低すぎてもいけません。ある水準に設定し、そのようにオペレーションするだけです。
世界200カ国くらいの過去のデータを数十年間調べると、マネーの増加率とインフレ率の相関係数は0.7くらいです。さらに、日本の40年間のデータでは世間に出回るお金を増やすことと2年後のインフレ率との相関係数は0.9もあります。
同様に、2年前のマネーの増加率と現在の賃金の上昇率および失業率、さらに名目GDP成長率も高い相関のあることがわかっています。したがって、最初にやるべきことは、マネーの増加率を高めることであり、それを行ったにすぎません。具体的な数値でいうと、インフレ率を2%くらいにして、名目成長率を4~5%にするためには、マネーの増加率は7~8%にしなければなりません。いまは、それを実行しているのであり、それは驚きでも何でもありません。
そしてそのインフレ率は企業の設備投資も関係しています。設備投資は、名目金利から予想インフレ率を引いた実質金利が影響しています。今後、物価が高くなると予想するのであれば、今、投資しておけば、将来の売上としてより大きなリターンが見込めるのです。
──いまのお話は、アベノミクスにおける3本の矢の1本目「金融緩和」についてのお話ですが、残りの2本の矢、つまり財政政策と成長戦略についてはいかがでしょうか。
高橋氏:金融緩和について話をしたのは、それが最も重要だからです。2本目の矢である財政政策は、変動相場制の国ではマンデル=フレミング効果が働くので、金融政策の後ろ盾があってこそ効果を発揮するものとされています。これはノーベル賞をとった経済学者のポール・クルーグマンも言っていることです。
そして3本目の成長戦略については、さらに筋が悪い。成長戦略といいますが、なぜ官僚に成長分野がわかるのでしょうか。ターゲットを決めてそこに資源を投入することは、企業ではありえますが、国レベルではありえないと考えています。いろんなところで規制緩和、本当は規制撤廃ですが、それをして、無数のビジネスの中から何か芽が出てくるのをじっと待つのが一般的で、国にできることはそれくらいしかありません。したがって、経済学の理論からいえば、3本目の矢は規制撤廃でなければナンセンスです。
──企業経営者の多くは、アベノミクスの波に乗りたいと考えていると思います。波に乗るためのポイントがあれば、お聞かせください。
高橋氏:金融緩和というのは、日本全体のお金を増やすことですから、お金をゲットするチャンスはすべての人にあります。では、誰がゲットできるかですが、いままでの経験からいえば、努力した人と運のいい人です。すべての人にチャンスはありますが、ゲットするための一般論があるとしたら、それはすでにチャンスではなくなっています。自分で考えて努力するしかありません。
商談規模は3倍に、先を見据えたIT投資が出てきた
山口氏:アベノミクスの効果は、すでに現れています。昨年の企業のIT投資は横ばいでしたが、今年になってからはプラスに転じました。弊社のERP製品であるGRANDITは企業の基幹システムですので、億単位の大きなビジネスになるのですが、昨年と比較すると商談規模は約3倍に増えています。実際にシステムが導入されるのは1年くらい先になりますので、多くの企業が、景気が上向くことを想定し、いま、ERPを導入しているのだと思います。したがって、アベノミクスの効果はすでにかなり出ているというのが、我々の実感です。
また、高橋先生が「国がやれることは規制緩和くらいしかない」とおっしゃいましたが、私も似た印象を持っています。1990年代後半にEC(電子商取引)のバブルがありました。国の肝いりではじめたものの、それほど結果は出なかった。やはり、3本目の矢を活かすのであれば、国には規制緩和を進めていただき、事業そのものは我々民間に任せていただくので一番良いのではないかと思います。
高橋氏:規制緩和の視点とはちょっと違いますが、最近、ようやく政府が持っているデータの公開が進んできました。私が小泉政権にいたときに、統計データをかなり整備したのですが、役所にはいろいろなデータがあるので、これをどんどん公開したらよいのです。
たとえば、金融政策では予想インフレが非常に重要なので、通常はアンケートをとって調べます。しかし、実際にはマーケットの金融商品のデータに含まれていて、それを抽出すればわかるのです。そこで、財務省にデータ算出の基礎になる物価連動国債を発行するように経済諮問会議で決まったのですが、なかなか出さなかったことがありました。それではデータすらできません。
山口氏:ITとニュービジネスという観点であれば、ITの人たちが前に出ているうちは、新しいビジネスは立ち上がっていないと思っています。実業の人たちが、効率性や利便性、消費者のためを考えたときに、はじめてITが登場すべきで、やや自虐的ですが我々IT側が「次はビッグデータだ! 次は○○だ!」とか騒いでいるうちは、まだまだでしょう。
