LCCのバニラエアは、いかにして「半年で数億円」のWeb改善を実現したのか
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LCCの生命線「Webサイトの改善」に取り組むバニラエア
バニラエアは、ANAホールディングス100%出資の日本で唯一の純和製LCCとして、国内は札幌・函館・東京・大阪・奄美大島・沖縄、海外は台北・高雄・香港・ホーチミン・セブへと翼を広げてきた航空会社だ。厳しい競争が繰り広げられるLCC業界で勝ち残るためには、顧客に安価な輸送サービスを提供するとともに、徹底した合理化やコスト削減を進めることで収益を確保していかなければならない。
そのために重要なのが、顧客獲得の最大のキモになる生命線、Webサイトの改善である。事実、同社の2015年における売上のうち、9割を占めていたのがWeb経由からの収入だ。
しかし、同社では前述のような厳しい競争環境に置かれており、Webサイトの運営に携わる人的リソースが慢性的に不足している状況だ。バニラエア 営業部/販売企画グループ デジタルマーケティング プロデューサー小宮源太 氏は、Webサイトの運営状況を説明する。
「弊社のWebサイトは比較的大規模なのですが、マネージャー、プロデューサー兼ディレクター(小宮氏)、エンジニア、デザイナーの4人で、Webサイトの運営すべてを回していました。予約フローや広告運用については開発会社や広告代理店と協力し、主にオンラインでコミュニケーションを行っていました」
バニラエアをはじめとするLCCは、その特性上、座席の予約数などによって、急きょWebサイトでのキャンペーンやプロモーションを打つことも多い。常に迅速なオペレーションが求められている仕事は、内製でスタッフが対応するしかなかったのだ。
「肌感覚ではなく、数値的な指標を根拠に改善の施策まで落し込みたいと考えていました。もちろん、それを実行するには膨大な時間とリソースが必要になるので、現状の社内での体制では実現できませんでした」(小宮氏)
そこで同社は、1年前からWebサイトの抜本的な改善に乗り出す。Webをモニタリングし、データ分析から施策を練り、実行していくというサイト改善の「PDCA」を回すために、これらのアウトソーシングを決断。結果として同社は、わずか半年足らずで億単位の改善成果を得たのだ。
PDCAを回すと分かるWebサイト「導線の金脈」
USERDIVEは、Googleアナリティクスのように、単にWebサイト全体を分析するのではなく、Webサイトの各ページに訪れるユーザー行動を、ひとつずつヒートマップで可視化するツールだ。クリック、スクロール、ルッキングのほか、ユーザー属性ごとに行動の差を見い出し、サイト改善に役立てられるフィルター機能など、多様な機能を備える。
「しかし、どんなツールでも、導入しただけでは期待した成果を得られません。導入後に、いかに改善のPDCAサイクルを回し続けていくかという点も重要です」と語るのは、UNCOVER TRUTH COO 小畑陽一 氏だ。
UNCOVER TRUTHでは、ツールの提供だけでなく、コンサルティングによって企業のWeb改善を支援している。具体的には、ログ分析、KPI設計を行い、USERDIVEによるヒートマップ分析後に、課題を抽出し、改善の施策を練る。そのうえでUI/UXのA/Bテストを実施し、効果を検証するという流れだ。
小畑氏は「このプロセスのうち、後半のヒートマップ分析から効果検証までの一連のPDCAを回すことが大きなポイントです。実際のWebサイト運用では、このサイクルを毎日絶え間なく継続的に回して行くことが非常に難しいのです。そこで我々は、PDCAプロセスまで支援するサービスを提供しています」と説明する。
同社のコンサルティングでは、ログ分析を例に取っても、コンバージョンレートや各ページの売上率などの一般的な数値を追うだけではないと、小畑氏は次のように強調する。
「我々はWebサイトの導線の『金脈』を探します。具体的には、サイト内のどのページを改善することで、売上を最大化できるかの優先順位付けを行い、ビジネスインパクトが大きい順に改善をしていく、という点に注力しています。そこで専門アナリストとディレクターが、お客さまと二人三脚になって、Webの改善活動を実施しています」
スモールスタートで結果を出し、他の領域に広げることが成功の鍵
では、実際にUNCOVER TRUTHのソリューションを導入したことで、バニラエアのWebサイトと制作体制はどう変化したのだろうか? 小宮氏は次のように語る。「もともと、日々現場や自分たちのアイデアなどを反映させながらWebサイトを改善していたので、すっきりしたUIを維持することが難しく、良い意味で『シンプルさ』が無くなっていました。ヒートマップやコンサルティングの結果を共有し、相互の認識を深めることで、新しいことにチャレンジしていけるようになりました」
ヒートマップには、視覚的に誰にも理解しやすいというメリットもある。小宮氏は「そのため、Webサイトで何が起きているのかを上層部に見せて、理解してもらえるようになりました」と振り返る。実際に同社では、会長や社長の経営層を含め、社内理解を広く得ることにもつながったそうだ。
とはいっても、最初の頃はゼロからのスタートで予算を確保しなければならなかった。まずトライアル期間を設けたことも大きなポイントだったという。
「特にチームが管理するWebページ、たとえば私の場合は、広告LP(ランディングページ)を自分の権限で試せたので、そこから『スモールスタート』して、まず成果を出しました。そのうえで、徐々に大きい範囲への展開を提案していきました」(小宮氏)
すると周囲も成果について納得し、経営層からも「あのページも試してみてはどうだろうか?」と、逆に意見が上がるようになったそうだ。できるだけ開発費などが発生しない領域から始め、費用対効果を訴求することで予算を獲得する、というアプローチが可能になったわけだ。
ヒートマップで得られた知見を活用した「代表的な改善例」
実際にバニラエアのWebサイトでは、さまざまな改善が行われた。たとえば、スマートフォンページでタップされている箇所を示すヒートマップから、ユーザーがタップしている箇所が把握できる。この機能によって座席指定のページを見ると、新たな気付きが得られたという。「実は、予約遷移内の座席選択のなかでスタンダードシート(普通席)やリラックスシート(足元の広い座席)にタップが集中していました。サイト上のサービス説明ページでは座席種類の説明はしていたのですが、いざ予約画面に来てみると、どんな座席なのかを理解できていない方が多かったわけです。そこで両方の座席をタップできるように変更し、追加料金も含めた訴求ができるようにしました」(小宮氏)
また航空券の料金は、荷物の重量などのオプションサービスによって、金額も変わってくる。サービス追加ごとに、料金を明示することでお客さまに納得してもらい、最終的な料金表示で期待を裏切らないように工夫を凝らしたという。
一方の国際線就航では、現地スタッフの情報から、ある程度のことは理解していたつもりでいたそうだ。たとえば「台湾のWebサイトでは低価格な運賃が最大の訴求ポイント」という仮説を共通認識として持っていたというが、ヒートマップを比べてみると、台湾のお客さまは低価格な運賃を訴求しても、意外に慎重だということがわかったという。
「実は台湾には、Webサイトでセールに訪れたあと、サイトを回遊して、どのようなサービスを受けられるのか、料金体系などをしっかりと調べているユーザーが多かったのです。そこでサイトを改善し、下側にあったメニューを最上位に移動し、知りたい情報にアクセスしやすくなるように変更しました。A/Bテストを実施した結果、改善ページがより良い結果を得ました」(小宮氏)
従来の大前提にとらわれることなく客観的な目で新たな気づきを与えてくれる。それが、ヒートマップやデータの大きな力といえるだろう。