• 2007/01/19 掲載

「デジタルネイティブ」からITのトレンドを学べ--ガートナー 山野井 聡 氏

ガートナージャパン グループバイスプレジデント 山野井 聡 氏インタビュー

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Web2.0に代表されるように、コンシューマーベースの新しいテクノロジーが一気に広まった2006年。こういったIT業界の動向を踏まえ、経営側は一体どんなことに注視していかなければならないのだろうか? 今年から直近で行うべきこと、さらに中長期視点で注目していかねばならないこと、ソーシングビジネスの展望などについて、ガートナージャパン リサーチグループのバイスプレジデント、山野井 聡 氏に話を聞いた。

新入社員を含めた25歳以下の若手社員が、
どんなテクノロジーを使っているのかに注目

ガートナージャパン グループバイスプレジデント 山野井聡氏
ガートナージャパン グループバイスプレジデント
山野井 聡 氏

外資系コンサルティング会社、外資系証券会社などを経て、
現在ガートナージャパンにおけるリサーチ部門を統括。
自らもアナリストとして、ITサービス市場の動向を分析。
専門はソーシングビジネス。

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──2006年を振り返って、IT業界で特に印象に残ったトピックは何ですか?

 特に何かひとつを挙げることは難しいですが、たとえばGoogleによるYouTubeの買収や、Winny裁判の結果、TIME誌の「今年の顔」が一般の消費者であったことなど、一連の流れを見ると、コンシューマーがたいへん強い存在になってきた印象がありました。従来は企業のテクノロジーがIT業界を引っ張ってきたわけですが、インターネットの登場により、この5年ぐらいで状況が大きく逆転してしまった。むしろ一般消費者の使っているテクノロジーのほうが先行している。これをGartnerでは"コンシューマーIT"という表現を使っています。今後は企業がエンタプライズのテクノロジーをコンシューマーIT側に寄せていくようなアプローチを取らなければならなくなってきました。

──コンシューマーITの中、経営サイドは何に注目していく必要があるのでしょうか?

 まず経営サイドというのは、CIOとそれ以外の経営層の方に分けて考えたほうがよいでしょう。まずCIOの視点では、いま社内でユーザーがどのようなテクノロジーを活用しているのか、彼らがビジネス上でどのような成功要因を求めていて、それを実現する評価基準として何を求めているのか、『顧客志向』に立ち戻りしっかり理解していく必要があると思います。一方、他の経営層は、新入社員を含めた25歳以下の若手社員が、どのようなテクノロジーを使っているのか、可能であれば16歳未満の子供たちが日常でどのようなテクノロジーを使っているのかという点にも意識を向けてみるとよいかもしれません。 さらにそれを自分で使ってみるのが理想です。

──なぜ若者の日常に注目する必要があるのですか?

 我々は特に16歳未満の子供たちのことを"デジタルネイティブ"と呼んでいます。彼らは物心ついたときからデジタル環境が身の回りにあり、それを当たり前のように使っています。彼らの行動特性は、日常生活でITに「耽溺(たんでき)」しているユーザーとしては、ある意味最先端でしょう。テクノロジの心地よさを直感的にわかっている世代でもあります。まず、そこにはITを駆使した様々なビジネスのネタが潜んでいる可能性が高い。

 もう一つの視点は、従業員もまた一消費者であるということです。昨年からWeb2.0というキーワードが語られている背景のひとつは、個人が「自らの能力を高めていきたい」「いまより明日をもう少し賢く生きたい」、そしてその結果を「世界に発信していきたい」といった気持ちを安価で快適にサポートできるITのしくみが整備されつつあるということです。従業員に対しても、今後はこのような形でコミュニケーションやコラボレーションのニーズが生まれてくるでしょう。ナレッジマネジメントの重要な変化があり、いかにナレッジワーカーとして従業員やスタッフの生産性を上げていくか、経営者側も意識すべきだと思います。その際にいまの若い人が使っているテクノロジーが役に立つ可能性があります。

──経営者はどのテクノロジーを拾い上げればよいのですか?

