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  • 2008/03/03 掲載

【連載】戦略フレームワークを理解する「内部資源論(RBV=Resource Based View)」の登場と限界

立教大学経営学部教授 国際経営論 林倬史氏 + 林研究室

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M.ポーターに代表されるポジショニング理論との引き合いに出されるのが、J.バーニーを代表とするRBV(内部資源理論)である。ポーターとバーニーの決定的な違いはどこにあるのだろうか?本稿では、J.バーニーの「内部資源論」について考察する。
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 前回のM.ポーターに代表されるポジショニング理論との引き合いに出されるのが、J.バーニーを代表とするRBV(内部資源理論)である。ポーターとバーニーの決定的な違いはどこにあるのだろうか。

 ポーターの戦略論の本質は、(1)企業を取り巻く外部環境を5つの競争要因から分析し、そして(2)3つの基本的戦略によって、自社独自のポジショニングを取ることにあった。それに対して、バーニーの戦略論の本質は、「競争優位の源泉」を企業内部に存在する経営資源に求めている点にある。彼は、内部環境に着目し、持続的競争優位を左右する要因は、所属する業界の特徴にあるのではなく、その企業が業界に提供するケイパビリティ(能力)にあり、これが収益性を決めるという理論である。

 ポーターによれば、魅力の乏しい業界では収益性を獲得することは難しいため、このような業界を選択すべきではないというのに対して、バーニーは競争が激しく魅力の乏しい業界においても、高い収益性を実現している企業があると主張している。ウォルマート、アマゾン、デルなどがその事例である。流通業界という極めて魅力に欠ける業界に位置しながらも、ウォルマートは持続的競争優位を維持しアメリカだけにとどまらずヨーロッパにまで進出している。

 バーニーは上記のように競争優位を獲得するには稀少かつ模倣にコストのかかるケイパビリティを装備し、それを通じて顧客ニーズに応える戦略を採ることであると述べている。具体的には「VRIO」というフレームワークを用いることで、その企業のケイパビリティが競争優位を獲得できるかどうかということをはかっている。

  バーニーのVRIOフレームワーク

 バーニーが主張する「VRIOフレームワーク」とは、「経済価値(Value)はどの程度か」「希少性(Rarity)はどの程度か」「模倣困難性(Imitability)はどの程度か」「組織力(Organization)はどの程度か」の視点から「ケイパビリティ(能力)」を評価する尺度である。

 経済価値に関する問いとは、その企業の保有する経営資源やケイパビリティは、その企業が外部環境における脅威や機会に適応することを可能にするか。
 希少性に関する問いとは、その経営資源は、ごく少数の競合企業によってコントロールされているために入手が困難なのか、あるいは入手が容易なのか。
 模倣困難性に関する問いとは、必要な経営資源を保有していない企業が新規に参入しようとする場合、模倣コストはどの程度か。そして組織力に関する問いは、企業が保有する、価値があり希少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きがどの程度整っているかである。これらを指標とし、その指標が高いほど持続的競争優位を高められるとしている。

 バーニーの事例では、トヨタ自動車のケイパビリティはサプライヤーとの緊密性、そしてソニーや本田技研工業のケイパビリティは顧客との緊密な関係によって生まれた顧客ロイヤリティーであるとしている。多くの欧米企業がトヨタ自動車とサプライヤーとの関係性を模倣しようとしても失敗したように、これらのケイパビリティは模倣困難性が高く、持続的競争優位をもたらす決定的な要因となっていると主張している。

 またこれらのケイパビリティを作りだす要素として、4つ指摘されている。まず一つ目が自社独自の経験。そして二つ目が、サプライヤーとの緊密な関係性。三つ目が、顧客との密接な関係性。そして四つ目が従業員との密接な関係性である。これらの4つの要素によって自社固有のケイパビリティが形成されるとしている。

 RBVは、端的に言えば、持続的な競争優位を獲得するには業界の魅力度は関係なく、自社独自のケイパビリティによってこそ持続的競争優位を獲得できるという理論である。
 これに対してRBVとポジショニング理論の関係性については以下のような指摘がなされている。企業の競争戦略を策定するにあたって、内部環境とともに、外部環境も重要である。また、ポーターの論点は、企業が独自のケイパビリティを有していることを前提にしているように、バーニーもまた模倣困難性を生み出すためには、業界内でのポジショニングが重要であることを前提にしている。これらの点から、ポジショニング理論とRBVは相互補完的であるともいえる。

【バーニー】
出所:J.Barney(2002),Gaining and Sustaining Competitive Advantage, Prentice Hall, P.160、
岡田正大訳『企業戦略論』(上)、250頁。
林倬史・関智一・坂本義和・立教大学ビジネスデザイン研究科(2006)
『経営戦略と競争優位』税務経理協会、16頁。


  RBV理論の限界

RBV理論はその意義と同時に、その限界も指摘されよう。
RBVもまたポーターのポジショニング論と同様、競争環境を比較的、安定したものと捉えている。しかしながら、現代の環境は、テクノロジーの進歩も速く、製品ライフサイクルは短くなり、顧客ニーズも予想しがたくなってきている。そのため、企業の競争優位も、価値があり希少で模倣コストが大きい経営資源やケイパビリティに基づいていても、現代の環境のような不確実であり変化の激しい競争環境では、あっという間に失われてしまう危険性がある。

 バーニーもこうした最近の傾向に対しては、戦略的アライアンスによって、フレキシブルな企業組織を構築していくことを重要視するようになってきた。しかしながら最近のバーニーのこうした主張も従来の彼の理論の本質を補完するものとして認識されるべきであろう。

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