2013年度の企業のIT投資のテーマは、グループのIT基盤の再構築です。日本の大企業には数多くの子会社がありますが、それぞれがバラバラのシステムを入れているため、子会社の状態を本社がリアルタイムで把握することができません。それでは、次のビジネス戦略も立てられませんから、基盤を1つにしようとしています。こうしたIT基盤整備の投資が前年度比で20数%伸びています。米国では、すでに当たり前ですが、ようやく日本の大企業も動き始めたという感じです。
高橋氏:日本企業にも少し余裕が出てきたので、そういった投資も可能になってきたのでしょう。政府にも特別会計や連結の子会社がたくさんあるわけですが、どういう状態かまったくわかりませんでした。そこで、私が政府にいたとき、はじめてバランスシートを作りました。数も多いですし、金額も大きいので、ITがなければ処理できません。すると、いろんな資産がどこにあるのかわかってきて、その後取りざたされる“埋蔵金”の話も出てきたのです。
実態がわかれば、シミュレーションできるようになります。外的な要因はこちらでコントロールできませんから、いつ、何が起きるかわかりません。そこで、シミュレーションを繰り返して、何が起きても対応できるように準備するわけです。それも、ITがなければ無理です。昔は職人芸でやっていたのでしょうが、それは外的な変化が少なかったからだと思います。
山口氏:変化への対応力は非常に重要です。そこでITが活躍できるフィールドは数多くあると思います。
企業向けの視点で見れば、ITの役割は大きく2つに分かれると思います。1つは、企業活動の結果を記録して、きれいな決算書を作るためのITです。もう1つは、日々の営業や販売、開発など、ビジネスそのものを支援するITです。日本企業の場合、前者の投資が9割くらいなのですが、これからは、このバランスも変わるだろうと思います。
高橋氏:それはITの使い方がわかっていないのかもしれません。ITは問題を解決するための道具です。ITを攻めに使えないのは、経営方針がはっきりしていないからでしょう。
私が大蔵省にいたとき、ALM(資産負債総合管理)のシステムを構築しました。これは、金利が動いたとき、政府の抱えるさまざまな資産や負債のリスクをどう管理するかを判断するシステムで、70万件くらいのデータをリアルタイムで処理していました。なぜリアルタイムなのか、それは必要だったからです。政府の場合は資産・負債に関するリスクを最小化するという明確な目的があり、さまざまな経済情勢の変化に合わせてすぐに対応しなければ手遅れになるので、それを防ぐということでもあります。
この例では、切実で具体的な問題があって、それに対応するためにITを使ったわけです。ITそのものが何かを生み出すのではなく、何か問題があって、それに対処したいとき利用するのがITであると、私は理解しています。そのため、何を実現したいのかという強烈な目的意識、強い意思がないとシステムはうまく使えないのではないかと思います。
山口氏:確かに、目的が曖昧なプロジェクトほど、失敗するリスクは高いかもしれません。
2年後にインフレになる確率は90%
──今後の日本経済について、改めて見通しをお聞かせください。高橋氏:先ほど述べたように、日銀が金融緩和をしたので、2年後には9割くらいの確率でインフレになり、賃金も上昇するとみています。これは、私の考えではなくて、データを分析するとそうなるというだけです。残念ながら株価については、よくわかりません。マネーの増加率と株価については、はっきりした相関がないからです。景気がよくなると5割くらいの確率で株価も上がる、と言えるくらいですね。
個別企業が景気の波にどう乗っていくかは業種によるところも大きいでしょう。企業が自由に活動できる業種は早く乗れるでしょうが、規制業種はたいてい遅れます。賃金については、先に非正規社員が上がります。そのあと、正規社員が上がっていきます。これもデータ分析から言えることです。
先日、ある企業が賃上げして美談のように語られましたが、あれは社員を確保しておきたいから、早めに手を打ったということです。経営学を学んでいれば当たり前のことをしているだけなのです。
──企業は先手、先手を打っていかなければならないということですね。
高橋氏:当然です。先手を打たなかったら、経営になりません。経営者は先のことしか考えていないはずです。ただし、普通はそれを口にはしません。少しでも人より先に行きたいわけですから。
山口氏:7月4日には東京で、7月23日には大阪で、GRANDIT DAY 2013が開催されます。高橋先生には、ビジネスの一手先を読むうえで有益なお話をしていただくとともに、それを支えるIT戦略についてご紹介します。
旭化成グループ、東洋紡グループ、りそな銀行、森六グループ、イナバインターナショナル、ディアゴスティーニ・ジャパン、ピップ、極東貿易など、多数の事例講演に加えて、ここでしかお話できないようなことも数多く揃えました。ぜひ参加いただき、企業価値を高めるIT戦略を考える参考にしていただければと思います。
──本日は貴重なお話をありがとうございました。
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