 テクノロジーの取捨選択という観点でいうと、実はどれが使われてくるのか、まだ分からない状態です。検索、BlogやSNS、あるいはAjax、RSSといった様々なテクノロジーを駆使して、このような環境をつくることが求められると思いますが、まずは彼らの行動特性、テクノロジーに対してネイティブな状態でどのような活用をしているのか、それらをしっかりと知る必要があるのかもしれません。

 その上で、たとえばテクノロジーを選択するとすれば、mixiのようなコミュニティやコラボレーションのあり方は注目に値する好例だと思います。いかに社員の持っているナレッジを集約して最適化していくか。SNSで使われているテクノロジーをうまく利用できる可能性があると見ています。ただし、そのような環境を社内的にうまく構築して方法については、まだ曖昧な点も多いでしょう。

社内でリスペクトされているCIOは、
情報設計やプロセス設計を重視していることが多い


──ソーシングビジネスの今後の展望について教えてください

 国内のソーシングに関しては、今後もアウトソーシングのニーズは高いでしょう。ただしその一方で、ベンダーやプロバイダーにまる投げしてきた反動が起こっていると思います。米国のように極端な形でアウトソーシングからインソーシングへ戻ることはないでしょうが、透明性を求める動きは強くなってくるはずです。具体的にはITIL(Information Technology Infrastructure Library)に準拠したプロセスの可視化や標準化、SLA(Service Level Agreement)を組んで、きっちりとパフォーマンスを管理していく流れは強まると思います。

──2007年以降、IT管理者は企業内に抱えるべきでしょうか?

 個人的な見解としては、経営戦略や調整・判断が求められる業務については、なかなかアウトソーシングができないと思います。同じ業務の中でも階層のようなものがあり、やはり上位層はインソースすべきでしょう。それから戦略面で、たとえばデータのアーキテクチャや情報設計、ビジネスプロセスの設計などは内製化の方向が強まると思います。

 もちろん、知見のない方は外部コンサルタントのアドバイスを受けることはあるでしょうが、まるまるそれを外に出すことはありえない。社内の情報シスの役割もこれから徐々に変わってくるはずです。従来はテクノロジーが中心でしたが、その割合が減って、情報設計やプロセス設計など、テクノロジーがあまり関与していなくても、企業の核となりうるスキルの部分が特にインソースされるようになる。その一方でテクノロジーに関するファンクションは逆に外部に任せることが多くなるでしょう。

──インソースで企業の核を担う人材の確保が重要になるということですか?

 そうですね。実際に社内でリスペクトされているCIOは、情報設計やプロセス設計を重視していることが多いようです。あるユーザーのケースでは情シスを鍛えて、専門集団に仕立てている。さらに別のケースでは、もっとユーザー側に寄せようと、情シスの子会社をいったん解体して社内に吸収させ、現場に張り付かせている。エンドユーザー部門にリエゾン(合体)させるアプローチをとったり、逆にエンドユーザー部門からIT部門に転籍してもらい、業務知識を生かせる部門で活躍させるなど、人の入れ替えをしているケースもあります。これも長期的な戦略が必要ですが、情シス部門をより上流に集約していくミッションを持っている会社は、3年から5年ぐらいのスパンで結果を出しているケースが多いようです。

──これらの施策については、来年から取り組んでも遅くはないでしょうか?

 ええ。いま情シスがどういう業務にどれぐらい時間を費やしているか、自前で一回調査してみるとよいでしょう。情報設計やプロセス設計にかかる時間が少ないと思ったら、毎年25%ずつでもよいので増やしていく。そうなってくると、たぶんシステム業務もどんどん広がって、どこかで飽和してくる。その際に、アウトソーシングというオプションが真剣に考えられてくると思います。  アウトソーシングで注意すべき点は、各サービスごとに納得できる価格に落とし込んで、ベンダー側とWin-Winの関係をつくらなくてはいけないということです。そのために実際のプロセスやパフォーマンスを徹底的に可視化することが不可欠です。さらにエンドユーザー側も巻き込んで無駄な部分を省いていく。本当に重要な高いサービスレベルを要求される領域と、そうでない領域について、エンドユーザー、IT部門、プロバイダー、この3者間でしっかり合意を取っていくこと、これが第一ステップになると思います。

 その後は地に足をつけて、経営層とユーザーの信頼関係を築いた上で、コンシューマーベースの新しいテクノロジーを導入していくという順序になるでしょう。既存システムをうまくランさせる際には、ベンダーの力を借りることになるので、そのサービスレベルを適正化していくことが必要なのです。


聞き手/構成:編集部 松尾

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